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二十三話

 ステファンは、静かに一人、外を見つめていた。


 時間だけが流れていく。


 シャロンの気持ちになど、一切気が付いていなかった。


 そして自分の気持ちがありながらも、婚約者である自分に追いかけろと言ったシャロンの言葉に心が痛くなった。


 追いかけられなかった。


 追いかけて何て伝えればいい?


 信じろと言えるか?


 誓いを絶対に守れると、言い切れるか?


 ルミナはきっと見透かす。


 自分の心を自分以上に、ルミナには手に取るように分かっている。


 ソフィーという令嬢に惹かれていく。


 止めようとしても止められない。


 一度はシャロンに釘を刺されて蓋をしたと言うのに、蓋はいつのまにかに外れてしまう。


「僕は最低な男だ。」


 ルミナの言う通りだと思った。


 心にもない愛していると言う言葉を囁き、そしてルミナを縛りつけようとした。


 自分の為に。


 そして失った。


 婚約者であるルミナも、親友であるシャロンも。


 自分が優柔不断であるがために、彼らに見限られた。


 十歳の時に言われたルミナの言葉を思い出す。


『私以外を愛さないと誓えますか?』


 誓った。


 なのに、こうもあっさりと自分の心は違うソフィーという令嬢へと傾いた。


 何故なのかは分からない。


 惹かれてしまうのだ。あの自由で可愛らしい笑顔に。


 胸に手を当ててステファンは蹲った。


「最低だ・・・僕は・・・・・・最低だ。」


 誓ったくせに。


 愛していると囁いたくせに。


 彼女以外愛さないと誓ったのに意図も容易く裏切った。


 ルミナのあのこちらをじっと見つめてくる瞳が頭から離れない。


 誓ったのに、何故心が揺らぐのだ。何故、心が思い通りにならないのだ。意味がわからない。


 何かに強制されるように、惹き付けられる。


 苦しい。


「くそ・・・くそっ!」


 机を強く叩きつけた、強く握りしめすぎた拳に血が滲んだ時、がたりと、部屋の扉が開いた。


「ステファン・・・殿下。」


 ソフィーが立っていた。


 その表情はいつもの明るく元気なソフィーのものではなく、強張って、今にも泣き出しそうな顔をしている。


 駆け寄ってくるソフィーは静かに言った。


「殿下・・・お願いがあります。」


 その言葉に、ステファンは眉間にしわを寄せる。


「ソフィー嬢?」


 ソフィーのエメラルドの瞳が揺れた。涙で濡れているのか、ステファンの心臓はドキリと鳴る。


「お願いです・・私は・・もうどうしたらいいのか。」


 ぞくりとした何かがステファンの背筋を這っていく。


 ソフィーはステファンに抱きつくと、そして背中をさすりながら言った。


「婚約破棄を、してください。じゃないと、物語は終わらないし始まらない。・・そう導くのが私の役目なのに・・でも、お姉様が・・」


「何を・・君は言っているんだ?」


「皆の為にはやらなきゃ・・でもっ・・」


「・・・何・・を・・」


「何度も、何度も、何度も、何度も殿下は婚約破棄をして下さった。この世界の理だから!でもっ・・あぁ、でもやらなかなゃ。」


 狂気に満ちたソフィーの瞳に、ステファンの体は硬直する。


 何度も・・何度も?


 婚約破棄をした?


 ガタガタと体が震えるのが分かる。


 記憶はない。けれども心がソフィーの言葉をきっかけに訴えかけてくる。


 己の罪を、思い出せと。


 お前のこの世界の役割は決まっているのだと。


 ソフィーの表情は歪む。


「物語は、シナリオ通りに進まなきゃ、じゃなきゃ、この世界は終わってしまうのに・・やるしか・・ないの?ねぇ、殿下、私・・」


「ソフィー嬢とにかく落ち着いて。」


 そう言いながらも、ステファン自身落ち着いてなどいられなかった。


 吐き気が一気に襲いかかってくる。


 自分が何をして来たのかが押し寄せるように、頭が痛み、震えが止まらない。


「貴方を愛してしまうのは、私がヒロインだから?でも、この気持ちは?・・お姉様を裏切る私は生きている価値はないのに。それでも・・貴方を愛してしまう。」


 同じように、体をガタガタと震わせながら、しがみついてくるソフィーは嗚咽を漏らす。


「貴方を愛してしまうの。でも・・この気持ちだけは本物なのに・・」


 ソフィーの瞳からは涙が滝のように溢れる。


 それと同時に何かに操られるようにソフィーは言った。


「バグなんて・・殿下。お姉様を・・私は・・どうしたらいいの?」


 訴えかけられたステファンは、首を横に振る。


「ダメだ。」


 震える口は、ソフィーの言葉に何度も首を横に振る。


 大の男が、王太子たる男が、震えながらソフィーと同じように涙を流した。


「ダメだ。ソフィー嬢。」


 思い出したわけではない。


 けれども、何かが、自分の罪を責め立てる。


 ステファンはソフィーを引き離すと、血が滲むほどに唇を噛み、はっきりと言った。


「とにかく、一度家に帰りなさい。話し合いの場を明日設ける。」


 ソフィーはその言葉に腕をばたつかせて暴れると言った。


「そんなことをしていたら、この世界は終わっちゃう!私達のせいで、私達のせいで終っちゃうのよ!!!」


「何か方法があるはずだろう!!君が言っていることは・・確かに真実なのかもしれない。私の中の何かがそうだと言っている!!だが、それでも、私は・・ルミナを、これ以上ルミナを裏切りたくない!」


「私だって!もういい!私がやるから!」


「ソフィー嬢!!!」


 ソフィーは部屋を走って出ていき、ステファンはすぐに護衛を呼ぶ。


 ルミナの所在を突き止めるように指示をだし、そして自らも馬にまたがった。





 





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