嘆きの森
広場にいるNPCに話しかけ馬車に乗り込むと、画面が暗転し、闇から抜けたときには嘆きの森の入り口に立っていた。
「相変わらず薄気味悪いところだな、開発者趣味悪いんじゃね。」
ファンタジー世界にホラーはいらないと心底思う。この森にでてくる巨大な昆虫は、慣れてしまえばどうってことないのだが、子供の頃からお化けだけは克服できない。
(俺がいくら強くなっても、倒すことができないならどうしようもねえよ。)
レンは平気なようで、
「嘆きの森って名前なくらいだし、ここで沸くモンスターもいかにも闇属性って見た目で、設定とはマッチしてるんじゃない?」
ほらな。
普段は周囲を気にしすぎで、慎重すぎるくらい観察してから行動する奴なんだが、ここにくるとテンションが三割増しになり、発言も多くなる。
そういえば前もこんなことを言っていた。
「この森、割と好きなんだよね。」
「どこが?」
「静かなところかな、音がよく聞こえるし。」
「騒がしかったらぶち壊しだからな、でも、音なんか気になるか?」
「結構重要だよ。音でコウちゃんやモンスターがどんな行動をとっているかわかるし。目のほうはHP・MP・スキルの管理に、周囲のモンスターの数や位置の確認とかで忙しいからね。」
「・・・嗅覚と味覚は何に使ってるんだ?」
「さすがに匂いじゃ何もわからないな。でも、味覚はよくおやつ食べてるから使ってるかな。」
変わった奴だ。だからこそ俺以外にフレンドがいないに違いない。おかげで気軽に連れ回せると納得することにしている。
いつもの昆虫採集をしながら進むと、見慣れた小屋に到着した。
スケルトンマローダーだ。どういうわけか、紫のオーラを放っている。
(俺は小六で黒帯をとった。紫帯なんてものは知らないがあっても級だろう。だったらその偉そうに担いでいる大剣も飾りだ。)
どうでもいい。少なくともこいつは殴り倒せる。やりようはある。
「さて、狩りますか。」
俺が合図を出すとレンはバフを開始した。
レンはエンチャンターだ。職業の選択まで変わってるのだが、頼りになる奴だ。俺のモンクとも相性がよく、安心して目の前のモンスターに集中できる。
レンの動きが止まった。バフは終わったようだが、いつも一呼吸待ってから戦闘を開始する。すぐに開始すると、2回目のハードシールドが間に合わないようで、他のシールドスキルを挟むことになる。俺はそれでも困らないのだが、長い狩りに付き合ってくれる神経質な相方に無用な負荷をかけることはない。
もういいだろう、俺はお化けを倒す作業を始めた。