二十九話
婚約破棄、そして婚約発表からしばらく経ち、ルミナは王城にてステファンやソフィー、シャロンらと一室にて向き合っていた。
ステファンとソフィーはルミナに背中を押されて婚約する事が決められたのだが、そこに行きつくまでには公爵家と王家で一悶着あったり、エドウィンが泣いてループが終わったことを神に感謝したり、ソフィーの泣きわめく奇行を舞踏会会場で見た人々から未来の王妃はあれで大丈夫かと反発が合ったりしたが、どうにか丸く収まり、この場が設けられたのである。
ルミナは、にこにこと笑いステファンの横に座るソフィーを見て、初めて心からの祝福の言葉を伝えることが出来た。
「婚約おめでとうございます。」
ソフィーは顔を真っ赤に染めた。
「ありがとうございます。お姉様。これもお姉様のおかげです。」
ソフィーの奇行の噂を沈めたのはルミナであり、ルミナは王妃とソフィーの架け橋ともなり王妃教育を支える立場をとっていた。
ステファンは自分が本当にソフィーと婚約をしてもいいのかと、ルミナへの贖罪から悩み少しはげたらしい。その話をこっそりと王妃から聞いたルミナは、国外から取り寄せた毛生え薬の小瓶を机の上へと乗せると、ステファンに言った。
「私はもう、過去の私ではありませんよ。ですから、殿下も気になさらないで下さいね。」
「こ・・・これは・・・」
「とても効くらしいです。どうぞ。」
ステファンは涙ぐみ、そして頷くと小瓶をそっと受け取り、大事そうに手に握りしめた。
シャロン少しばかり納得していない様子もあったが、ルミナがそっと手を重ねると仕方ないとばかりに肩をすくめてみせた。
「でも、結局この世界は消えなかったのは何故なのでしょうね。」
ルミナがそう口にすると、ソフィーは少し考えてから、口を開いた。
「それは、きっと。」
「なぁに?」
「お姉様が、いてくれたから。私は、物語から脱したらダメだって・・そう思ったの。だから、あんなことをして・・。それじゃあダメだったのに。」
ソフィーは真っ直ぐにルミナを見つめると言った。
「お姉様は、自分で運命を選んだ。だからきっと、今という未来に繋がったのよ。」
はっきりとしたソフィーの言葉にルミナはきょとんとすると、シャロンは楽しそうに笑い声を上げて言った。
「そうかもしれないな。」
「まぁ、シャロン様まで。」
その場はなごやかな笑いに包まれ、ルミナはその光景を見つめて思った。
こうやってずっとずっと幸せが続けばいいのにと。
真実の愛どうこうは分からないが、ルミナにとっては、愛の返されなかった何十回繰り返されたループの時よりも数百倍今が幸せであった。
シャロンは毎日心からの愛をルミナにくれる。
ルミナもそれに思いを返す。
愛し、愛されることの幸せをルミナはやっと知ることが出来たのである。
この世界は物語だった。けれど今、確かにルミナは自分は生きていると感じる。
18歳だったルミナは初めて、19歳の年を迎えることが出来るのだ。
物語はループをやめ、ルミナの物語は続いていく。
愛を求め、諦め、そして新しい愛を掴んだルミナ。
どうして、物語は続いたのか。
それはもちろん、彼女が幸せになる物語を見たいと願った人たちがいたからであろう。
「シャロン様。これからも末永くよろしくお願いいたします。」
ルミナの微笑に、シャロンは嬉しそうに笑みを返す。
「もちろん。こちらこそ。」
ずっと辛い恋を続けてきたルミナ。
これからは幸せな愛し愛される家庭を築いていくであろう。
完
おまけで後一話あります。もしよろしければどうぞ。
ここまで読んで下さった皆様に感謝を。
ありがとうございました。
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