表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

新たなる敵

 


 最終的に地割れが治まった頃には、峡谷のようになっていた。ここを通るにはかなり迂回しなければならないほどだ。


「ちょっとやり過ぎなのでは?」


 百体余りのモンスターを倒すためだけに、こんな大穴を開けていては、地形を破壊しすぎる。それに加えて、モンスター討伐の目的である金貨集めも、奈落の底へと落ちてしまえば、取りに行く術がない。


「いえ、これは危機に瀕した時用の、奥の手として使ってください。通常時はその矛を振るうだけで、大抵のモンスターは倒せることでしょうから」


 たしかにそれならば納得がいくが、それにしても甚大な被害をもたらす矛だ。横で見ていた宮里も驚きの余り、間抜けな顔をしている。しかしながら、もうすでに僕の目にもわかるほどの距離にモンスターが迫ってきている。

 宮里もその様子をすぐに視認したようだが、僕はそれを静止する。なんとなく、この矛自体の威力を試したくなったためだ。


「ここは僕に任せてくれ」


 そう言い残して、僕は走り出す。自分でも身のこなしが軽いことがわかる。これが人神化の影響なのだろう。

 しかし、速さだけでいえばモンスターの方に軍配が上がっているようだ。走り出してから数秒後、僕はモンスターの集団と衝突する。

 矛を両手で強く握り、大きく振り上げる。正直それが正しいのかはわからないが、とりあえず無我夢中でそれを振り下ろす。

 だが、


「ええええええ!」


 矛先が先頭を走っていたモンスター(牛型)に触れた瞬間、あまりの手応えのなさを感じる。それはモンスターの胴体を両断した後も、それほどの手応えはなく、僕は次々となぎ倒していく。

 それは最後の一体を倒し終えた後も、何かやってのけたという達成感も、疲労感もなく、全く何をしていたのかわからないくらいだった。


「その矛の凄まじさを思い知りましたか?」

「ええ、それはもう」


 凄まじいというか、チートというか、どちらにしろモンスター相手には負ける気がしなくなってしまった。


 ———————————————————————————


 それからというもの、ひっきりなしに襲ってくるモンスターを宮里と二手に分かれて討伐していった。僕の矛もさることながら、やはりテュポーンの力の強大さも実感した。

 目で追えないスピードでモンスターに近づき、地面をも砕く威力ほ殴打をお見舞いする。

 威力だけでいうならば、僕の矛の方が上だが、スピードに関しては足元にも及んでいない。

 しかしまあ、味方として背中を預けるだけで考えれば申し分ないのだが。


 結局、一時間で倒したモンスターの数は合計で千七百五十二体、つまり得たお金はなんと、十七万五千二百ネセサリーになる。


「かなりの大金ね」


 すでに手やポケットには入りきらなかった。しかし金貨を入れるための袋があるはずもなく、僕たちは考え、とある結論に至った。


「私が速攻で買ってくるわ!」


 これぞ疾風迅雷の見せ所──ではないのだが、用途には合っているだろう。

 つまりこういうことだ。二人で集めた金貨の山を僕が見張っている間に、宮里が袋を買いに行く。ちなみに、この位置もすでに地図にオートマッピングされているようだ。そのため、迷う心配はない。


「じゃあ頼んだ!」

「持ち逃げしたら、世界の果てまで追いかけて、ぶっ殺すわよ」

「あはは、そんなことしないよ」


 綺麗な顔が台無しなほど、眉間にしわがより、目つきが鋭くなっている。まあそういう考えもあるとは思うのだが、僕はそこまで下衆ではない。持ち逃げるとしても、せてめ半分は残していく。

 それに、今宮里とテュポーンを敵に回すことは得策でないことは、身をもって感じている。


「それならいいけど」


 何故かここに来て、疑惑の目を向けながら、宮里は商業エリアへと移動していった。

 それから僕は草原に腰を落とし、空を眺めた。雲がゆっくりと移動しており、時折吹く風がとても心地よい。暑くも寒くもないからっとした風だ。

 少し眠ろうと思ったが、どうやら睡眠という行為を必要としない体らしく、眠気がやってこなかったためにやめた。そして再び、空に視線を移した。


「神でも雲を食べてみたいと思う物ですか?」


 人間一度は、あの柔らかそうな雲を手に取り、一口頬張りたいと思うものだ。


「そうですね。あの上に寝転がって、寝てみたいとは思ったことはありますね」

「たしかに、気持ちよさそうですね」


 そんな他愛もない会話をしていると、足音が近づいてきた。


「ああ、宮里お帰り」


 そう言い、振り返ると──


「待ち人じゃなくてすまんな!」


 そこには、美少女である宮里とは似つかない男が立っていた。


 ———————————————————————————


 その男は、髪を赤く染めて、大胆に筋肉のついた胸元を開いた服を着ている。これはどうみても黒のショートカットで、和風美人な宮里ではない。


「誰だ!」


 僕は即座に立ち上がり、大きく後ろへと飛んで距離をとる。


「俺は琴町蓮銅だ、そして優秀なパートナーのアグニだ!」


 やはり彼も僕と同じゲームの参加者(巻き込まれての)なのだ。そしてパートナーである神はアグニと言った。


「フォルトゥナ、アグニって知ってる?」

「ええ、火を操る神の一人です」


 すでに一触即発しような状況下で、フォルトゥナは簡単に答えてくれた。つまり火を駆使して戦うというわけだ。


「その通りだ。しかしながら俺も火力の調整が今ひとつできなくてな。どうやら負けても死なないらしいから、恨むなよ!」


 明らかに攻撃態勢に入った。それと同時に両手を炎が纏った。熱くないのだろうか? そんな疑問を抱きながらも、この場合の対策についても考えていた。

 現在僕が持つ武器は二つ、幸運と不安を操る宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)と、触れた物体を不幸に陥れる惨禍の矛ディサイド・カタストロフィー

 この二つを比べた時の利点と欠点を出来る限り思い浮かべる。


 まず宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)の利点は、そもそも初見の相手には、その舵がどのような効力をもたらすのかわからないはずだ。

 となれば、相手の性格にもよるが、琴町という男は外見と口調から推測するに、脳筋バカだ。となると、危険顧みず突っ込んでくる可能性が高い。

 そうなれば、やはり直接的な攻撃手段ではない宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)を使うのは危険か。

 では惨禍の矛ディサイド・カタストロフィーではどうだろうか。

 そもそも、不慣れな武器であることは明らかだ。矛というのは扱うことが難しく、そういう人々は昔から槍が渡された。軽量で、突くだけで相手を殺せるからだ。

 しかし今回は矛だ。ただ大振りするだけでは、簡単に避けられてしまう。だがあの不幸を呼ぶ矛は、斬りつけるだけではないのだ。


「そんなに深々と考えずとも、両方出せばいいのではないですか?」


 僕の思考中に、フォルトゥナが斜め角度の提案してきた。たしかにそれが可能ならば言うことなしだが──


「できますよ、私は神ですよ」


 ならばそれで即決だ。


「こい! 宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)、惨禍の矛ディサイド・カタストロフィー!」


 そう僕が叫んだ瞬間、快晴の空が曇り、僕に向かって一筋の光が当たる。そんな空を見上げると、二つの物体が落ちてきている。そしてそれは、見事に僕の足元に落下した。右に矛、左に舵、これぞ満足セットというやつか。

 僕は地面から矛を抜き、舵に手を置く。


「待ってもらってすみません。僕の方も準備万端です」


 意図的か感情的かはわからないが、どうやら僕の準備が整うまで待ってくれていたようだ。


「俺は正々堂々戦いたいんだよ」


 どうやら後者で、おまけに馬鹿で、さらにおまけで脳筋バカだということがわかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ