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まるで嵐のような

 数年前、魔法の才能があると言われた時には、俺にしては珍しくとても喜んだもんだ。魔法さえあれば、平穏な日常を取り戻せるかもしれない、そんな夢を抱くぐらいには。

 しかし、そんな思いは入学式にとある事件に巻き込まれたことにより、儚い夢であることを思い知らされてしまった。

 むしろ魔法に関わることになってから面倒ごとの質が上がっている気がする、そう思うぐらいには平穏からほど遠い日常を送っている。

 そんなことを6限目の授業を聞きながら考える、6限目は日本史の授業だ、ここ神奈川魔法高校でも魔法に関する授業ばかりではなく、基本的な科目の授業も行っている、考えてみれば当たり前だが、この学校にいるからと言って魔法に関する進路に進むとは限らないのだ。

 そんなことを考えているとチャイムが鳴る、この退屈で愛おしい時間にも終焉がやってきたようだ。






「やっと授業が終わったわー」

「お前ほとんど寝てただろ」

「せやかて、緒方の授業退屈なんやもん」


 緒方とは日本史を担当する先生の名前だ、抑揚のない声で淡々と授業を行うので、まるでお経でも聞いているようだと評判の先生だ。


「これから佐藤はんとコンビニによって帰るんやけど、雄介はんはどうする?」

「今日は工学部のほうに用事があるから、無理だな」


 神奈川魔法高校にはいくつかの学部があり、俺や小林たちが所属する戦闘学部の他にも、工学部というものが存在している、主に魔法を使った道具の技術者養成が行われており、戦闘学部の生徒も武器の修理などでお世話になることが多い。


「そういえば、武器の修理中だったな」


 魔法使いといえど、戦いは魔法だけで行われるわけではない、銃や剣など、それぞれの生徒にあった武器を使うことは当たり前となっている。兼に小林と佐藤の腰にはホルスターが装備されており、中には本物の拳銃が入っている。

 これは常在戦場を心掛け、いつ何時も油断するなという意味があるらしいが、半年もつけていれば、腰の違和感も消え去り、日常の中に溶け込んでしまっている。


 さすがに、入学した当日に武器を持ち歩くことが義務だと言われた際は、驚きでしばらく口が空きっぱなしになってしまったが。


「とゆうことは、雄介はん専用エンジニアの所に行くんか」

「専用って...」

「あの嬢ちゃんが、雄介はんの仕事しか受けないのは有名やないか」

「嬢ちゃんて...あの人、先輩だぞ...」


 腕はいいが、仕事相手のえり好みをする、これから行こうとしてるのは、そんな噂で有名な先輩だ。

 なぜか俺は気に入られてしまったため、武器の修理などを定期的にお願いしている。


「実際、雄介はんはどっち派なんや?」

「どっちって何が?」

「しらばくれるなや、姐さんと嬢ちゃんどっちが好みかっていうことや」

「それは、確かに気になるな」


 小林の言葉に佐藤までもが賛同してくる、姐さん、小林がそんな風に呼ぶのは一人だけだ。

 傍若無人、まるでその言葉が意志を持って歩きだしたかのような人物。

 小林の質問に無難な言葉でも返そうかと思っていた瞬間、まるでこの話を聞いていたかのように彼女は現れた。


「雄介はいるか!」


 クラス全体に響くような大きな声、それでいて品を感じさせるこの声の持ち主は、他学年のクラスだというのに、遠慮などまるで感じさせない堂々たる歩幅で、俺の前にやってきた。

 腰まである豊かな金髪、強い精神力を感じさせる目、そして日本人離れしたスタイルを誇り、この一瞬でクラス中の視線を独り占めした女性。


「居るなら返事をしろ、気が付かずに別の場所に探しに行ってしまったらどうするんだ」


 ティアナ・スカーレット、この学園でも数少ないSランクであり、モデルのような高身長と、同じぐらいの長さの大剣を担いだ2年生の先輩、『女帝』の異名を持つ、この学園でもトップクラスの化け物である。


「面白い噂を聞いたから付き合え」


 まるでこちらが断ることなど考えていないように、彼女は言い放った。


「面白い噂ってなんすか...そもそも俺には用事があるんですが」

「敬語はいいと何時も言ってるだろ...それよりも用事ってなんだ、すぐに終わるのか?」


 いつも間にか小林と佐藤もいなくなっていた、あいつら逃げたなと思いながら、今日の用事のことを告げる。


「修理を頼んでた、武器を取りに行くんですよ」

「ふむ...そうか...」

「ということで今日は無理です」


 それを聞いたティアナ先輩は、何も言わず席を離れ歩きだす、珍しく素直に従ってくれたなと感動しながらその後姿を眺めていると、ふとこちらを向き。


「何をしている、行かないのか?」

「ついてくるんですか...」


  この先輩がそんな聞き分けがよいわけないな、これ以上何を言っても無駄なのは今までの経験で分かっている。


「しょうがないか...」

「早く来い!」


 その言葉に背中を押されながら、いやいやと教室を後にした。

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