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犬猿の仲なアイツと一緒に異世界転生  作者: LALA
序章:転生するまでの何やかんや
2/5

転生の手続きも突然に

「…………ぃ…………キ……………だい…………ぶ?」


 ……なんか声が聴こえてくる。でも何を言ってるのか分からないな……ハッキリ聴こえない。

 それに眠い。眠くて目を開けるのも億劫だ。


 まあ、いいか。このまま二度寝しても……。

 眠いんだからしょうがない。


 あれ、そういや僕……寝る前に何やってたんだっけ? 思い出せないけど、まあいいか。


 寝よう。




「………………!! ちょっ、ダメ!! 寝たらダメ!いま寝たら永遠の眠りになっちゃうヨ! 起きて起きて起きて起きてえええええ!!」


 ……うるさいな。


 今度は大声がハッキリと聴こえてきた。

 これは女の子か? 少し高めで、ちょっと舌足らずな声。


 どこかで聴いたような…………。

 それも、ついさっき……ん? ついさっき?



「そうだ! さっきの声だ!」


 どこで聴いた声なのか思い出し、僕は反射的に体を起こした。

 さっきまで重かった瞼も一瞬で開く。そうすると、夜空のような光景が見えた。


 暗闇の中にあちこち小さな光があり、それが周囲を照らしている。

 とても幻想的で、まるでプラネタリウムを見てるみたいで綺麗だ。


 ……しかし、綺麗なのはいいけど……ここどこだ? 辺りを見渡しても夜空しか無いし、床は真っ黒でコンクリートみたいに冷たいし。


 さっきまで、帰り道でネコを撫でていたのに……どうしてこんな訳のわからない場所に……。




「やっと起きたと思ったら無視!? ひどいやひどいや!」


 また女の子の声だ。それもまた頭上の辺りから。

 一体なんなんだ……そう思いながら上を見ると、そこには小さな女の子。


 歳は……3才ぐらい? 身長は低くて100㎝も無い、90㎝くらいか。

 真っ白な長袖のワンピースを着ていて、スカートと袖部分にはフリルがついている。


 これだけなら、ただの可愛い女の子だけど……明らかに普通じゃない所があった。



 1つはフワフワと宙に浮いていること。僕が女の子を見上げ、女の子が宙から僕を見下ろしている。


 もう1つは、女の子の肩まで伸びている髪がピンク色なこと。こんな漫画みたいな髪色は見たことがない。


 そして最後の1つは……翼。女の子の背中には真っ白で大きな翼があった。

 小さな体には不釣り合いな、天使のような翼が。




「おお、あちしを見てる。ということは、ちゃんとあちしの声が聴こえて、姿も見えてるってことだネ!」


 そう言って嬉しそうに笑う女の子。喜んでるみたいだけど…………すみません、ちょっと僕ついていけないです。



「……うん、夢だ。これは夢だな。気がついたら夜空が延々と続く場所にいて、そこには羽根の生えてる女の子がいるとか、ありえない。もう一回寝て、目を覚まそう。おやすみ」


 僕は寝そべり、目を閉じた。


 これは夢、これは夢、これは夢。絶対に夢だ。

 夢じゃなきゃ説明つかない。こんな非現実的な状況。



「おいいぃ! 現実逃避しちゃってるヨ、この人! めんどくさい人だなー、もー! じゃあ、もう勝手に話を進めるヨ! 単刀直入に言うけど、キミ死んだからネ! 死んじゃったからネ!」


 死んだとか言ってる。縁起の悪い夢だな。

 死んだんなら今ここにいる僕は何? ていうか、ここが何? あの世か何か?



「あっ、今“ここはあの世?”とか思ったでしょ? 思ったでしょ! それは半分正解で、半分間違い。ここは、あの世とこの世の間にある場所だヨ」


 あの世とこの世の間。確かにここは、そういう神秘的っぽい場所だけど……。

 それを信じたら、僕も死んだってことに……。


 ダメだ、やっぱり夢だ。



「強情だなあ。まだ信じないの? じゃあ、この子を見てヨ! ホラ!」


「……この子?」


 ゆっくりと体を起こして目を開けると、翼の生えた女の子が白ネコを抱きかかえていた。



「この白ネコって……さっきの……」


 意識を失う前、一緒にいたネコと同じだ。雪のように白く美しい毛並み、宝石のようにキラキラしている青い瞳。間違いない。

 このネコを撫でていたら、目の前が真っ白になって……そのまま気を失ったんだ。



「この子のこと、ちゃんと覚えてるみたいネ。これで、現状が夢じゃないってことわかった?」


 女の子の言葉に僕は無言で頷く。

 これが夢じゃないんなら、僕……本当に死んだのか。まだ成人もしてないのに……こんな急に……。



「でも、何で僕は死んだんだ? トラックが突っ込んできたとか、通り魔に刺されたとか、そういう訳じゃなさそうだが……」


「あー、うー、それは、えーっと……まことに申し訳ないし、申し上げにくいんだけどネ…………」


 女の子は目を泳がせ、額に汗を滲ませる。

 え、何? もしかして僕は口にするのも躊躇(ためら)われる程のグロい死に方をしたのか!?


 思わず唾をゴクンと飲み込むと、同時に女の子が勢いよく頭を下げた。



「ごめんネ! 君が死んだのは、あちしのミスなんだ! ほんっとーにごめん! マジでごめんネ!!」


「…………は?」


 必死に謝る女の子。それに対して僕の口から飛び出してきたのは、間の抜けた声。


 また夢だと思い込んで眠りたくなってきた。



「あわわ、やっぱり怒ってるよネ……んっと、説明すると長くなるんだけど……まず、あちしは見ての通り人間じゃありません! 神様に仕える天使です! で、この白ネコは神様が可愛がってる光の精霊!」


 僕が黙りこんだのは怒ってるからだと思ったのか、自称天使は早口で事情を話し出した。

 せっかく説明してるところ悪いけど、余計に混乱しそうです。


 なに、天使とか神様とか精霊って。事実は小説より奇なりって、こういうこと?



「……そのネコが精霊だって言うなら、何で普通に町中を歩いてたの?」


「えっとネ……この子、見た目だけじゃなくて性格までネコっぽいんだ。よく神様の所から逃げ出して、あっちこっち行っちゃう。今回はたまたま人間界に来ちゃったワケ」


「はあ」


「あちしは天界から人間界を見下ろして、気配を元に精霊を探してた。で、ようやくこの子を見つけて天界に吸い寄せたんだけど……」


 天使が言葉を切って咳払いをする。そしておもむろに口を開いた。



「早く連れ戻さないと神様に怒られる!って思ってて……慌ててたから、その……キミが居たのに気づかなくてえ…………キミの魂も一緒に吸い寄せちゃったんだ! ごめんネ!」


「えええええぇぇぇ!?」


 僕の魂を吸い寄せたって……それが死因!? 体から魂が抜けたから死にましたっていうヤツ!?


 要するに、逃げ出したペットを探してたら一般人を巻き込んだってことか! もっと壮大な理由があると思ってたら意外としょうもなかった!



「いやー、何度も言ってるけどマジでごめんネ。焦ってたから周囲の確認を(おこた)ってたんだよネエ……あっ、と思ったら時すでに遅し……」


「あっ、と思ったらじゃないよ! 人間1人死なせてるのに何か軽くないか!? ていうか吸い寄せたのは魂だけなんだろう!? だったら今すぐ体に戻してくれ!」


 魂だけ抜けて体が無事なら、魂が戻れば生き返れる筈! 漫画では大体そうだし!



「体から魂を吸い出せるくらいなら戻すことだって出来る筈だよな、だって天使なんだし!」


「あー、それは無理だヨ……生き物の体は、魂が完全に離れた瞬間ただの肉塊になるんだよネ。キミ達の世界で有名な幽体離脱とかは、魂が体から抜けてはいるけど見えない鎖でちゃんと繋がってる。でもキミの場合は天使の力で強引に吸い寄せちゃったからネ……完全に分離した魂と体は、もう1つに戻れないんだヨ」


「えぇ……じゃあ、僕はもう生き返れないってことなのか……」



 死んだこともショックだったのに、一縷(いちる)の望みもダメだったから余計ショックが大きい。


 こんな、こんな事で人生が終わるとか……。


 しかも原因は、幼女の姿をした天使によるミス。怒る気にもなれない。


 もちろん天使に対する怒りはあるけど……非現実的な死因と、死んだショックが大きすぎて……。

 もはや怒鳴る気力も、泣き叫ぶ気力も残ってない……。




「そ、そんなに落ち込まないで! 大丈夫だヨ、生き返ることは確かに出来ないけど……代わりに“転生”は出来るから!」


「転生……? つまり、生まれ変わるってこと?」


「うん! 生き物は死んでも、違う存在に生まれ変わることが出来るんだ。だからキミが望むなら……いったあい!!」


 突然叫ぶ天使。

 いったい何事かと視線を天使の顔から体へ下げたら、抱っこされていた白ネコが彼女の手に噛みついていた。



「イタイ! イタイってばあ!」


 涙目の天使は白ネコを床に向かって投げつける。けど、精霊とはいえネコの姿をしているからか、ネコは叩きつけられず綺麗に着地を決めた。


 しかし、噛まれて痛かったのは分かるけど……このネコは神様が可愛がってる精霊なんじゃ? そんな乱暴に扱っていいのか?



「ニャー! ニャー!」


 天使を見上げ、全身の毛を逆立てて威嚇するネコ。

 さっきまで静かにしてたのに、何で急に怒ったんだ?



「もうっ、悪い子なんだから! キミは先に天界へ帰ってなさーい!」


 言いながら天使がパチンと指を鳴らすと、ネコの体が白い光の玉に包まれた。光に包まれたネコはフワフワと上に飛んでいき、そのまま見えなくなった。


 ……僕の魂もこんな風に天へ吸い寄せられたのかな……。



「ふう……じゃあ話を戻すヨ。えっとネ、キミが望むなら転生させることは出来るんだ。ただし、転生先の世界は選べないけどネ」


「転生先の世界? 僕が生きていた世界の他にもあるのか? まさか異世界というヤツか!?」


「そーだヨ! 生き物は死んだら、消えるか転生するか選べるんだ。キミが生きたいと願うなら、転生して次の人生を送ることも出来る。あとキミの死因は天界の者であるあちしが関わってるから、少しだけ特典を付けて転生することが出来るヨ! さあ、どうするのか決めて!」


「……え。ええっ!? 決めてって、ちょっ、待て! 考える時間をくれ!」


 異世界、転生、そして特典。まるでラノベの世界だ。

 けど恐ろしいことにこれは現実。決断を迫られているのはラノベの主人公ではなく、僕自身。


 でも、どうするか決めろって急に言われても困る!


 そりゃあ消えたくはない。死んではいるみたいだが、僕にはまだこうやって意識がある。

 消えるってことは完全に死ぬってことだろ? この意識も無くなるってことだろ? それは怖いし、嫌だ。


 でも転生して違う自分になるのも怖い。生まれ変わるってことは、今の僕……“冬野シキ”という人格が消えるんだろうし。


 というか、どちらを選んでも今の僕が消えるのは同じなんじゃ……。




「あのさ、悩んでるところ悪いけど早く決めないと手遅れになるヨ? キミの魂は体に入ってない剥き出しの状態だから、このままだと腐って消えちゃうヨ。ていうか、もう少しで消えちゃうヨ」


「はっ!? か、考える時間すら与えられないの!?」


「まったくもう、男ならズバッと決めちゃえ! ちなみにあちしのオススメは転生だヨ。なんたって特典付きだしネ」


「と、特典ってどんな!? まさかチート能力!?」


「チートを与えられるのは神様だけで、あちしみたいな天使じゃ無理無理。あちしが付けられる特典は、前世の記憶……つまり今のキミの人格だけだヨ」


「今の人格……ってことは、消えずに済むのか!」


 消えるのは怖いから転生を躊躇(ためら)ったが、人格が残るっていうなら、道はソレしかない!



「じゃあ、転生させてくれ! その特典つきで!」


「りょうかーい。ちなみに特典つきで転生するなら、新しい体は精神年齢に見合ったある程度成長した状態になるからネ。あと、オマケでその世界の言葉を覚えてる状態になるヨ!」


 そう言って天使はニッコリ笑うと人差し指を立て、ゆっくり振り始めた。



「じゃあ、今からキミを特典つきで転生させるから目を閉じて。あちしがもういいよーって言うまで開けちゃダメだからネ」


「わ、わかった」


 言われた通りに目を閉じる。

 視界が瞼に遮られ、真っ暗になる――と同時に浮遊感がした。

 足が地についてる感じがしなくて落ち着かない。



 ……それにしても、異世界に転生か……。

 時間が無かったから勢いで決めたけど、これから大丈夫か……。

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