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丸腰の剣豪(グランドフェンサー)  作者: 某としたことが
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閑話2:次なる獲物

 土曜日。

 大小様々なビルディングが乱立する新宿駅前には、多くの人々の往来があった。

 その大多数を、スーツ姿が占めている。通勤時間帯であるので当然といえば当然だが。

 人種がカラフルな背広の人波の中に、支倉刀哉は混じっていた。


 その格好はいつもの黒い小袖と袴ではなく、この群衆に迎合するような濃紺色のスーツ姿だった。生え際まで真っ白な頭髪の上には黒髪のカツラが被さっている。


 いつも持ち歩いている二本の刀は、もっともらしい竹刀袋に入れて持ち歩いている。今の時代、剣術クラブや居合いクラブのある会社は少なくないため、刀や模擬刀を携帯していても何ら不自然ではない。


 そう。刀哉のこれらの出で立ちは、堅気の人間にカモフラージュするためのものだ。


 自分の姿は、ネットにアップされた殺人現場目撃の動画によって大まかながら割れてしまっている。あまりにショッキングな映像だったので動画サイト運営側から即削除されたが、再生数は少なくなかった。

 画質の悪さが幸いして具体的な顔の造作はバレなかったが、刀哉を刀哉たらしめる大きな特徴を警察に与えてしまった。

 上下ともに真っ黒な着物姿。白髪。刀。その三つだった。


 だからこそ、それらの情報を消す必要があった。ゆえにこの格好というわけだ。


 刀は職質された場合少し心配だが、一応は問題無い。この二本の刀は登録済みで、所持許可証も持っている。それらが済んでさえいれば、日本刀を持ち歩くことは何ら問題は無い。刀身の血痕も拭き取ってある。その場でルミノール検査でもされない限りは大丈夫である。


 ——しかしながら、それだけで逃げ切れるほど日本警察は甘くない。治安が悪化した今でも、世界トップクラスの治安組織であることは変わらないのだ。


 この街で辻斬りを始めてすでに一ヶ月が経過しているが、ここまで足がついていないのは、ひとえに「ある業者」のアシストゆえであった。未だ逮捕されていない犯罪者の逃亡生活を支援するウラ団体で、それなりの額を積めば秘密厳守で逃亡生活をバックアップしてくれる。刀哉の隠れ家、食事、今着ているこの衣服も全てその組織の援助のたまものだ。


 ひとまず、刀哉の身辺状況の事はここで置いておこう。


 刀哉は現在、ある男を探していた。


 情報屋から入手した、目的の人物の顔写真を確認する。

 三十半ばほどの白人の男。鋭角的に引き締まった輪郭をした彫りの深い顔立ちで、鋭い翡翠色の左目の上から下に醜い傷痕が走っている。髪型は所々ささくれ立った銀色のミディアム。


 ヴォルフガング=バッハマン。ドイツ系アメリカ人。


 数多くの犯罪組織が渦巻くこの東京において、今一番勢いのある新興マフィア『群狼(ぐんろう)』のボスにして結成者。


 新たな指定暴力団入りも時間の問題と言われているほどの過激さを持つその組織の頭を張っているだけあって、本人の実力も相当なもの。

 物体の外部と内部を同時に破壊するその打撃は、まるで打った場所がごっそり消滅したように見えるらしい。それゆえに付いた通り名は『滅手(ヴァニッシャー)』。




 ——これは良い。斬り甲斐がありそうだ。




 極上の霜降り肉を見つけた猛獣のように、刀哉は舌舐めずりをした。


 情報屋によると、この男は新宿区の歌舞伎町によく出入りをするらしい。そこへ行って「ヴォルフガングと勝負したい」とでと言いながらあちこちを回れば、ナメられたら終いなヤクザ者は向こうから寄って来てくれるだろう。たとえ寄ってきたのがヴォルフガング本人でなくとも、そこから本人へたどり着けば良い。


 行動方針を固めた刀哉は、弾む歩調で歌舞伎町へと足を進めた。


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