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十九話

 ルミナは学園での生活を楽しみながら、ある日の昼休みにふと庭へと視線を向けた。


 その視線の先には妹のソフィーがおり、あぁ、いつものシーンかとルミナは机に頬杖をつきながらそのシーンを見つめた。


 ソフィーが庭にて子猫を見つけ、楽しそうに遊んでいると子猫が木の上へと登る。


 それを慌ててソフィーは追いかけ、周りに誰もいない事を気にしながら木に登りそして降りられなくなるのだ。


 令嬢としてしっかりと教育を受けているはずなのに、ソフィーのそうした自由な生き方は変わらない。


「あの子ったら、本当におてんばねぇ。」


 その様子を微笑ましく見つめていると、そこへステファンとシャロンが通りかかった。


 慌てた様子のステファンは、ソフィーへと声をかけ、そして次の瞬間ソフィーが落ちる。それをステファンは抱き留め、シャロンは驚いたように歩み寄った。


「何度も阻止しようとしたけれど、何故か邪魔がはいって止められないのよね。運命って私に意地悪よね。」


 ルミナはそう苦笑を浮かべながら見つめていると、不意にシャロンと視線が合った。


「あら、これは初めて。」


 シャロンは目を見開き、そして慌てた様子でステファンとソフィーを引き離すと、ステファンに何かを言い、ソフィーを抱きかかえて連れて行ってしまった。


 ステファンがこちらを見上げた。


 その表情を見て、ルミナはやっぱりなと思ってしまう。


 浮気現場を見られて焦っているかのような顔。


 王太子が何ていう間抜けな顔をしているのだろうかと思っていると、ステファンが何かを口で呟き走って行った。


 あら?と、これまでとは違うなと思っていると、ステファンが二階のルミナの教室まで息を切らして現れると、ルミナの手を引き教室を出る。


 そして空き部屋まで引っ張ると、ルミナと向き合って言った。


「勘違いをしているだろう?あれは違うぞ。ルミナがどこから見ていたのか分からないが、あれは、ソフィー嬢が落ちてきたから抱き留めただけだからな。」


 焦った様子でそう言うステファンに、ルミナはこれは初めての事だなと思いながらも、その様子と少し視線を泳がせた姿から小さく息を吐いた。


 こうやって、期待をさせて、そして貴方は私を裏切る。


 何十回と変えられなかったことが、今回だけ変えられるなんて思わない。


 私は、貴方を信じない。


 貴方は酷い人よ。


 顔に笑顔を張り付けて私は言った。


「嘘つき。」


 ステファンが目を見開くのを見た。


「ル・・・ミナ?」


「貴方はそうやって、私を期待させて・・・・そして最後には私を裏切るのよ。」


「ちょっと待てルミナ。何を言っているんだ。」


 ステファンに腕を掴まれ、ルミナはそれを振り払うと言った。


「貴方は・・・貴方はいくら私をバカにすれば気がすむの!貴方は・・・貴方は私をこれっぽっちも愛していない。」


「待てルミナ。僕は君を愛している。」


 すんなりと出てくる言葉。


 ステファンはその言葉を意図も容易く使う。


 愛する努力をすると誓ったステファンは、ルミナを何度も愛してると口にするようになった。


 まるで自分に言い聞かせるように。


 その言葉を聞くたびに、ルミナが傷ついているとも知らずに。


 心のこもらない、それはただの言葉に過ぎない。


 ルミナを惑わそうとする言葉。


「・・そう。殿下は私を愛しているのね?」


 冷たくそう言うと、ルミナはハッキリとした口調で言った。


「軽い愛だこと。愛とは・・・・・愛とはそんなものではないわ。」


 愛とは重いものだ。


 愛すれば愛するほどにその人が愛おしくも、憎くもなる。


 ステファンの顔がどんどんと険しくなる。


「ルミナ・・・そう言いながらお前だって僕を愛していないではないか。」


 ずくり。


 心臓をまるでえぐりだすように、言葉の刃をつきたてられ、じわじわと血がにじみ出てくるのを感じる。


 じわじわと、痛みが走って行く。


「・・・愛して・・・・・・・・愛していたわ。何度も、何度も・・・貴方だけを。」


「何を言って・・・」


 ルミナは泣きそうになるのをぐっと堪え、そして声を荒げた。


「愛していた。貴方を。貴方だけを。でも貴方が見ているのは誰?心を惹かれているのは誰?分かっているくせに私に期待をさせて・・・・・・・・」


 顔を真っ赤にさせるルミナにステファンは抱きしめようと手を伸ばす。


 ルミナは手を振り払い、言った。


 ずっと言いたかった言葉。


 ずっとずっと叫びたかった言葉。


「男らしく、はっきりと言えばよかったのよ。自分の心を。回りくどく時間をかけてはぐらかすのではなく、ちゃんと私に話をしてくれたらいいのに。貴方は、私をバカにして、私が気づかないとでも思って・・・貴方を愛していた私が貴方の気持ちに気づかないと思って!」


 沈黙が訪れる。


 静かな時。


 ルミナはじっとステファンを見つめて言った。


「貴方を愛していた私が・・・貴方だけを見ていた私が・・・貴方の気持ちに気付かないと、どうしてそんな事を思うの?」


「ルミナ、待ってくれ。僕は本当に・・・」


 そこでステファンは言葉を失い、そしてすがるような視線をルミナへと向ける。


「誓っただろう?」


「胸に手を当てて、今こそ考えるべきでは?失礼いたします。」


 ルミナはステファンに背を向けて部屋から出た。


 早く一人になれるところに行かなければ。


 涙が流れてしまう前に。



 



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