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小さき天災


「居るかーチビッ子ー」

「そんなこと言ってるから嫌われるんですよ・・・」


 ゴミ屋敷、そんな言葉が似合う場所で、俺とティアナ先輩は目当ての人物である淺間恵名を探していた。


「ゴミに潰されて、死んでるんじゃないだろうな・・・」

「さすがにそれはないと思いたいですけど・・・」


 冗談だと思いたいが、この状況を見るとありえそうだと思ってしまう。ここがこの惨状なのは今日に始まったことではないのだが、そんなことを考えながら奥へ進んでいく。


「誰か来たの?」


 ふと、良く通る高い声が聞こえてきた。声の聞こえてきた方に顔を向けると、ゴミ山がぐらぐらと揺れている。


「ええい、ジャマなの!」


 グシャン!

 景気の良い音を発しながらゴミの山が崩れる、そしてそこから顔を出したのは、一見すると小学生にも見える女の子、ぼさぼさの髪の毛に、よれよれのTシャツ、一目で見た目に無関心だと分かる残念さだが、よく見ると大きな瞳に、整った眉をしたかわいらしい顔立ちであることが分かるこの少女は、俺が武器の修理を頼んだ相手である淺間恵名その人である。


「いつも言ってますけど、少しは片づけた方がいいですよ」

「これが発明をするのに最適な状態なの、素人にはわからないの」

「さっき、ジャマって言ってたじゃないですか・・・」


 何度行ったか分からないやり取りをしながら、周りを見る、やはりいつ見てもただのごみ山にしか見えない。


「私も片づけた方がよいと思うぞ、こんな状態では何時か、ゴミに潰されてペッチャンコになったチビッ子の愉快な死体が発見されかねない」


 ティアナ先輩が軽口をたたくのもいつものことだ、そしてこの後の展開もいつもきまっている。


「泥棒女が何でいるの、お前にやるものはないからさっさと帰るの」

「あいかわらず、私がいることに気が付いてなかったみたいだな、それと泥棒女はやめろ」


 恵名先輩とティアナ先輩は仲が悪い、そうはいっても恵名先輩が一方的に敵視しているだけなのだが。


「そう言われたくなかったら、背中の失敗作を早く返すの!」

「返したところで処分するだけだろう?捨てるのならば別に私が持っていてもいいじゃないか」


 ティアナ先輩の大剣は恵名先輩が作成したものだ、といっても失敗作として処分する際に、勝手に持って行ったのでこんな関係になっているわけだが。


「発明家にとって、失敗作をこの世に残しておくのは我慢できないことなの、例えるなら首輪をつけられて全裸で校内を散歩させられてる気分なの!」

「それはさすがに言い過ぎでは・・・」

「言い過ぎじゃないの!」


 恵名先輩は興奮しながらまくし立てているが、このままだと何時まで経っても目的を達成できないため、俺は話題を変える意味でも修理の件を切り出すことにした。


「修理を頼んでた、銃と剣はどうなりました?」

「そういえばそうだったの、今持ってくるからそこで待ってるの」


 そういうと恵名先輩はごみ山の中に消えていく、俺の武器もこの中に埋もれているのかと考えると複雑な気分になるが、それを考慮しても彼女の腕は一流であるため、修理の際は彼女に頼んでいる。


「待たせたの」


 席を立ってから5分ほどで先輩は帰ってきた、小さな体に二つの物を抱えながら。


「今回は自信作なの、末代まで感謝するといいの」

「これは・・・」


持ってきたものを見ると、剣の方は見覚えがあるが、もう一つの銃が明らかに俺の記憶にあるものとはかけ離れた姿をしていた。例えるなら分厚い三角定規、SFの世界にでも出てきそうなそれは、魔改造が行われたであろう愛銃の姿だった。


「どうしたの?感動しすぎて声も出ないの?」

「アホか、呆れて声も出ないんだよ」

「泥棒女は黙ってるの!」


 すこし時間をかけることで気持ちを落ち着けてから愛銃の変わりようについて恵名先輩に尋ねる。てかこれは変化とかいうレベルじゃないよなぁ。


「恵名先輩、これはいったい・・・」

「修理している時にふと思ったの、これからの時代、ただ弾が打てるだけじゃ生き残れないの、様々な用途に対応してこそ新世代の銃ではないか、そう思ったら様々なアイデアが浮かんできて、元の銃では機能を拡張するにも大きさが足りないことに気が付いたの」

「つまり?」


「喜ぶの、お前は新世代の銃、その使用者になれたの」


「新世代の銃か・・・中々に面白そうだな」


 ティアナ先輩が他人事のようにつぶやく、使用者の俺としては微妙な気分だ、そもそも頼んだのは改造ではなくて修理なのだが・・・


「それじゃあ追加した機能を説明するの」


 そう言うと恵名先輩は立ち上がり部屋の電気を消した。


「銃口をこの壁に向けて、赤いボタンを押すの」


 そういわれて銃の側面をよく見るといくつかのボタンがあるのが分かった。


「いきなり火炎放射が発射されたりしませんよね・・・」

「そんな機能なら、ここで試さないの、いいから早く押すの!」

「じゃあ押しますよー」


 ポチ

 ボタンを押した瞬間、銃口から光が照射され壁を照らし出した、それと同時に自分ではない男の声が聞こえてくる。


『レインボーブ〇ッジ、封鎖できません!』


「え・・・」


 某有名ドラマの名台詞が聞こえてきたかと思うと、光が照射された壁に映像が映し出される。


「これってまさか・・・」

「その通りなの、映写機の機能を追加してみたの」

「え・・・なんで?」


 思わず素の声が出てしまう、この機能にはいったいどんな意味があるのか俺には全く想像ができなかったからだ。


「任務で暇になった時見るの」

「無駄機能じゃないか!!」


 驚きのあまり大声を出してしまう、ふとみるとティアナ先輩が笑いをこらえているのが見えた、確かにこれを見せられたら笑うしかないのはわかるが、持ち主の俺としては気が気でない。


「ちなみに、違うものを見たいときはこうやるの」


 そう言うと恵名先輩は銃の後ろの部分にあるボタンを押す、そうすると銃の後方部分の扉が開き、中からビデオテープが出てきた。


「って、ビデオテープ!?CDじゃなくて?」

「あえて時代の流れに逆らってみたの」

「もうだめだ、耐えられん」


 その言葉と同時にティアナ先輩は腹を抱えて笑い出した、俺としては全然笑えないのだが、こうなったらほかの機能に賭けるしかないと思いつつ、話を続けた。


「ほかにはどんな機能があるんですか?」


 そういって恵名先輩の方を見る、少し勿体つけながら彼女は次の機能について説明を始めた。


「次は青いボタンを押してみるの」

「もう一度聞きますけど、室内でやって大丈夫な奴ですよね」


 一応危険がないか彼女に尋ねる、その問いに帰ってきた言葉は、先ほどと同じ意味の言葉だった。


「当たり前なの、とりあえず押してみるの」


 ポチ

 ボタンを押した瞬間、またもや知らない人の音声が流れだす、しばらく聞いているとその声は道路の渋滞情報についてしゃべりだした。


「これってラジオの道路情報ですよね・・・」

「そうなの、何処でもラジオが聞けるように、改造してみたの」


 そういって自信満々に胸を張る先輩、映写機よりはましだと思うが、同じようにこれが戦いで役立つ姿が予想できない。


「これでいつ被災しても大丈夫なの」

「それはいいですけど、銃に取り付けなくてもよい機能じゃないですか・・・」


 基本的には頼りになるのだが、たまに思い付きで変な物を作るのがこの先輩の悪い癖だ。この機能も外れかと思いながら、別の機能について尋ねる。


「それでほかの機能はどんなのがあるんですか?」

「今のところそれだけなの」

「え・・・」


 先輩の言葉に思わず言葉を失う、まだ押していないボタンがあるので、その数だけ機能を練りこんだのかと思いきや違うようだ。


「正直、銃を拡張して、二つの機能を追加したところで飽きたの、続きはまた今度やるの」

「また今度って、それならせめて元に戻してくださいよ・・・」

「安心するの、大きくなった分、銃としての威力も上がってるの」


 そう恵名先輩は言うが、威力なら元のままでも十分だった、そもそも魔法技術の発展により銃の威力は従来の科学だけだったころに比べて2倍ほどになっている、詳しくは知らないがライフリング(銃砲身内の螺旋状の溝)に魔法陣を仕込むことで威力を上げているらしい。ほかにも色々と魔法的な機構があるようだが、使う側としては威力が上がったというところが重要なため、詳しいことは知らないが。


「威力が上がっているなら別によいのではないか?」


 ティアナ先輩が他人事のように言う、実際他人事なのだが、この人は威力という言葉に魅かれたようだ。


「これを毎日学校に持っていくんですか・・・重いし目立つので嫌です・・・」

「みんな羨望の視線を向けてくるはずなの」


 好奇の視線の間違いではないのか、しかし、すでにそんなことも言い返す気力はなく、とりあえず佐藤と小林に明日、からかわれるなと思いつつ、ホルスターに入らないし持ち運びはどうしようかと考えるのだった。




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