表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

二十七話

 物語の続きが、婚約破棄で終わる?


 ゲームは繰り返される?


 でもね、物語もゲームも、人の思いがあれば必ず続きというモノは生まれるもの。



 美しく飾られた会場。


 何十回と繰り返して見つめてきた光景。


 シャンデリアの光が、眩しいほどに感じられるこの美しい舞台で、悪役令嬢は婚約破棄を言い渡される。


 真っ赤なドレスを身に纏った、真実の愛を語る二人を邪魔してきた悪役令嬢。


 そんな彼女が、今晩、断罪される。


 ルミナは、何度も見てきた光景に胸が微かに痛みながらも思う。


 この世界がたとえ作り物だろうと、ここに確かに自分はいるのだと。


 これまでたくさん傷ついてきた。


 これまでたくさん苦しんできた。


 これからもこの永遠の世界が続いていくのかと思うと悲しさもある。


 けれども。


 目の前を見上げれば、麗しい見た目のはずが、目の下には隈が出来き泣き腫らした瞳のステファンが見えた。


 一度くらいは貴方がそんな顔になるのをみるのも良いものねと、ルミナは笑う。


 震える声を聞くのも新鮮だ。


「ルミナ・ララーシュ。君との婚約を・・・本日をもって・・破棄とする!」


 何十回と聞いてきた言葉だが、これほど覇気のない声は初めて聞いた。


 何となく、これまでの苦しみを今回の殿下が全部背負うのは可哀想な気もするが、胸はすっとなる。


 会場がシンと静まり返る。


 いつもは一人、その言葉を寄り添うステファンとソフィーの二人を見つめながら聞いていた。


 けれど今日は泣きそうな顔をした殿下が一人、ルミナと向き合っている。


 そしてルミナの横には、シャロンと、目が兎のように真っ赤になっているソフィーが立っていた。


 最後の言葉。


 自分が退場すれば、物語は終わる。


 ルミナはシャロンを見上げ、シャロンはルミナを見つめた。


「愛しているわ・・・・シャロン様。」


 ルミナは瞳を閉じた。


 シャロンはそんなルミナの唇に優しく口づけを落とした。


 ルミナはそれを受けてから終わりの瞬間が訪れるのを待つ。


 繰り返されるのかと思うと皆の前で口づけされても恥ずかしさはなかった。


 瞳を開けば、きっと十歳の自分。


 幼い手が見えるはず。


「ん?」


 ざわめきが聞こえた。


 ベッドの感触がいつまでたっても訪れない。


「え?」


 瞳を開けると、まだきらびやかな会場である。


 ルミナはステファンを見て、そしてシャロンを見上げて、周りを見て、そして、思う。


 退場のセリフを言わないとだめなのだろうかと思い、慌てて美しく一礼する。


「殿下、婚約破棄、謹んでお受けいたします。」


 以前はこのセリフでもベッドの上に戻った。


 ぎゅっと目を瞑る。


 今度こそ終わる。


 今度こそ戻る。

 

 幼い手が見えるはず。


 だが、怖くて目が開けられない。


 しかも何故か、手をぎゅっと握ってくれているシャロンの手のぬくもりが消えない。


 消えない。


 ルミナはそっと目を開けた。


 ステファンが目を丸くし、次の瞬間雄叫びようなソフィーの声が響いた。


「おねぇぇぇっぇさまぁぁぁぁぁ!!!!」


 ソフィーが勢いよくルミナへと抱き着いた。


 その勢いにルミナは倒れそうになるが、その背をシャロンが支えた。


「え?」


 ルミナは呆然とする。


 眼前には顔がぐちゃぐちゃに濡れたソフィーがおり、おいおいと泣きわめいている。


 会場がざわざわと騒がしくなる。


 ステファンに視線を向けると、覇気を取り戻し満面の笑みを浮かべたステファンが声を上げた。


「私は、ルミナ・ララーシュに婚約破棄を言い渡した!その理由は、我が親友と、ルミナが心から愛し合っているからだ!解消でもよかったが、どうせならば皆に見せつけてやろうと思ってな!皆、どうかこの婚約破棄に賛同し、また、シャロンとルミナの婚約に賛成してはくれないだろうか!」


 会場が一瞬にして色めき立ち、そして歓声と拍手が巻き起こった。


 ルミナは呆然としたのちに、次第に顔に熱が集まるのを感じる。


 おいおいと泣きついて来るソフィーどころではない。


 恥ずかしくて死ぬと、ルミナは自分の犯してしまった失態に顔を真っ赤にして両手でそれを隠すように覆った。


 会場には様々な言葉が飛び交う。


「突然おどろきました!でも、婚約おめでとうございます!」


「はっは!殿下も粋な事をなさいますな!」


「愛する二人を祝うために、婚約破棄とは奇想天外な!」


「まぁおほほほ。こんな皆の前でキスなさるなんて、ももももう!なんて素敵なの!」


「はうぅ。うらやましいですぅ。」


「アツアツですね!」


 ダメだ。


 ルミナは初めて、ループよ来い!と願った。


 だが、ループがルミナに訪れる事は二度となかった。







 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ