二十話
学園の裏手にある小さな古い教会に、ルミナは静かに足を踏み入れると静かに呟いた。
「神様は・・私に意地悪よ。私何か悪い事をしたの?だから私にこんなに意地悪をするの?」
ルミナは静かに日の光によって美しく照らされるステンドグラスを見つめながら、胸を押さえた。
涙が、ぽたり、ぽたりと頬をつたっていく。
ステファンの為にもう涙など流したくないのに、愛していた時間が長すぎたから、心が痛みを訴えるのだ。
もう、嫌だ。
消えてしまいたい。
終わりにしたい。
愛し、愛されたかった。
今度こそ愛される人生を送ろうと思ったのに、自分を愛してくれる人を見つけようと思ったのに、神様は意地悪でそれを許してはくれない。
終わりにしてしまいたいという気持ちがどんどんと膨らんでいく。
「逃げてしまおうかしら。」
もしループが永遠に続くのであれば、どうせ戻されるのだろうけれどそれまでは自由でいられるのではないだろうか。
シャロンは自分を愛してくれると言ったけれど、今はそんなことなど考えられなかった。
逃げよう。
そんな考えが頭の中でめぐり、ルミナは気持ちがどんどんと明るくなっていくのを感じた。
そうだ。逃げてしまえばいいのだ。
ルミナは教会を出ると、一度自身の屋敷へと戻った。父は仕事、母は今日はお茶会と聞いているので、屋敷には執事とメイドらしかいない。
メイド達は突然帰ってきたルミナに困惑するものの、ルミナは楽しそうな様子であり何も言えず、いつものように着替えなどを手伝おうとしたのだがルミナにやんわりと断られてしまう。
ルミナは部屋へと入ると、宝石などをまとめ、そして自分の服の中でも一番簡素な物を選ぶと帽子をかぶり、そしてカバンを持って屋敷を出ようとする。
執事長はそのただならぬ様子に慌てて止めようとするのだがルミナは笑顔で言った。
「少し気晴らしに出かけるだけよ。ちょっと妃教育で疲れたの。」
可愛らしくそう言われ、執事長は押し黙る。
「湖畔に行って少し気持ちを整理してくるわ。行ってきます。」
「ではせめて旦那様に連絡をするまでお待ちください。」
「あら、それでは日が暮れてしまうわ。ふふふ。行ってきます。」
「お待ちください!」
執事長がそう止めるも、ルミナはお構いなしに馬車へとのると、郊外の公爵家の避暑地の屋敷へと走るように伝えた。
馬車は動きだしルミナは窓をあけて風を感じながら息を吐いた。
「気持ちがいいわ。こんなの初めて。」
どうせ数か月後には婚約破棄されてまたループするのだからそれまで自由に過ごしてやるとルミナは馬車に揺られるのであった。




