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ゲーム開始


いよいよゲームがスタートします

 


 僕は眩しさに目を瞑っていたようだが、どうやらそれも止んだようで、ゆっくりと目を開ける。するとそこは普通の家(机と椅子しかないけど)で、僕とフォルトゥナは向かい合うようにして椅子に座っていた。


「あの、ここは?」

「ここが我々が戦うフィールド、そしてこれが地図でこっちがルールブックです」


 机の上に一冊の本と地図が置かれている。フォルトゥナは本に手を伸ばしたため、仕方なく僕は地図を手に取り、眺めてみた。


「え、なにこれ」

「ああそれは一度行った場所が記される地図ですので、今現状なにも記されていなくて当然なのです」


 ルールブックを熱心に読むフォルトゥナがそう答えた。たしかに今記されているのはこの家だけで後は白紙だ。しかしながら、地図がどれほど縮尺されているのかは不明だが、記されている家のマークのサイズからするとこのマップはかなりの広さだということが伺える。


「ほうほう、なるほど。ルールは全てわかりましたので説明させていただきます」


 ルールブックの分厚さに合わない短い時間で本を閉じて、説明を始める。


「まずはマップは二十世紀の西洋の街、広さはあなたたちの感覚でいうところの、東京都くらいです」


 と言われましても具体的な東京都の広さがわからない以上実感は湧かないが。


「次に参加人数ですか、人間と神の二人一組で五十組が参加しています」


 一瞬多いのかと思うが、舞台が東京都程の広さというのならば、案外少ないのかもしれない。


「そして制限時間は一ヶ月間、賞金は十位以上に与えられますが、それ以下だった場合の罰はなしです」

「なし?」

「ええなしです。どうやら今回のこのゲーム開催の目的は神の威信を高めるためのものらしく、勝てばその神の威厳が増して、負ければその神の肩身が狭くなる。つまり今回罰を受けるのは神々の方だということです」


 ということは人間側に罰はないということか。ならば雑念なく存分に戦えるといことだが──


「あの僕そんなに強くないですよ?」


 喧嘩なんてしたこともないし、筋トレもしていない。何か武道を習っているわけでもない。つまりごく普通というわけだ。


「それに関しては心配無用です。このゲームにおいて、人間と神は同化することができる。と言っても伝わりづらいと思いますので、一回やってみます?」


 そう言いフォルトゥナが立ち上がる。百聞は一見にしかず、僕も立ち上がる。


「この行為の名は人神化。人が神と化すということです。では目を瞑ってください」


 僕は言われた通り目を瞑る。すると肩におそらくフォルトゥナの手が触れ、不思議とその手が僕の体に沈んでいくような感覚に陥る。そしてそれが十秒ほど続いた。


「もう目を開けてくださって構いませんよ」


 フォルトゥナの声を合図に僕はゆっくりと目を開き、辺りを見回す。そして最初に感じた違和感は先ほどまでいた彼女の姿が見当たらないのだ。

 たしかにこの家には扉や窓などがあるが、それを開けば音がするし、そもそも僕の前からいなくなる理由がない。


「いなくて当然ですよ。すでに私はあなたと同化したのですから」


 ん? なんか聞こえた気がするが理解が追いつかない。


 次に感じた違和感は衣服の変化だ。

 辺りを見回していた時に偶然目に入った姿見に映った自分が、あまりに豪勢な格好をしていたため、目を見開き姿見に近づいた。

 今まで僕は学校の制服を着ていたのだが、今は赤い布のような服に、下も赤のサルエルパンツみたいなものだ。それに加えて金のネックレスや指輪までつけている。


「なにこれ」


 さながら昔の王族のような格好だ。もちろん僕は普段からこういう格好をしているというわけではない。休日はパーカーにジーンズという、いかにも学生という格好で過ごしている。


「それは人神化による私の影響。身体と意識はあなたに委ねられるわけだから、少しくらい私らしさを出そうと思ってね!」


 いや僕自身が地味なせいか、印象を服に乗っ取られているような気もするが、まあ動きやすいから良しとしよう。


「そういえば、服が変わったところで人の強さって変わるものなんですか?」

「いや服はあまり関係ないの。君を強くするのは私の力、文字通り一心同体となった君は即ち神も同然ということだ」


 そう言われても、腕が太くなったわけでも、胸板が大きくなったわけでもない。至って普通の僕だ。


「いえ、正直言いますと人間がいくら体を鍛えようと、近代的な武器を用いろうとも、神には遠く及びません。故に私たちの力を貸すのです」


 僕の心が読まれたかのような的確な返答だ。


「だから心を読んでいるのですよ。あなたの考えは私に伝わり、私の考えはあなたに伝わる。それが一心同体、パートナーというものですから」


 実感が湧かないが、どうやら本当に僕とフォルトゥナは同化しているようだ。


「まあ理解は追々していけばいいんですよ」

「そうですね」


 言われるまでもなく、今すぐに理解することは不可能に近い。


「では早速外に出てみましょうか」


 ちなみに声は直接脳に語りかける風ではなく、実際に音として発せされている。


「わかりました」


 机の上に置いてあるルールブックと地図を手に、その家を後にした。


 ———————————————————————————


 外はさながらヨーロッパの雰囲気だった。洋風建築が立ち並んでいる。テレビでロンドンの映像を見たことがあるが、それに近しい。


「このゲームに細かなルールはありません。最後の一人になるまで生き残ることを最優先に考えて立ち回る必要があります」


 何やらバトロワのようだが、僕の手元には剣も銃もない。


「いえ、あなたには神フォルトゥナという最強の武器があるではないですか!」


 突っ込むようにして声が発せられる。


「そうですけど⋯⋯。正直フォルトゥナって強いんですか?」

「まあ、まあまあですかね」


 弱気だ。声音だけでわかるほど弱気だ。


「いえ、そりゃあ戦闘の能力だけでいえば中くらいかもしれないですけど、私には運命を操ることができるんですよ!」


 なーんかいまいち強さが伝わらないんだよなー。大きな炎を出せるとか、水を操れるとか、雷を落とせるとか。


「むぅ〜。しょうがないじゃないですか! 私だってアポローンのように強くありたかったですけど⋯⋯」


 またずいぶんと弱気だ。フォローしてあげたい気持ちも山々なのだが、どこをどう持ち上げてやれば良いのだろうか。


「でも何か長所とかあるんですよね?」


 自分の長所は自分が一番知っているだろう。そして自らの口で、自らを褒める方が気持ちが良いものだと僕は知っている。故に僕はそう尋ねたのだ。


「そうね。長所と言えるかわからないけど、私は今まで勝負事で負けたことがないわ!」


 ここで追い討ちをかける。


「すごっ! それどんな力を使えるよりも強いじゃないですか!」

「そう? いや、そうなのよ。私はすごいのよ。だって負けたことないんだもの!」


 我らが見ている天の上(にいるかどうかは定かではないけど)で神々などのような勝負を行い、暇を潰しているのかは知らないが、負けたことないというのは朗報だ。

 ──どれだけ強い力を持っていようとも、それ以上に強い力を持った敵が現れれば、自ずと敗北する。

 そしてその敵を打ち負かした者もまた、敗北する。それ故にこの世に最強などいない。

 と、世界史の田村先生が言っていた。


 つまり勝負の世界力だけでは乗り切れない部分があるということだ。そんな中で力はなくとも、負けない神がいるとなれば、何か秘密があるのだろう。


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