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敗戦濃厚

 


 それから僕とフォルトゥナは雑談を交わしながら歩いた。おそらく昼前の西洋の街、それを眺めているだけでなんだか旅行に来たような感覚でとても楽しんでいた。

 しかしそれも束の間、のんびりと歩いている僕の前方に突如として何かが落下した。


「なんだ!」


 それはかなりの衝撃を地面に与たようで、かなり砂埃が舞い地面が抉れている。しかし重要なのはそこではない、何が落ちてきたのかだ。

 まさか隕石が落下してきたわけでもあるまい。僕は目を凝らして、その正体を探る。


「いててて。もっとこう、華麗に登場するはずだったのに足滑らしちゃったな」

「いや、案外これも良いかもしれないぞ」


 砂埃の中で二つの異なった声が聞こえる。一つは若い女性の声、もう一つは声変わり後の男の声。

 それを自分の状況に当てはめて考えると、どちらが僕のようなこのゲームに巻き込まれた人間であり、もう一つが神のものと考えるのが妥当か。


「はっはっはっ!」


 砂埃の中から女性──いや、少女の声が聞こえる。それはかなり若く、僕よりも若いかもしれない。しかし今考えるべきは、相手の年齢ではない。何故ここに来たのかだ。

 このゲームは生き残り戦だ。順当に考えるのであれば、僕を倒し来たのだろうが、それにしては攻撃に移るまでが長すぎる。


「私は宮里真恋」

「そして我こそが、彼女を支える神テュポーンだ!」


 風が砂埃を上空に運ぶ。それは偶然に起きたものではないことは僕にもわかった。明らかに何者かの意思に従って、意図的に発生した風だった。

 そしてその意図とは、姿を現すことで、そしてそれを起こした何者かとは消えた砂埃の中にいた少女だろう。


「ええっと、僕は誘井康太で」

「そして私はフォルトゥナよ!」


 一応こちら側も名乗っておく。


「誘井ね。そして人神化している神はフォルトゥナ。ねえテュポーンは知ってる?」

「ああただの運の良いやつだ」

「じゃあテュポーンっとどっちが強い?」

「十中八九我だな」


 少女は淡々と神と会話している。しかしながら、外見から見るに中学生くらいだ。なのにもかかわらず、一時間程度の時間でこの状況を理解し、うまく適応しているとは僕とは大違いで驚きだ。

 それに意図的に風を起こせるとなると、フォルトゥナとは違って戦闘に向いた能力だと言える。


「フォルトゥナ、どうするべきだと思う?」

「テュポーンは神々の中でも無類の強さを誇る神だ。私では正面から立ち向かって勝つことは天地がひっくり返ろうともあり得ないだろう」

「冷静な判断は素晴らしいんですけど、なんか諦めてません?」

「そうですね。諦めることが先決かもしれません」


 声音は至って真剣だ。つまり本当に勝ち目が薄いということだろう。

 逃げるか? だが運悪くここは店が立ち並ぶ、そのため一本道だ。

 逃げるためには敵に背を向けるほかない。しかしそれほど無防備なものはない。しかし敵に向かって突っ込むこともまた無謀に他ならない。


「運良かったんじゃないんですか」


 これがもし入り組んだ路地にでも入り込めれば逃げ切れる可能性はあったのだろうけど⋯⋯。


「何が用件ですテュポーン! あなたならば私など簡単に退けられるはず、しかし真っ先にそれをしないと言うことは何か言いたいことがあるんでしょう?」


 僕の中のフォルトゥナが叫ぶ。それは僕の同感だ。

 自分より相手が格上である場合、相手が取る行動として多いのが油断だ。相手を侮り、先手を譲る。そして足元を救われる。

 しかし今回はそう言う感じではない。そもそも相手に戦う気があるのかすら疑問だ。


「うむ、まあその通りだ。我相棒である真恋の提案でな一時的に同盟を組まぬかという案なのだがどうだろうか?」


 僕は驚いた。たしかに仲間を作ると言うのは、こういった生き残りをかけたゲームにおいては上策だ。しかしながら、何故僕たちなのだろう? 


「何故私たちなのですか!」

「そりゃあ一番初めに目を止まったからだ。こんな広大なマップでそうそう人に会うものじゃないからな」


 これは運がいいと言えるのではないだろうか? まだこの段階では偶然か必然かを見極めるのは困難だろうが、どちらにしろ結果オーライというやつだ。


「そうですね⋯⋯それが得策と言えます。君──いえ、康太ここはテュポーンと手を組む方がいいでしょう」

「そうですね。わかった!」


 そうして僕は宮里という少女と一時的な同盟を結ぶことになった。


 ———————————————————————————


「この世界ではあらゆる欲求を必要としない。食べることも眠ることも。だから常に戦闘について考えていられるってこと」

「へえ〜、詳しいんだね」


 それから僕たちは再び歩き出した。風情ある街並みを横目に、宮里と情報交換を行う。しかし、僕が持っている情報はことごとく知っているようで、結果的には一方的に教えてもらうだけになってしまった。

 まずは基本情報からだ。


 宮里真恋、ショートカットが目を引く中学二年生の十四歳。人神化している状態なのだろう、服は背丈に合わない緑のローブだ。

彼女も僕と同じく学校からの帰宅中に突然意識が朦朧とし始め、その場に倒れ込んでしまったらしい。

 そして目を覚ますと見知らぬ部屋で、テュポーンと出会ったらしい。


「ところで、これからどうするの? このまま歩き回るのでは効率が悪いんじゃない?」


 一通りの質問を終えた僕は、そう尋ねた。マップはかなり広大だ。これを当てもなく探すのは困難を極める。


「となれば、お助けアイテム的な物があるのかな?」


 という結論に落ち着いた。


「あなた本当にルールブック読んでないの?」


 呆れ顔と驚愕が混ざった、よくわからない表情を向ける宮里。当初の予定では、この風情にあったカフェのテラスで読もうと思っていたのだが、その前にイベントが起きてしまったのだ。


「あはは、後で読もうと思って」

「はぁ⋯⋯。このマップはどうやら三つのエリアがあるらしいの。この何もない西洋エリアと、不気味なモンスターが沸くバトルエリア、それから店が立ち並ぶ商業エリアの三つに分かれているの」

「知らなかった」

「あなたの言う通り、このまま歩き回るのでは効率が悪いの。つまりはバトルエリアに出てモンスターを討伐する。そうすると、死体になったモンスターは自動的に換金され、そのお金は商業エリアで使用することが可能なの。

 そしてその商業エリアには数多くのアイテムが売られている」

「つまりはそれを買うと、戦いを優位に進められると!」


 宮里は頷く。どうやら本当にゲーム感が強いらしい。バトルロワイアルというよりは、MMORPGという認識の方がいいのかもしれない。


「どうやってバトルエリアに行くの?」

「三つのエリアに境はないの。全てが西洋エリアであり、バトルエリアであり、商業エリアなの。つまり指定された場所に行くのではなくて瞳を閉じて、行きたいエリアの名前を叫べば、そこに飛ぶ」


 つまり僕たちが移動するのではなく、世界が変化するということか。これも神の技なのだろうか。


「じゃあとりあえず目を瞑ってみて、とりあえずバトルエリアって心の中で叫んでみて」


 言われた通りに僕は目を瞑り、心中で叫ぶ。しかし何も起こらない。


「もう目を開けていいですよ」


 隣から宮里の声が聞こえる。その声の通りに目を開けると、


「うぁぁぁぁ!」


 一面の草原が広がっていた。


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