三話
会場に集まっているのは煌びやかな令嬢達。
まだどの令嬢も十歳前後だというのに、まるで大人のように振る舞って、頑張っておしゃべりしている。
ルミナはその様子を微笑ましげに見つめると、ぱくりと、机の上に並べられているお菓子をほおばった。
何十回と繰り返してきたこのお茶会。その中でずっとルミナは思っていた。
ここに並べられているお菓子やケーキはどれもきっと美味しいだろうなと。
けれどステファン王子を射止めるために頑張っていたルミナからしてみれば、お菓子やケーキに脇目を振るような余裕はなかった。
有力な婚約者候補だとはいえ、きっとここでの頑張りがなければ婚約者とは認められなかっただろうとルミナは思っていたのだ。
だがしかし、もう今は関係のない事である。
自分はもう諦めた。だから、もう自分は自由なのである。
ルミナは笑みを浮かべると、令嬢たちの会話を微笑ましく見つめながらお菓子をパクリ、またパクリと口に運んでいた。
どのお菓子も美味しく、小さめに作られているためにどんどんとお腹の中に入っていく。
しかも甘い菓子ばかりではなく、少ししょっぱめのお菓子もあることで、甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいの無限ループにルミナはすっかりはまっていた。
その時である。
ステファンが会場に現れ、座席を回りながら令嬢らに笑顔で挨拶をしていく。
そしてルミナの座る席にもステファンが完璧な王子の微笑を携えて現れた。
金色のさらさらの髪の毛、青い海のような瞳。
優しい人柄に惹かれ、そしてルミナは何十回も彼に恋をして、愛した。
けれど、ルミナの心にはもう彼を愛する気持ちは一滴も残っていない。
次々に令嬢らがうっとりと挨拶をしていき、最後にルミナの番が訪れた。
本来ならば公爵令嬢がまっさきに挨拶をするはずなのだが、ルミナはあえてそれを避け、そして最後に簡潔に、無表情で、さっと挨拶を済ませた。
「公爵家令嬢ルミナ・ララーシュでございます。本日はお招きありがごうざいます。」
一緒の席についていた令嬢らがぎょっとした顔でルミナを見ている。
席は自由であり、会話をしていた彼女達ではあったが、会話に混ざっていなかったルミナがまさか公爵家令嬢だとは思ってもみなかったのである。
ステファンも少しだけ目を見開いて、すぐにいつもの笑顔へと戻った。
「あぁ、貴方はルミナ嬢でしたか。初めまして。茶会を楽しんで下さいね。」
「はい。ありがとうございます。」
会話が続かず、ステファンが少しだけ困ったような表情を浮かべている。
それはそうだろう。
おそらく王家側も婚約者の第一候補がルミナだということになっているであろうから。
今のルミナであれば、客観的にそう思えた。
だが、今回のルミナはステファンの婚約者になる気はさらさらない。
なのであっさりと伝えた。
「素敵な婚約者様が見つかる事を心より願いますわ。」
「それは・・・ありがとうございます。」
何とも言えない表情をステファンは浮かべたが、ルミナはこれで会話は終わりだとばかりにお菓子へと手を伸ばすとパクリとまた口に含んだのであった。