二話
ステファン王子の婚約者候補が集められたお茶会が開かれるのは、ルミナが十歳に戻った次の日である。
つまり、前日ルミナは婚約破棄され、その次の日に、婚約破棄されたステファンの婚約者候補の集められるお茶会に参加するのである。
そして通常ならば、ルミナが王太子の婚約者として定められる。
ルミナが婚約者に選ばれてきた理由は、年齢が近い事、そして公爵家の後ろ盾をステファンに付けることによって王太子という身分を確立させる事。そして何よりも、ルミナ本人の強い希望あってのことであった。
前回まではずっとそうだった。
けれど今回のルミナは違う。
お茶会の準備を進めていく侍女を眺めながらルミナは小さくため息をついた。
今日のお茶会に、二歳年下の妹のソフィーはまだ参加を許されていなかった。その理由としてはソフィーがまだ幼い事があげられ、お茶会には出せないと父であるエドウィンが判断したのである。
後妻であるエドウィンの妻でありソフィーの母であるビビアンは、その事を実は納得していなかったことを何度も人生をループしているルミナは知っている。
ビビアンはソフィーこそステファン王子の婚約者にふさわしいのだと思っている。
だからこそ、ビビアンは本来ならば家でまっている予定であったソフィーを着飾らせて、付添という形で王城へと連れて行くのである。
そしてソフィーとステファンは運命の出会いを果たす。
何度、何度邪魔をしても二人は出会うのだ。
なのでルミナは今回は邪魔をする気などない。
美しい金色の髪を可愛らしく結いあげて、そしてキラキラと輝く蝶の髪飾りをつけてたルミナは決意した。
これまではずっと我慢してきたことをしよう。
もうステファンは諦めたのだからいいだろうと、ルミナは薄紫色の瞳を輝かせた。
家族と共に馬車に揺られて王城を目指すと、ソフィーは周りをきょろきょろと見まわして、可愛らしく微笑みを浮かべている。
そんなソフィーを初めて可愛らしく思った。
ずっとソフィーが憎かった。
ステファン殿下に無条件に愛されるソフィー。
それがうらやましかった。
だが、ステファン殿下を諦めた今、ルミナにとってソフィーはただの妹となった。
「ソフィー。楽しんでね。」
にこりと笑いかけると、ソフィーは楽しそうに頷いた。
自分を何度も絶望へと落としたソフィー。
けれど、自分だってソフィーに酷い事を何度もしたのだ。
きっと彼女の中では私が悪者。
ならばきっと、お互い様なのだろう。
そう思うと、すとんと胸に何かが落ちた気がした。
「楽しみだわ。」
ルミナは窓の外に見えてきた王城を見つめながら、こんなにも穏やかな馬車の中は初めてだなと思った。