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犬猿の仲なアイツと一緒に異世界転生  作者: LALA
転生したけど右も左もわかりません
3/5

初めての異世界

「はいっ! もう目を開けていいヨ~!」


 天使の声がすると同時に、さっきまでの浮遊感が無くなる。両足でしっかり立っている感覚がして安心した。


 どうやら無事に転生出来たみたいだ……といっても人格そのままだから、あまり実感はないが。



 そっと目を開けてみる。


 まず視界に飛び込んできたのは木立。枯れ葉で出来たツルが全身に巻き付いている木が、無数に立ち並んでいる。


 1本の大きさが……桜の木、くらいか?

 けど、つけている葉の数は桜以上だ。空を仰ぎ見ようにも深緑色の葉が(さえぎ)る。

 光も射し込んでこないので、今が朝なのか夜なのかもわからない。


 木立は見渡す限り続いている。木が多すぎて歩けるスペースが狭いし、辺り一面木陰となっているから薄暗くて見えにくい。


 おまけに、膝まである雑草が繁茂(はんも)していて歩きづらそうだ。

 鬱蒼(うっそう)とした森からスタートとは、幸先悪そうだな……。


 思わず顔を手で覆う。すると冷たく、何だかツルツルとした感触がした。

 明らかに素肌ではない感触に驚いたので右手を見ると、白い手袋が嵌められていた。


 手袋は艶やかで、汚れも全く無い。何の生地で出来てるか分からないけど、パッと見はサテンに似てる。



 こんな高そうで綺麗な手袋を僕は持っていた記憶が無い。つまり、これは異世界に転生した僕が最初から身に付けているものか。



 じゃあ、僕は今どんな格好をしてるんだろうか?

 ふと気になり、自分の体を見下ろしてみる。



 まず首もと。


 そこにはネクタイ結びにされている白いスカーフがあり、結び目には深紅色の丸く小さな宝石が添えられている。

 スカーフは手袋と同じ素材っぽいな……これもまたシワもシミも無し。高級感漂っている。



 次は上半身。


 こっちは黒いウェストコートと白い長袖のシャツというシンプルな組み合わせだ。

 スカーフみたいに高級感こそ漂ってないが、普通にオシャレ……だと思う。

 こっちの世界だとどうなのか分からんが。



 次に下半身。草に隠れて靴が見えなかったので、片足を上げる。


 黒い長ズボンに、革製っぽい黒いショートブーツか……。ショートブーツは足首部分に赤茶色のベルトが巻かれていた。


 うん、ここまでは普通だ。元の世界でも十分通用する服装だ。



 最後に体をひねって背中を少しだけ見てみる。そこには背中を覆い隠す、長くて大きな布。

 たぶんマントか? マントらしきものが膝まで伸びている。


 うん、これも普通だな。普通の長くて黒いマント………………って待て待て待て待て!



「なんでマント!? ここまで普通だったのに、なんで急にマントが出てくるんだ!」


 驚きのあまり声に出してしまった。普通だと思ったらコレか。よりによってコレか。


 もう一度マントを見てみる。


 色は……外側が黒で、内側が赤。

 種類は襟が立っているタイプ。



 ……まあ、マントとしては普通だ。コスプレ用の衣装でもありがちなヤツだ。

 けど、これ留め具が無いんですけど。

 どうやって止めているんだコレ。どういう原理で体にくっついてるんだ。


 元の世界でこんな格好していたらイタイ厨二病なんだが、こちらではマントが普通なのか?

 もしくは天使の趣味か?……ん、天使?


 そういえば天使の声がしないぞ。



「……おーい天使……? いないのか……?」


 声をかけるが返事は無い。


 もしや……置いてきぼり?

 転生だけさせといて、あとは知りませんと?

 仕事は転生させるまで、その後は管轄外ってことか?


 ……冗談じゃないぞ。



 僕はこの世界について何も知らない。

 それどころか家族もいない、知人もいない、住む場所ない、地理もわからないと、無い無い尽くしだ。


 こんな状態で異世界に放り出すなんて酷くないか!? 無責任じゃないか!?




「……はあ~あ……」


 深い深い溜め息が無意識のうちに出てくる。


 そもそも天使のせいで死んだのに、何故こっちばかり苦労しなきゃならないんだ……。


 あれか? 天使的には、転生してもらっただけありがたく思えって考えなのか?



 これからどうしようか……頼るあても行くあても無いぞ……。

 とはいえ、こんな森の中でジッとしてても始まらない訳で……。


 …………うん、とりあえず森から出るか。森から出て、人のいる場所へ行こう。


 考えるのはそれからだ。




 ******




 森を歩き続け、しばらく経った。

 時計が無いから正確には何分経ったかわからないが、まあ精々10分程度……か?


 だが僕はもう1時間は歩き続けた気分だ……。



 生い茂る雑草のせいで足元が見えず、小石や木の根らしきものに何度も蹴躓(けつまず)いた。


 1歩進むたび障害物が無いか気をつけ、爪先に神経を集中させ続けるのは、体も精神も疲れるうえ、歩行速度も遅くなるというオマケ付きだ。


 注意して進んでいるからか、未だに転んで怪我などはしてないのが幸いだが……こんな調子で、いつになったら出られるんだ。


 歩けど歩けど、見えてくるのは木・木・木……。

 暗いせいで気分も余計に滅入り、このまま永遠に出られないんじゃ……とさえ思ってしまう。



 むしろ、ここが地獄だったりしてな……。




「…………ん?」


 ネガティブな考えが脳裏を掠めたその時、道の先に光が見えた。

 それは小さく弱い光だが……僕には後光のように強く神々しいものに感じられる。


 木陰の中で見える光だ。出口の可能性が高い筈! というか出口であってほしい!



 本当は駆け出したいが、転んで足でも挫いたら元も子もないので、慎重に進める。

 なんとももどかしいが、光には徐々に近づいている。

 それに(ともな)い、小さかった光は大きくなり、形がハッキリとわかるようになった。


 木々の間にぽっかりと開いている穴。

 その向こうに広がる草原、そして青空。


 やはり出口だったんだな!



 出口へ近づくにつれ雑草の数は目に見えて減っていき、歩くことに気を遣わなくても良くなった。


 気分も足取りも軽くなり、僕は晴れやかな気分で森の外へ飛び出した。



「うっ、く……!?」


 青空の下へ出てきた瞬間、激しい目眩が襲いかかった。

 まるでジェットコースターに乗ってるかのように、目の前がグルグルグルグルと回転している。


 何処が天で、何処が地なのかすらわからない。


 不意にドサッという、何か重い物が落ちたような音がした。もしかして僕が倒れたんだろうか。

 視界が激しく揺れるせいで、自分が立ってるのか横たわってるのかすら分からない。


 体を動かそうと思っても力が入らない……指先1つも動かせない……。



 目眩に続け、今度は息苦しさと熱さが襲ってきた……。


 上手く息が出来ない、空気をまともに吸い込めない。喉や鼻に何か詰まってるようだ。


 そして熱い……全身が熱い、痛い。

 全身がジリジリと痛む。鉄板の上で焼かれているかのようだ。

 汗が滝のように吹き出し、熱で痛む肌を流れていく。



 いったい、何が起きたんだ……どうして急に、こんな…………。

 このまま動けずに、僕は死ぬのか……?



 死。

 一度は経験した筈なのに、恐怖で心臓が激しく波打つのがわかった。




「ああっ!? 大丈夫ですか!?」



 ……!?

 今のは女の子の声!?


 だが、あのノリが軽い天使の声とは違う。

 切羽詰まった様子の、それでいて透き通るような綺麗な声。



「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」


 声が耳元で響く。どうやら側に来てくれているようだ。


 返事をしたいが上手く声が出せない。



「まだ息がある……。今、木陰に運びますから……それまで頑張って」


 手を掴まれ、回される。

 目眩のせいで見えないが、恐らく肩を貸してくれているんだろう。


 ありがとう、見ず知らずの人。




「ふう……ここまで来れば大丈夫ですわ……」


 肩から手を外され、何かに(もた)れて座らせられる。


 目眩や痛み、苦しさも急激に和らいでいくのが分かる。

 どうやら助かったようだ……。


 2、3度瞬きをすると、目眩が治まり視界が正常に戻った。




「気分はどうでしょうか?」


 声をかけられ顔を上げると、僕を助けてくれた女性の姿が見えた。


 半透明の黒いヴェールに、黒いロングドレス。そして大きなリボンの付いた赤いケープ。


 ……パーティーに出席するお嬢様のような出で立ちだ。

 この世界ではドレスやマントが普段着扱いなのだろうか。



「……どうなされたんですの? もしや、ご気分が優れないのですか?」


 女性の服をジーッと見て、返事をしなかった僕に彼女が顔を近づけてきた。


 丸くて大きな深紅(しんく)色の瞳。


 ふっくらとした柔らかそうな唇。


 夜を優しく照らす、美しい月光のような青白色(せいはくしょく)のカールロングヘアー。


 色白を通り越して顔色がかなり悪いが、かなりの美人だ。




「あの……(わたくし)の声、聴こえてますか?」


「あっ、すみません。大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」


 慌てて僕が謝罪と礼を同時に述べると、女性は訝し(いぶかし)げだった表情を笑顔に変えて「良かった」と言った。


 命の恩人の顔をまじまじと見つめる失礼な態度をとってしまったが、どうやら怒ってないようだ。


 あまり物珍しげに見ていたら怪しく思われそうなので、一旦彼女から視線を外して立ち上がり、辺りを見渡す。



 ……見覚えのある森だ。というかさっきまでさまよっていた森だ。


 出られたと思ったら、突然の体調不良によって戻された訳か。

 しかし、何で急に目眩がして……また急に治ったんだろうか。




「あっ、申し遅れました。私はルナジェリカと申します。あなたは?」


「僕は冬野……いや、シキです」


 深々と頭を下げるルナジェリカさんに対し、僕もお辞儀をして名を名乗る。



「シキさん……ですか。少々変わったお名前ですのね。それはそうと」


 穏やかな表情から一変、ルナジェリカさんは怒りを露に僕へ指を突きつけた。



「あなた、フードや帽子も無しに日の当たる場所に出るなんてどういうつもりですの? あんなの自殺行為ですわ!」


「は……?」


「は?じゃありません! 危うく死ぬところでしたのよ! あれが直射日光なら即死でしたわ!」


 すいません、ルナジェリカさん。僕はまだ分からないことだらけなんです。

 だからそう怒らないでください。


 …………ていうか、何で日の下に出ただけで自殺行為になるんだよ。

 あれか? この世界の太陽は熱が強すぎて、人体に有害なのか?


 確かにさっき全身が熱くて痛かったが……でもそんな火傷する程の日光が帽子なんかで防げるのか?




「……どうしてそんなに不思議そうな顔をしてらっしゃるの? あなたも吸血鬼なら日の光が、私たちにとってどれほど危険なものなのか、ご存知でしょう?」


 …………吸血鬼?


 吸血鬼って何だっけ。えーと、アレだ。

 映画によく出てくるアレだ。

 人間の血を吸う化け物だ。


 要するにドラキュラだ、ヴァンパイアだ。


 理解した。理解はしたが、心が追いつかない。

 今ルナジェリカさんは何と言った?

 僕が吸血鬼だと?



「…………あの、え……吸血鬼って、え? 僕が……?」


「そうですけど……それが何か?」


「………………」


 絶句。

 口は動いてるのに、驚きのあまり言葉が出てこない。


 だって吸血鬼だぞ。

 何でよりによって化け物に転生したんだ。


 さらに今、ルナジェリカさんは【私たち】って言った。

 つまり目の前にいる彼女も吸血鬼という訳で……。


 何故こう、とんでもない出来事が立て続けに起きるんだ……。




「えっと、日光のせいで混乱してらっしゃる……みたいですわね。良かったら顔を洗いませんか? 近くに綺麗な泉がありますの。冷たい水で汗を流せば、頭もスッキリすると思います。ご案内致しましょうか?」


「…………ハイ、お願いします……」


 何でもいい、とりあえず冷静になりたい。一息つきたかった。


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