プロローグ
初投稿です、よろしくおねがいします!
僕は四角い部屋にいた。しかし正直現状がうまく理解できない。生きているのか、死んでいるのかすら曖昧な状況で、彼女はそこに立っていた。黒い髪を長く伸ばし、金色に光るティアラをしている。着ている赤色のドレスも際どく、少し前屈みになれば胸があらわになってしまうほどだ。
少々思春期真っ只中(高校二年生)の僕には刺激が強すぎる格好をしている。
「ようこそ。今より、あなたは私の愛する人です」
意味がわからない。まあたしかに美人であることは認めるが、やはり見知らぬ人にいきなり愛の告白をされたところで、僕は二組の安堂さん(クラス委員長をしているらしい)や三組の北さん(図書委員会をしているらしい)の方がよほど好みだ。
「あの⋯⋯お気持ちは嬉しいのですが、お断りさせていただきます」
というか、そもそも説明足らずもいいところだ。
「いえ、拒否権などありません。神である私が愛していると言ったら、愛されているのです」
余計に頭が混乱する。そもそもここがどこで、あなたが誰で、何故そんなことを言っているのかすらわからない状況で、呑気に「じゃあ僕と付き合いましょう」と言えるほど楽観的でも能天気でもない。
「というか、そもそもなんなんですか!」
もう直接聞いてやった。
「そうですわね。では説明いたします」
そうして女の長く、よくわからない説明が始まった。
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どうやら僕は変な場所(うまく理解できなかった故の表現)に飛ばされたらしい。
というのも、僕は学校の帰り道にぼーっと歩いていると、うっかり道路に出てしまったらしく、車に轢かれそうになっているところを通りすがりの男が僕を突き飛ばしてくれたことによって助かったそうなのだが、それ以来の記憶があまりないことから、その時何かトリガーを引いてしまったのではないかという僕の推察をぶつけてみたところ──
「いえ、違います」
冷めた反応が帰ってきた。
どうやら、僕が事故に遭いかけたことと、今の状況は全くと言っていいほど無関係らしく、本当のところは、
「私の名前はフォルトゥナ、運命を司る女神よ。そういうわけで、私たち神は君たち人間に『恩恵』を与えることで、誰が一番強いかを競おうとしてるわけなのです」
僕は素直に思った幼稚だと。そんなことに巻き込まれるほど人は暇じゃないと思う。かく言う僕だって学生の身であって決して暇ではない。
「時間に関しては平気よ、クロノスに言って止めてもらってるから」
僕は固まった。何故かと聞かれれば、それがあまりにも現実離れした話だったからというしかない。時を止める? たしかに男の夢ではあるが、絶対に叶わないからこそ夢であるのだ。
いや、僕は気付いてしまったかもしれない。そもそもこれが夢なのではないかと。
家のベッド、あるいはソファー、あるいは授業中かもしれないが、いずれにしろ僕は夢世界にいるのだ。
そうだと考えるならば、何も恐るる必要はなく、ただこの瞬間に身を任せればいい。
「では僕は何をすればいいんですか?」
最大限あのフォルトゥナとかいう神の話に乗って、夢を楽しもうじゃないか。
「私たちに与えられた準備時間は一時間です。その間に自己紹介を行い、この状況の説明をして、ある程度の会話を行って親交を深めます。そして私たちは今説明を行なっている最中ということです」
「ほうほう、では説明の続きを」
「了解しました。これから私たちは殺し合いに参加します」
⋯⋯ん? いやいや、流石に聞き間違いだろう。こんな平和な日本で殺し合いなんて、夢だからって物騒すぎるだろ。
「あのなんて言いました?」
「いやだから殺し合いに参加するって」
「物騒!」
「たしかに。じゃあ言い方を変えましょう。生き残りをかけたサバイバルゲームに挑んでもらいます」
まあたしかに少しゲーム感を出すことによって親しみやすさは感じたけど、やっぱりおかしい。夢ってこんなにとち狂ったものだったっけ。
しかしここは一番重要なことを聞かなければならない。
「それはもし負けたらどうなるんですか?」
「それはゲームが始まってみないとわからないですわね」
なにそれ、ちょっと不安なんですけど。もし負け=死とかだったら、もう本当に化けて出てしまう。
「じゃあ細かいルールを説明するわね。フィールドは不明、相手も不明、人数も不明、時間制限も不明、優勝商品も不明。以上!」
「何にもわからないじゃねーか!」
「しょうがないでしょ。こういうことは公平性を持たせるために運営側に一任されてるんだから」
それから残り四十分ほど、他愛もない会話(というか中身のない会話)を行った。
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そして定刻を迎える。部屋に鐘が鳴り響き、緊張感が漂う。それによりフォルトゥナの表情と先ほどとは打って変わり真剣そのものになっている。
「さあその扉の前へ」
何の変哲もない扉だ。その前に僕が立つと、横に並ぶようなフォルトゥナも立つ。いよいよ戦いが始まろうとしているようだ。
「では行きましょう」
フォルトゥナがドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。そうして徐々に扉開かれていき、その向こうは光に包まれていた。