五話
「あれ、君は・・ルミナ嬢?どうして君が?」
ステファンは首を傾げるとじっとルミナを見つめながらそう言った。
「じ、実は庭で迷ってしまって、そしたら、彼女が助けてくれたのです。」
恥ずかしそうにそう言ったシャロンに、ステファンは苦笑を浮かべると、ルミナに尋ねた。
「この庭は僕でもまだ迷いそうになるのに、初めて来たはずの君がよく助けられたものだ。それに、何故庭へ?お茶会の最中だろう?」
疑うような、何かを探るようなステファンの言葉は最もだと思いながら、ルミナは無表情を整えると言葉を連ねた。
「少し人の多さに疲れてしまったので、庭に行かせていただきました。来た道を戻ることはそんなに難しいことではございませんわ。」
先程までとはまるで違う人を寄せ付けないルミナの雰囲気にシャロンは驚いていると、ステファンはにやりと笑みを浮かべる。
「ふふ。さすがだねぇ。でも、君と会えたのは良かった。もう少し話がしたかったんだ。」
その言葉にルミナは嫌な予感がよぎり、微かに眉間にしわを寄せながらステファンの言葉を待った。けれど、ステファンは腕を出すとエスコートをするから着いて来てと言わんばかりの表情を浮かべる。
ルミナもこれを断れるわけもなく、ため息を漏らさないようにするとステファンの腕に手をのせ、お茶会の会場へと戻る事となった。
シャロンは後ろから着いて来ており、ルミナとしてはさっさと二人で帰ってほしかったと、内心思うのであった。
お茶会の会場の上手側にある席は空けられており、ステファンはそこへルミナを案内すると座るように促した。
この席は会場からよく見える位置にあり、令嬢らの目線が痛い。
そんなに睨みつけるならば変わってあげましょうかとルミナは言いたいくらいである。
「お話とはなんでしょうか。」
「ルミナ嬢とはよくよく話してみたいと思っていたんだ。だって、僕の第一婚約者候補でしょう?」
その言葉にルミナは思案するように考えると、にこりとも微笑まずに言った。
「そうですね。この中でしたらそうなるかと。」
「何か含んだ言い方だね。」
「ええ。そうですね。・・・殿下一つ私から殿下にご提案がありますの。」
ステファンは面白そうににこりと笑みを浮かべると、小首を傾げてわざとらしく尋ねた。
「何かな?」
けれど待っていたルミナの言葉は、ステファンの考えの斜め上を行くものであり思わず目を見張ってしまう。
「18歳まで婚約者を自身の眼で見定めることにしてはいかがかしら?」
思わぬ言葉に、ステファンはそのまま固まってしまった。