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保健室にて

 体育館の中央で情けなく気絶している人こと俺、黒上雄介は間が悪い。いきなり何を言ってるんだと思われるだろうが、それでもあえて言いたい、間が悪いと。間が悪いには色々な意味があるが、俺の場合は、運が悪い、時機が悪いの意味で使っている。外を歩けばヤクザの抗争に巻き込まれ、コンビニに行けば強盗と鉢合わせたりと、もしも神様がいるのならば運のステータスを最低値にされてしまったのではないかと本気で悩むくらいには間が悪い。

 今回の神宮寺との模擬戦だってそうだ、たまたまお互いに、今日模擬戦を行うはずだった相手が、欠席をしており、ほかの奴らと組み合わせを変えるのも時間がかかるということで急遽行われることになったのだ。担任の緒方いわく胸を借りるつもりで行けとのことだったが、そんな余裕もないまま瞬殺されてしまった。

 とゆうか面倒ごとに巻き込まれるのは外だけではなかったのか、学園の中では比較的平和だったから油断してしまった。次に相方がいなかった日には周りの様子をよく観察してから、緒方に申告しよう、そう胸に誓った模擬戦だった。





「雄介ー生きてるかー」

「佐藤はん、これは無理かもしれませんなぁ」

「確かにあれをくらったら心が折れてもおかしくないが...」


 二人組の声が聞こえてくる、とゆうか俺はどうなってるんだ、体中が怠く重い、ふらつく頭で思い出す、そういえば神宮寺と模擬戦をして負けたんだったな...

  重い瞼を億劫に開く、そこには見慣れた二人組が立っていた。


「雄介、目を覚ましたか」

「大丈夫かいな、ワイのこと分かる?」

「佐藤と茶髪のメガネかけてる人だろ、ちゃんと覚えてる」

「ワイのこと半覚えやんけ!」

「冗談が言えるなら大丈夫そうだな」

「気絶してからどれぐらいたった?」

「15分ぐらいだ」

「そうか...」


  周りを見渡すと、ここが保健室であることに気が付く、この学校には保健室がとても多い、今回の俺のように気絶したり、けがを負う授業が多いからだ。ここは体育館のすぐ横にある保健室だろう。


「で、どうやったんや神宮寺と戦ってみて」


 小林が不意にそんなことを聞いてくる。


「気絶から目覚めた人間にいきなり聞くことがそれかよ...」


 佐藤が空気を読めとでも言いたそうな顔で呟く、しかし佐藤も小林が決して悪意があって言っているのではないと分かっているためそれ以上に何かを言うことはない。


「どうだったもなにも見たまんまだよ、なにもできず瞬殺されてしまった、悔しいがレベルが違い過ぎる」


「神宮寺は一年でも、二人しかいないAランクだ、相手が悪かったな」

「あんな隠し玉があったんじゃ仕方ないわ」


 その言葉と共に、保健室に静寂が訪れる、二人の気遣いはうれしいが、それでも一発も当てられず悔しいという気持ちはなかなか消えてくれず燻っている。


「それにしても神宮寺の奴も薄情やな、仮にもルームメイトなんだから大丈夫かの一言ぐらいあってもいいやんけ」


 小林が暗い空気を換えようと話題を変えてくる、完璧に変えきれてないところがこいつらしいが。


「ルームメイトといっても、必要最低限しか喋らないからな、正直ルームメイトといっても何を考えてるか全くわからん」

「風呂で裸の付き合いとかせえへんの?」

「正直、あいつが風呂に入っているところはおろか、着替えてるところも見たことがない」

「それはさすがに異常では?」

「いつも気が付いたら風呂に入って、気が付いたら着替えてるな」


「わかったで、あいつの弱点が!」


 小林がいきなり声を荒らげて叫ぶ、今の会話からなんでそんな話になるんだと思いながら耳を傾ける。


「あいつは、男の象徴に自信がないんや、だからこそこそ風呂に入ったり着替えたりしてるんとちゃう?」


「なんか真面目に聞いた自分が馬鹿らしくなってきた」

「いや、ないとも言い切れんぞ、人間どこにコンプレックスを抱いているかわからんからな」


 佐藤が真面目な顔をしながら頷く、それを横目に見ながら考える、果たしてあの完璧超人にそんな悩みがあるのかと。


「いや、ないな」

「そんなきっぱりと言わんでも...仮にそこが弱点だったら、次回同じように対戦することがあった時、役立つかもしれんのや」

「仮にそんな弱点があったとして、どうやって利用するんだよ」

「足を使って、想いっきり蹴りあげるんや、それでお陀仏やで」

「神宮寺の弱点じゃなくて、男の共通の弱点じゃねーか!」


 こいつの話はまじめに聞くもんじゃないな、改めてそう思いながら言い返す。


「そもそも、足が届く位置までどうやって移動するんだよ」

「それは盲点やった...」


 本気で驚いたような顔で小林が言う、こんなアホな会話を終わらせる意味でも、気になっていたことを二人に尋ねることにした。


「そういえば二人とも授業は大丈夫なのか?」

「一応、けが人の面倒を見るという形で許可を取っているが、そろそろ戻らないとだな」

「雄介はんの症状が予想以上に深刻だったっていうことで、何とかさぼれんかな?」

「俺は戻るぞ」

「佐藤はんホント生真面目」

「別に戻らなくてもいいぞ、後でどうなるかは知らんがな」

「冗談やって、ワイも戻るわ」


 佐藤と小林の二人が席を立つ。


「お大事にな」

「無理をしたらあかんでー」

「色々とありがとうな」


 二人が保健室を出ると同時に静寂が戻る、午後の授業から復帰できそうかな、そんなことを思いながら眠りについた。



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