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十二話

 父親にちゃんと愛は毎日伝えなければだめだと話をした翌日、ステファンからの手紙が届きルミナは頭を押さえていた。


 いくら父が婚約しなくてもいいと言っても、国王陛下からの命令であれば婚約しなければならなくなるだろう。


 だからこそ出来るだけステファンとは関わり合いになりたくなかった。


 だが、手紙にはもう一度話がしたいので会いたいと言う旨がしたためられており、ルミナにそれを断れる理由はなかった。


 そして一週間後の今日、ルミナは大きなため息を携えて王城の門をくぐったのであった。


 馬車を下りようとすると、扉の前にはシャロンがおり、にこやかに手を差し伸べてくれた。


「ルミナ嬢、来てくださりありがとうございます。殿下の所まで案内するので、手をどうぞ。」


 優しげな微笑に、ルミナはほっとシャロンが居てくれたことに安堵した。


 馬車から降りた途端ステファンだと心臓に悪い。


「ありがとうございます。シャロン様。」


 シャロンに案内され、ルミナは長い廊下を通り抜けてそして客間へと通された。


 だが、部屋の中へとはいったルミナはそこにいる人物に驚き、内心かなり動揺しながらも美しく一礼して挨拶を述べた。


「本日はお招きありがとうございます。公爵家令嬢ルミナ・ララーシュ只今まいりました。」


 頭を下げたまま、姿勢を保っていると優しげな声がかけられた。


「まぁまぁ。とても美しい一礼ですこと。さすが、アルマが感心していただけはあるわ。」


 高く澄んだ声が聞こえた。


「頭を上げて頂戴。今日は伝えもせずに私もいてさぞ驚いたでしょう?」


 頭を上げて、改めてこの国の王妃であり、ステファンの母であるシルビアをルミナは見つめた。


「はい。お妃様がいらっしゃっているのに驚いてしまいました。ですが、お会いできて光栄にございます。」


 はにかんだ笑みを見せたルミナに、シルビアは微笑みながらもじっと何かを見定めるようにして見つめ、そしてくすっと笑った。


「まぁまぁ!本当に、美しい所作といい、その笑みといい、アルマの言う通りね。なるほど納得がいったわ。」


「母上。私の客人です。もう納得がいったならば、お引き取りを。」


 横に腰掛けるステファンの言葉に、シルビアは苦笑を浮かべると言った。


「ふふふ。私が居なくなってもいいのかしら?言っておきますが、貴方ではきっとこのご令嬢の気持ちは絶対に変えられないわよ。」


 その言葉に、ステファンは顔を歪めるとルミナに視線を向けた。


「そんなの分からないではないですか。」


「いいえ、母には分かりますよ。ステファン。貴方のような未熟者ではこのレディには歯が立たないとはっきり言っているの。」


 シルビアはにこりと微笑むと、ルミナに座るように促し、そして傍に控えていたアルマがお茶を入れる。


 シャロンはステファンの後ろに控え、そしてシルビアはステファンを無視してルミナに言った。


「ルミナ嬢。いろいろ気になる事はあるけれども、ステファンの婚約者になる気はないの?先ほどの所作一つにしても、貴方は他のご令嬢方よりも群を抜いているわ。」


 温かなお茶が机の上に並べられていく中、ルミナは少し困ったような笑みを浮かべた。


「そのように過剰なお褒めは嬉しく思いますが、そんなことはございませんわ。私はまだまだ未熟者でございます。それに、私は思いますの。愛し、愛される人を見つける事こそ、真の幸せではないかと。」


 ルミナの口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのか、ステファンもシャロンも、そしてシルビアも少し驚いたような表情を浮かべている。


 ルミナはその様子に内心笑みを浮かべながらも、表面上は恥ずかしげに頬を赤らめて言った。


「私・・・両親のように愛し、愛される家庭を築くことが夢ですの。」


 これは、ルミナの本心でもあった。


 ルミナは築きたかったのだ。


 愛し、愛される家庭をステファンと築きたかった。だからこそ何十回とループを繰り返した。


 だが、無理なのだ。


 ステファンは、どんなに努力しても自分を愛さない。


 ルミナの瞳に影がよぎり、シャロンはその様子に気づき大丈夫かと声を掛けそうになる。


 けれど、この場は自分が口を開ける場ではない。


 だからこそ、ルミナの様子を見守っているとシルビアが笑顔で言った。


「素敵ね。なら、ステファンとそのような家庭を築いてはどうかしら?」


「え?」


 ステファンの眼が大きく見開かれる。


 ルミナはすっと視線をステファンに移すと、言った。


「殿下。殿下はどう思われます?」


 小首を傾げて尋ねる。


 シルビアの表情が一瞬曇り、ステファンを諫めるような視線を向けた。


 ステファンは慌てて笑みを張り付けると言った。


「もちろん僕もその努力を怠ることはしないさ。」


 けれど今の言葉で、ルミナには十分であった。


 なので、ルミナは困った視線をシルビアへと向ける。


 シルビアは息子の言葉に残念そうに眉間にしわを寄せ、そして目の前にいる幼い少女が、只者ではない事を肌で感じるのであった。








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