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幕切れ


おはようございます

 


 次なる行動に移ったのは、互いに同じタイミングだった。僕は力一杯舵を反時計回りに回転させ、矛を地面に突き刺す。これが僕が今できる最善かつ最強の流れだった。

 それに対して琴町は、僕の動きを不審がる様子はなかった。明らかに何かの布石である行動であるのにもかかわらず、真っ直ぐに突っ走ってくる。


「くらえや!」


 そう言い、地鳴りのするなか、琴町は炎の纏う手を上げ、


「火天流星群!」


 なんだそれは? そう疑問に思っているうちに、地面がピキピキと音を立てて、割れ始める。しかしすぐさま琴町はそれに気がついたようで、


「これ、やべーな」


 そう言い、数回に分けて後ろへ飛んだ。それにより、僕と琴町の間は五十メートルほど開いた。そして次の瞬間に、地面が大きく開く。今回は僕の巻き込まれそうだったので、少し下がったくらいだ。だが、琴町の方も逃れたらしい。


「うぉっ、すげーな」


 矛の作り出した峡谷を覗き込み、琴町がそう漏らす。しかし僕は下ではなく、顔を上げて空を見ていた。

 その理由は、琴町の放った「火天流星群」という言葉の、流星群にあった。流星群について何を知っている訳でもないが、少なくと空から降ってくるものだということはわかる。

 つまり数秒後か数分後かに、それが降ってくると予想するのが最適だろう。

 ならば対策はどうする? 残り時間も範囲もわからない以上、百パーセントの確率で得策をとることは不可能だ。ではどうする。

 と、熟考しているうちにあることに気がついた。


「琴町が動いていない」


 これまでの仕草や行動で頭脳派ではないことを知った。ならば、かなり迂回してでも僕に攻撃しようとするはずだ。しかしながら、今の琴町は何を言っているのかは不明だが、何やら会話しているようだ。

 つまり攻撃の姿勢を見せていないということ。


「⋯⋯」


 流星群という名のつく必殺技は、広範囲にわたる攻撃だと相場がきまっている。おそらくは今回も例に漏れずにそうなのだろう。そして発動者である琴町は、必殺がもたらす被害に遭わない場所を知っている。

 ならばとるべき行動は自ずと見えてくる。


「じゃああの辺が安全圏か」


 そうとわかればあとは簡単だ。地面に突き刺していた矛を抜き、僕は走り出す。縦に長く空いた大穴だが、横にはさほど広がっていない。


「⋯⋯えっ!?」


 不意に空を見ると、青空と雲とそれに加えて赤い夕焼けのような色が足されている。それから徐々に赤色の割合が多くなっていく。そしてついに、雲間から大岩が次々と姿を現す。あんなものに当たれば、即死だろう。

 しかし、僕の憶測通り、琴町には当たらないように放たれている。つまり彼の近くが安全地帯であることは事実だった。


「おうおう、俺との勝負に来やがったか!」


 近く僕に対して、満面の笑みを浮かべながら琴町が言う。しかし僕としては、そもそもの選択肢に、あの隕石を迎撃するというものはない(というか不可能だ)。


「矛ねえ⋯⋯、対等でなければ勝負は面白くねーよな!」


 ちょうど峡谷の直線の半分に差し掛かったころ、二つのことが同時に起きた。

 まず一つは、後方でついに隕石か地面と衝突したことだ。激しい爆風を背に受け、バランスを崩しかけるが、なんとか手をつき持ち堪えて走る。

 二つ目が琴町の手を覆っていた炎が変化し始め、ついには僕の持つ矛と同じ形状の武器になった。そこで琴町が対等と言った意味がわかった。

 ここまでくると、本当に馬鹿だなと呆れるばかりだ。

 しかし状況は僕に追い風しているようだ。矛と矛の勝負となった今、流石に僕の惨禍の矛ディサイド・カタストロフィーの方が、あんな即席の物よりは性能は上だろう。

 それに加えて、琴町は宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)によって不幸になっているはずだ。

 劣るとすれば、身体能力くらいなものか。明らかに身長も体格もあちらに軍配が上がっている。それがどのような影響をもたらすのかはやってみないとわからない。


「おう、じゃあ始めようぜ」


 今回も僕が琴町と相対するまで、待ってくれていたようだ。


「そういや、お前名前は」


 たしかにそういえば名乗っていなかったな。


「僕は誘井康太、そしてパートナーのフォルトゥナだ」

「よし、じゃあ康太! どちらがが死ぬまでやりあおうぜ!」


 僕と琴町は同じタイミングで距離を詰めた。互いに同じく矛を振り上げ、目一杯振り下ろす。そして二つの武器は、すぐさま衝突する。

 しかし案外あっさりと勝敗が決した。


「なにっ!?」


 僕の惨禍の矛ディサイド・カタストロフィーが、琴町の持つ炎の矛を軽々と粉砕したのだ。そのまま追撃をしようとするが、


「ちっ!」


 琴町が舌打ちと共に、手を下から上に動かす動作をした直後、一瞬にして炎の壁が完成する。それは十メートルほどの高さまで至っている。

 どうやらこれを飛び越えることは不可能みたいだ。

 逃げたのだろうか? その答えはすぐに出た。


「待たせたな!」


 炎の壁が消滅したかと思うと、その向こうから朱色の両手剣を手にした琴町がゆっくりと歩いてきていた。


 ———————————————————————————


「お前のその矛はたしかに強い、だが俺のだって負けてない」


 そう言い、その両手剣を掲げる。その剣は、まるで血がついているかのように、赤く染まっている。クレイモア的な感じだ。


「これの名前は⋯⋯なんだっけか?」

火天累加乃剣(カテンルイカノツルギ)だ」


 ここへ来て初めてアグニが言葉を発した。低く、安心感のある声だと思った。いかにも真面目そうで、冗談の通じない頑固者っぽい。それではあの脳筋バカの琴町とは相性が悪いのではだろうか。少しだけ心配になった。


「さあ、第一ラウンドのようにがっかりさせねーよ、今回は」


 その顔は決意に満ちている表情にも見えれば、とにかくこの状況を楽しんでいるように見える。

 おそらくは先ほどのように、拍子抜けするほどあっさりと勝敗が決まることはないだろう。今度こそ、どちらかがゲームオーバーになるまで戦い続けることになる。

 そう考えると、不思議と鼓動が速くなっているのがわかる。


「大丈夫ですよ。私の力を信じてください」


 そんな僕を気にかけてか、フォルトゥナが柔らかな声で緊張を解きほぐそうとしてくれた。その通りだ。この神は負けたことがないのだ。ならば僕だって負けるはずない。

 しっかりと相手を見据えて、一挙一動に神経を研ぎ澄ませる。どちらが動くのか、それすらも勝敗に関わる可能性があるために、無闇に攻撃を仕掛けることができない。

 息を呑み、目にかかる前髪に少し苛立ち、頬をに当たる微風が心地良い。

 そんな短くも長い時間は、呆気なく終わりを迎える。


「誘井ー、買ってきたよー!」


 後方で声がする。琴町のことで頭がいっぱいで宮里のことをすっかり忘れていた。少し後ろを振り返ると、宮里がこの状況を見てあたふたしている。


「ちょっと、何よこれ──って、戦ってるの?」


 辺りを見渡し、僕が男と相対しているところを目撃してそう叫ぶ。


「邪魔が入ったな。今日のところは、これくらいにしとくか」


 琴町も宮里の存在に気が付き、顔をしかめたのちに頭を掻きながら立ち去っていった。そして僕も背を討つようなことはしなかった。


 ———————————————————————————


 それから僕は、琴町とのことを話しながらあるものを探していた。それはもちろん山のように積んでいた金貨だ。

 ちょうどそれを置いていた場所は、琴町の火天流星群によって地面が抉られている。普通に考えれば無くなっているのだろうが、


「──ッ! あった!」


 奇跡的と言ってもいいくらいに変わらない姿で、金貨は積まれていた。それを発見した瞬間、宮里は大事そうに買ってきたばかりの二つの赤い袋と青色の袋に分けて入れた。

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