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二つ目の武器


今更ですが、二人の基本情報から。


誘井康太(いざないこうた)十六歳。


特徴なし、特技なしの当たって平凡な男子高校生。


最近起こった出来事は、三つ年下の妹の反抗期が始まったこと。



宮里真恋(みやざとまなこ)十四歳。


特徴は美少女でありながらも、勉学や運動全てにおいて秀でている秀才。

特技は大抵のことを一回やればマスターしてしまうこと。


最近起こった出来事は、童顔であるが凛とした佇まいであるため、近所の人から何歳なのかわからないと言われたこと。

 


 その店は狭く薄暗かった。完全に光を取り込もうとしておらず、唯一の明かりは店の最奥にあるカウンターの台の上に置かれたランタンだけだ。


「あなたなにをお求めで?」


 そしてその方向から、女性の声が聞こえてきた。おそらく店主だろう。僕はそれに呼応した。


「あの、ここはアイテムを売っている店ですか?」


 僕はそう尋ねた。すると、女性はランタンを手に立ち上がりこちらはやってきた。


「その通り。私はこのゲームのマスターであるアテナです。どうぞお見知り置きを」


 綺麗にお辞儀をする女性。しかしなんと美しい方なのだろうかと、僕は驚きのあまり硬直した。

 長く艶やかな髪は、丁寧に梳かれており、とても美しい。それに、慈愛に満ちた瞳はちゃんと僕(話し相手)を見ており、不思議と心の栓のようなものが外れて、なんでも言ってしまいそうになる。

 しかしながら、


「お久しぶりですアテナ!」

 僕よりも先に言葉を発したのは、フォルトゥナだった。何故か威圧的な口調でそう言った。


「その声はフォルトゥナですか? ええ、久しぶりですね」


 反してアテナは、変わらずおっとりとした口調で返答した。


「ここに来た用件は単純明快、このゲームを優位に進めるためのアイテムを買いに来たのです!」

「ふふ、それではじっくりと商品をご覧くださいませ」


 そうしてアテナは指を鳴らす。すると、店内の電気が一斉にオンになったようで、店は明かりを取り戻した。

 そのことにより、店の全容が見える。

 店内は縦に長く、その代わりにかなり高くまで商品が並んでいる。僕は宮里と手分けして、商品を見て回った。


「剣に盾に、防具にステッキまである!」


 やはりそういった類の物は憧れである。炎を纏う剣、魔法を繰り出すステッキというファンタジー的な武器、それが今眼前にあるとなれば、手が伸びるのは必然的だが──


「高っ!」


 武器の手前に置かれいる値札を見て、僕の目は飛び出た。なんとその価格十四万ネセサリー。


「やはり人神化して身体能力、防御能力が上昇した状態で戦うとはいえ、高火力の炎に触れれば火傷をするし、魔法のステッキを振り、巨大な氷柱を出現されれば相手は怯む。

 故にそれは戦闘において、一枚も二枚も上手に立てる武器なのです。たしかに高額ですが、優勝賞金に比べれば微々たる物ですよ」


 商品棚の一番上にある剣とステッキを見上げて、口を開けている僕にアテナはそう言った。


「そういえば、先程ゲームのマスターと言っていましたけれど、あれはいったいどういう意味なのですか?」

「そのままの意味ですよ。私がこのゲームのマスター。いわば最高責任者といったところですかね」


 なんでそんな人が、こんなところで店屋を営んでいるのだろうか。


「あなたの疑問はわかります。しかしながら、蚊帳の外というのも寂しいではありませんか。だから、こんな見つかりづらい場所で、なおかつひっそりと経営しているのです」


 つまり僕たちがここを訪れたということ自体が奇跡に近いというわけか。これもまた、フォルトゥナの力の影響なのだろうか? 

 本当に頼れるのか、頼れないのか、どちらなのかわからない。


「じゃあ、四千七百ネセサリーで買えるものってなにかあります?」僕は率直に尋ねてみた。「どんな物でもいいので」


「そうですね⋯⋯では、こういうのはどうですか」


 そう言いアテナは棚からある小瓶を手に取った。


「これはモンスターを引き付ける香水のようなものです。例えるならば、またたびのような感じです」

「つまりそれを振りかけることで、モンスターを討伐する効率を上げるということですね?」

「はい。効力はだいたい一時間ほど続きます。その間に大量のモンスターが襲ってきますので、無理しない程度に討伐してネセサリーを回収していただくという商品になっております」


 ちょうどアテナの説明が終わった頃に、落胆した宮里が帰ってきた。


「さすがに四千ちょっとでは良いのはなかったよ」

「そのことなんだけどさ、良いのがあったよ」


 そうして僕は宮里にその香水の効力を説明した。


「じゃあそれにしよう」


 宮里の承認を得て、その小瓶と四千七百ネセサリーとこうかんした。実際この小瓶の値段は五千ネセサリーだったらしいのだが、三百ネセサリーは値引きしてくれたらしい。

 そんなアテナの行いに感謝しつつ、店を後にした。


 ———————————————————————————


 そして舞台は再び草原に移る。


「よし、じゃあ誘井、香水よろしく」

「あっ、僕にかけるのね」

「当たり前でしょ、女にそんなことさせるなんてあり得ないでしょう」


 まあしょうがないか。と思い──というか思い込み──僕は香水を手首につけた。

 そしてその部分を嗅いでみると匂い自体に変化はなかった。しかし数秒後、


「康太、敵が接近中。その数百体近く!」

「真恋、こちら同数の敵が来ているぞ」


 僕は右、宮里は左を見ていたのだが、その両方から敵が接近しているみたいだ。そしてその数は前回の比にならないほどらしい。


「フォルトゥナ、どうしよう?」


 百体近くとなれば、先頭を転がすだけで全滅されるのは不可能だろう。つまりそれ以上の手段を持ちいらなければならないということになる。


宿命の舵(フォルトゥナ・ラダー)では不服なのですか? ならば第二の武器を授けましょう」


 その言葉に僕は心躍った。やはり勝つことも重要だが、男たるもの同じくらいの比率で格好の良さも重要なのだ。

 正直なところ、敵と衝突する前に運命に干渉して相手の負けを決めるというのは、些か格好の良さに欠ける。


「第二の武器を簡潔に言うならば、それは敵の運を両断する矛。その名も惨禍(ディサイド)の矛(・カタストロフィー)。普通の人間にすればかなりの重量ですが、人神化している今ならば、まるで木の棒のように振り回せます。さあ、その名を叫ぶのです!」

惨禍(ディサイド)の矛(・カタストロフィー)!」


 フォルトゥナが言った言葉を、目一杯叫ぶ。すると快晴だった空が雲が出現し灰色に変化していく。

 そんな異常な現象に驚いていると、突如空から何かが急激にスピードを上げて降ってくる。

 そしてそれは瞬きの間に、僕の足元に突き刺さった。


「これが惨禍(ディサイド・)の矛(カタストロフィー)なのか⋯⋯」


 その矛は禍々しさを醸し出していた。それは長い持ち手の部分が黒く染まっているせいなのかもしれないが、たしかに厄災を呼びそうな雰囲気を感じる。

 僕はそんな矛を手に取る。冷たい持ち手を握り、地面から抜く。

 完全にその全容を表すと、やはり「長いな」という印象を受けた。槍のように長い持ち手の部分なのだが、槍の穂先のように短くなく、どちらかと言えば刃の部分が圧倒的に大きい。


「何故矛なのですか?」

「その理由を大雑把に説明するとすれば、槍の場合突くという行為で敵を倒すのですが、場所が悪ければ、突き刺さっただけで終わる。それすなわち武器を失ったも同然ということです。では剣ならばと思ういますが、あれは間合いに余裕が持てず、多勢にかかられた場合に対処しようがない。

 そのため、ある程度の間合いを取れ、なおかつ特殊な動作を必要せず、ただ力の限り振り回すだけでなんとかなる矛を選んだというわけです」


 大雑把という割には、かなり丁寧な説明だったと思うが、なるほど。つまりこれを握るほとんどが、戦に出たことのない素人ばかりだと。

 そんな日々鍛練を積んでいない者にも、比較的簡単(人神化を前提として)に扱え、なおかつ強力な矛にしたということか。

 たしかに、人間とて野球のバッドを持ち、スイングしたことくらいはある。その用法をそのまま矛に適用して、向かってくるボールの代わりに、今回は敵を打てばいい。


「康太、来ましたよ」


 フォルトゥナの言う通り、前から先程の牛や今度はカバに似た化け物がやってくる。しかし僕はどう構えれば良いのかもわからず、ただ立ち尽くす。


「さて、今回はモンスターに攻撃するのもいいですけど、それでは時間がかかってしまいますので、応用してもう一度その惨禍の(ディサイド)(・カタストロフィー)を地面に突き刺してみてください」


 謎のフォルトゥナの提案に、戸惑いながらも僕は言う通りに地面に突き刺した。すると、徐々に地鳴りのような音が聞こえ始め、ついには轟音を立て始める。

 そして──


「これぞ、我が運命を操る業!」


 フォルトゥナが高らか宣言したと同時に地面が音を立てて割れ始めた。

 その裂け目は徐々に広がっていき、ついにはモンスター達さえも奈落へと飲み込んでしまった。



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