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『厄介事は決まって向こうからやってくる』

 「・・・っい・・・・・・・おいってんだろ!!いつまで寝てんだこの野郎!!」


 「いって~~!」

 突然の衝撃に目を覚ますとそこには小汚い天井とその天井と同化できそうな程小汚いひげ面のおっさんがいた。ともすればゴブリンと見間違えそうな程だ。

 この見慣れたゴブリン・・・もといおっさんは俺の唯一信頼の置ける仕事仲間のネイルだ。


 「いって~じゃねーわ。優しく声かけてる間に起きねーからだ」

 「そんな野太い声で声かけられても、喜んで起きるのは雌ゴブリンぐらいだぜったく」 

 「誰がゴブリンだ!」

 憤慨し反射的に繰り出してくるネイルの裏券を左手で受け止める


 「ンなこと言ってねーだろ、んで・・?今日はなんの用だ?」


 ネイルはやり場に困った右手をおずおずと引っ込め「ったくお前は本当に・・・」などとぶつくさ言いながら一枚の羊皮紙を取り出してきた。

 俺はその羊皮紙に書面に見覚えがあった。

 「・・・依頼か」

 そう、『仕事』の依頼書である。俺たちみたいなどこにも属さないハグレ者は様々な形態で仕事を行う。

 それの中で最も割合が多いのが『表通り』からの依頼だ。


 俺達『裏通り』の人間は表の奴等から基本仕事を請け負う。コッチに来る様な仕事は大体碌な物がない。ほとんどが犯罪ラインを超えてる仕事ばかりだ。

 くだらないので有名なのは「アークとエルスを別れさしてくれ」この依頼はかれこれ4年前から出続けている。くだらなすぎて誰も請けないのだろう。

 酷いものであれば「~を捕まえてくれ」系だな。この手の依頼は大体個人指定で、その指定先は大体女だ。指定された女を縛り上げ依頼主に届ける。ナニに使うかはご想像にお任せしますってやつだな。

 基本的にはそう言ったクダラナイ仕事は俺達は請けない。

 なぜなら俺とネイルは『盗賊シーフ』だからだ。



 「あぁ、今回の依頼はなんと青い血の一族からだからな・・・なかなかの儲け話だぜ」

 「くせぇ貴族ブタか・・・」

 「ああとびきっりの極上ローストポークだぜ・・・請けるだろ?」

 「はん・・今までネイルのもって来た仕事を請けなかった事がねーだろーが・・ったく」

 「あぁ~ありがと~だからカル大好きだぞ~~」

 何を思ったかネイルが両手を広げ目を瞑りながら髭面を近づけて来やがる。

 

 「きめぇーってんだよ」

 近寄るネイルを正面から一蹴すると、ネイルはたたらを踏み、大げさに体勢を崩しその場に倒れこむ。

 わざとらしい倒れ方しやがって・・・。

 俺は「おら」っと片手をネイルへと差し出す。


 「いてててて・・・・お、ありがとう「違うだろ・・」」


 俺の手を取って来たネイルを仕方なしに引っ張りおこす。


 「貴族相手だ、手付金(ペイ)貰ってるんだろ・・・よこせよ」

 「あらら、ばれたか・・・しっかりしてるな~」

 「ああ、誰かさんの教育が良かったからね」

 「くはっ、違いねぇや」

 ネイルはその胡散臭い顔を歪めると飛び切りの笑顔でそう言った。







 ネイルと俺の付き合いはなかなかに長い。

 それこそ俺がまだ小便臭いガキだった頃から世話になっている。


 俺達が初めて出会ったのは俺がその辺の道端で腹が減りすぎて野垂れ死に直前の時だったな・・・。ネイルは死に掛けの俺をたまたま見つけ何をどう思ったのか俺に飯を恵んでくれたんだ。

 それからというもの俺はこの世のルールから文字の読み書き、仕事のやり方、果ては女の喜ばせ方までネイルに教わったといっても過言ではない。


 俺は物心ついた頃から親という存在を知らない。だが、知らないが故に会いたい等と思ったことも一度もない。顔も知らない両親への想いなんぞ何の足しにもならないしな。

 だけどそんな俺にも家族と言える存在が三人いる。その一人がネイルだ・・・。

 これまでずっと一緒に仕事をこなし、寝食も共にしてきた。この世界で唯一信頼できる相手でもある。

 もう一人は前世話になっていたババァだ。

 何をどう思ってそうなったのか、こんな世の中でもババァはお人好しで捨てられた子供を引き取っては育てていた。血の繋がりのない俺らを分け隔てなく育ててくれた恩人だ。

 あんな事がなけりゃ今でもきっと・・・・。

 まぁいいや。終わったことだ。こうしてネイルとも出会えたし一期一会ってやつだな。


 俺が14を過ぎた辺りで一人で暮らせれるようになってからはネイルとは別々で暮らしているが『仕事』の時はこうやって俺を誘いにくる。

 ネイルは昔から『仕事』の仲介斡旋をメインで生計を立てているが、大きな『仕事』になれば本人も出張ってくる。ここ最近では珍しく儲け話とかほざいてるからには恐らく今回はおっさん自ら出張ってくるんだろう。




 あれからネイルと打ち合わせを終えた俺はというと、今回の『仕事』の下見がてら目標の周辺調査中だ。

 今回ネイルが持ってきた『仕事』はギリだ。ギリとは所謂盗みの事だ。

 俺達の『仕事』の大半はギリとメクリとなっている。メクリはまぁ、国の管理している遺跡を自主的に発掘調査している、平たくいやぁ~盗掘だ。


 どっちも糞みたいな仕事だが俺達は自分から動くことは決してしない。何かしら依頼を受けて初めて動くのだ。自らの欲で行った行為はただの犯罪行為であるという理由からなんだが、結局過程や結果、どこをどう見ても行っている事は犯罪だが依頼を受ける事で俺はソレを『仕事』とする。


 まぁ、こんな糞みたいな街で生きている俺達の数少ない誇りみたいなもんだ。


 ネイルから聞いた内容は王都の魔法薬屋へ進入したんまり溜め込んだゴールドと目標の魔法石の回収だ。

 ゴールドはついでらしいが目標である魔法石は国王にそれ一つ献上すれば貴族へと陛爵されるほどの代物らしい。

 まぁ、効果の程は知らないが、魔法石一個で陛爵とかきっと碌な代物じゃないだろうな。奇跡を封入された様な品物か・・・はたまた禁呪系の代物か・・・。

 まぁどちらにせよ曰く付の品物には違いない。依頼主曰く、年代的に王国建立期当時の物である可能性が高いらしいし、それなら失われた古代魔法の可能性もあるか・・。

 ま、俺には中身が何だろうと関係ない。俺は『仕事』をこなすだけだ。

 それが俺の存在意義でもあり存在理由でもある。







 ここ王都アルスバーグの高級商店街には幾つもの商店が軒を連ねている。

 しかし連ねるといっても一つ一つの店舗のサイズが半端じゃない。

 平民御用達の商店ならば5つは最低でも飲み込まれちまような大きさだ。

 しかもそれぞれの店の前には執事かメイドを思わせるような制服を着た店子が立っている。

 俺が通りすぎる度に軽く腰を折り傾頭してくる。

 よく教育されているもんだ・・・まぁ恐らく奴隷だろうがな。


 一際大きな店構えの店を見つける。

 赤地に金色でシュテイン魔法薬店と書かれた大きな看板が入り口の上に掲げられている。

 「こりゃーなかなか・・・酷いセンスだ・・・。」

 率直な感想を誰にも聞こえないように小声でつぶやくと意を決し見せの中に入る。


 「「いらっしゃいませ」」

 メイド服姿の奴隷が声を揃え俺を迎え入る。

 

 俺は立ち止まり店の中をぐるりと見渡す。

 

 小奇麗に並べられた商品は手前からポーション系と魔法具、後この店の看板商品でもある化粧品が順番に陳列されている。化粧品売り場の周囲には、吐き気を催しかねないケバケバしい香水の匂いを漂わせ、あきれそうな程煌びやかなドレスを身に纏ったブタ共がいた。


 ここ高級商店街の店にはそれなりの身形をしておかないと立ち入ることすらままならない。故に俺も今は上等な服に身を包み髪の毛は金色のウィッグをかぶり変装している。

 まぁこんな所に顔見知りが居るとは思えないが・・・。


 ブタ共を一瞥し俺は軽く店の中を一周しようと動き出した時、なんとなくだが視線を感じた。

 周囲を見渡すとすぐに原因に気がついた。

 さっき店の前にいたメイドがこちらに露骨に視線を送ってきている。変装もしているのだ何故だろうか・・・?気づかれるようなヘマを打ってもいないしそもそもまだ何も行動を起こしていない・・・。

 俺は少し思案するととりあえず店をぐるりと一周してみる。


 やはりちらちらとメイドが未だこちらに視線を送っている。

 なんとなしに俺はメイドに話しかけてみることにした。


 「君、少しいいかな?」

 「ひゃいっ!」

 メイドはまさか話しかけられるとは思っていなかったのかびくっぅ!!っと音がしそうな程驚いた。


 「・・・すいません。何か御用でございましょうか?」


 メイドが上目遣いでこちらを見上げてくる。男としてはなかなかクルものがある情景だが・・今の俺はどこぞの貴族風好青年。視線は動かさない。

 「すまない、驚かせてしまったみたいだね・・・ライフポーションを一つほしいのだが」

 

 とりあえず話のネタもなかったから商品を取りにでも行ってもらうか。

 「はい、承りました。少々お待ちください」


 そう言うとメイドは奥のポーションが陳列されている場所に取りに行った。

 どうやらそういう(・・・・)色の混じった視線だったみたいだ。

 そんな感じはしなかったんだが、勘違いか・・・。

 しばらくするとメイドが試験管ほどのビンを一つ持ってくる。


 「ご購入でよろしいかったでしょうか?」

 ああ、と軽く頷くとメイドが店の奥にポーションを梱包しに行った。その隙に店の中全員の視線が外れたのを確認し左手のブレスレットを右手で触る。


 「マッピング」


 誰にも聞こえないように小声で呟くと同時に頭の中に店の図面が現れる。


 『建図のアーティファクト』古代王国時代の遺品だ。任意の建物の図面を瞬時に脳内に展開してくれる優れ物だが、慣れが必要だ。脳内に詳細な図面を保存する事が出来き書き出すことも容易に出来る。勿論隠し扉なんかもこれで一発で分かる。


 どんな『仕事』でも下準備が大事だ。段取り八分って言うだろ?


 メイドが先ほどのポーションを軽く梱包して持ってきた。

 割れ物だからか丁寧なもんだ、しかしながら看板と同様赤地に金の包装紙とは・・・やっぱり悲惨なセンスだ。これが貴族達(ブタ)には受けるのかと思うと、仮に盗ってきた魔石をそのまま国王に差し出し陛爵を受けたとしても俺はきっとブタ共とは仲良くはやっていけないな。

 センスが違いすぎるぜってそりゃそうか、俺は家畜じゃないしな。


 俺は適当に愛想を振り、ありがとうとメイドに声を掛けるとそのまま外に出た。


 店を出ると高級商店街から貴族街へと抜けていく。

 人目を避けつつ俺は街の奥へと進んでいくと、途中小奇麗な少年とすれ違うが恐らくその格好からして貴族だろう。再び人目を切るように街の奥へと進んでいくと視界の先に木々が見えてくる。


 貴族街に隣接する国が管理する森林公園だ。

 森林公園自体は花や木々を愛するブタ共によく利用されているがその際奥となると話は別だ。

 ここアルスバーグ王国森林公園はそのまれに見る広大さから貴族たちを筆頭に国民にも広く愛されているが管理するには大雑把にでも区画しておかなければならない。

 まずは貴族のみが立ち入れる第一区画『女王達の森(クイーンズパーク)』歴代女王が愛したとされる最も古く最も手入れの行き届いた区画だ。次に第二区画『妖精花の森(ピクシーフロウ)』アルスバーグの国花であるピクシーフロウが色とりどりの花を咲かせる区画で誰でも入場可能である。

 そして最後が際奥にある第三区画『森』だ。別名も何もないただの森である。以前は開発をかける為に数名の人員を置き管理しようと試みていたらしいがある事件をきっかけに国は管理を辞めたらしい。

 詳しくは知らないがなにやら『魔』が住むとかなんとか・・・・胡散臭い話だ。



 森林公園の際奥にある第3管理事務所に入るとかたっくるしい服を脱ぎ金髪のウィッグと共に床に投げ捨てる。

 すぐさま用意してあった普段着に着替えさっきまで着ていた服をズタブクロの中にぶち込むとズタブクロは壺の中に入れ蓋をしておく。

 隣の瓶の蓋を開けると瓶一杯まで水が張ってある。

 水面に映る自分の姿を確認する。ウイッグをかぶりペチャンコになっていた自前の髪を手櫛で直す。

 薄い灰色がかった髪はすっかり元通りになった。

 

 ここ第3管理事務所は管理上の問題があったか何かで数年前から廃棄されていた小屋だ。それを俺達がありがたく再利用させてもらっている。


 裏口から外に出ると今度は貴族街とは正反対にある裏通りに向かう。ネイルと共同のアジトへと向かう為道ながら迂回がてら散歩し街中を当てもなく彷徨うように歩き、路地に入りまたさらに路地へと続く道を行く。

 誰にもつけられていないことを確認すると俺はアジトへ入っていく。


 アジトの中にはネイルが居た。

 「ご苦労さんっと・・・首尾は?」

 「上々さ、いつでも行ける」

 「さすが」そう言いながらネイルは飲みかけだったアルコールの類を飲み干す。神妙な顔つきでネイルが椅子から立ち上がるとトレードマークの不精髭をさすりながらこちらを向く。


 「今回は・・・俺も行こう」

 「ふっ、やっぱりな。そんな気がした」

 「今回の山はでかい。盗むだけでは終わらないんだ」


 珍しいな。今回は『シッポ』もつくのか。

 「ふ~ん・・・どこまで運ぶんだ?」

 「帝国」

 「なっ!じゃぁネイル・・」

 「あぁ、今回で俺は最後だ。お前は・・・・好きにすればいい」

 「ふん・・・。付いて行きやしないさ。何時までも俺も子供じゃないからな・・・。それにしても『不死者(アンデット)』ネイルの最後の山か・・・」

 「何粋がってやがるんだ、いつかみたいに泣きながらついて来てもいいんだぜ」

 「はぁ?何時の話だ・・ったくさっさと紙よこせよ」


 ネイルから安物の羊皮紙を引っ手繰ると羊皮紙を机の上に置き俺は左手を構える。

 「トランスクリプション」


 俺がスペルを呟くとふわりとした魔力があたりに広がり始める。

 魔力が机の上へと収束すると先ほどの建物の図面が羊皮紙に映し出された。

 この『建図のアーティファクト』は魔力を流し込む事で脳内の図形等を指定した対象物に映し出すことが出来るなかなかのスグレモノである。


 「しっかし、いつ見ても便利だな。まったくアーティファクト様々」

 ネイルは両手を合わせ俺を拝む。

 「まぁな・・・っても恐らく俺しかまともに使えないけどな」

 

 そう、俺は何故かアーティファクトが完璧(・・)に使える。

 本来アーティファクトとは古代魔術王朝時代のオーダーメイド品。普通は元々の使用者にしか使えない物であったと言われている。だがアーティファクトの力は絶大で少しでも恩恵にあやかろうと昔から研究者たちが研鑽を重ね、やっとの事で編み出した方法が一つだけある。

 それは契約魔術で無理やりアーティファクトと使用者の関連性を持たせ、お互いの魔力の親和性を高めるという力技である。しかしそれでもその性能を少し使える程度である。

 それなのに俺は契約魔術も無しに十全と使える。

 まぁ中々普通アーティファクトには出会えないし、出会たとしても俺程度が手に入れられるアーティファクトは大体つまらない物ばかりだ。


 この間闇市で見つけたアーティファクトはメガネだった。

 結論から言うと能力はなんと、対象を透過して視る事が出来るメガネだった。夢の様な内容だがほとんどのアーティファクトは使ってみないとその能力がわからない。そもそも普通の人間にはアーティファクトと魔法具の違いも分からないらしい。らしいというのは俺はなぜかアーティファクトが判るのだ。だからたまに何か掘り出し物はないかと闇市や骨董市などを流し見する。


 このメガネ対象が透けるといっても唯一の対象は布。壁や鉄等はすけずに布だけ透けて見えるという所謂アレなメガネだ。いつの時代も男は悲しいな・・・。


 まぁ布が透けるということは勿論カーテンだろうが反物だろうが布ならば何でも透ける。

 言わずと知れた俺らが普段着ている物、そう服も勿論透ける。そこに男尊女卑の精神は反映されずある意味男女平等だ。


 あの頃の俺はどんな能力かも知らず期待に胸高鳴らせながらメガネに魔力を通したんだ。そして初めて能力を知らずに使った時はネイルと二人で仕事後の祝杯を酌み交わしていたんだ・・・。


 後は言わなくてもわかるな?俺も思い出したくもない・・・・。


 まぁそんなんでアーティファクトは当りハズレが存在する。

 大抵はメガネみたいな結果になるのさ。


 「まぁ、ともかく相棒の最後だ、派手にやろか」

 「ふん」

 ネイルが鼻で笑う。機嫌がいい時の癖だ。

 「準備が出来たら使いをやる。三日以内だ」

 「了解」

 「最後と言っても何も変わらない、何時も通り、何時も通りだ」

 「あぁ、じゃあな」


 



 裏通りを歩き自分の住処へと移動する。途中さっきのネイルとのやり取りを思い出していた・・・。


 ネイルは以前から王都を出たがっていた。いや、今思うと王都といわずこの王国自体から出たがっていた様に思える。なにかしらネイルの思惑があるんだろうが・・・まぁ普通に考えたらこんな稼業やめてとっととマトモになりたいわな・・・。


 そういえばネイルと俺が初めて出会ってからぼちぼち6年が過ぎようとしている。

 最初あいつに飯奢ってもらったんだよな、確か。

 あの時の借り(飯代)はまだ返していなかったな、はは・・。

 くそまじい飯だったがやけに温かかったのだけは覚えている。まったく感傷に浸る年でもないのにな・・・。

 やっぱり相棒が居なくなると思うとそれなりに堪えると言う事か・・・。

 ぼんやりと思考を巡らせながら俺は歩き慣れた道を行く。

 どれぐらい歩いただろうか、ふと視界の端にどこぞで見た小奇麗な少年がいるのに気づいたがそこはそれだ。

 こんな裏通りに不釣り合いな恰好の存在が居れば自然とそれを元に正す為に力が働くのは火を見るより明らかだ。

 

 そんなことを考えてる間に、少年の周りに見知った顔がちらほら見え始める。


 こんな裏通りに小奇麗な格好をした小僧が居ればどんな理由があれ十中八九鴨になる。その鴨を美味しく頂こうとあの手この手で狼共が群がってくるわけで、これがこの裏通りの所謂『自然の摂理』なんだろう。


 胸に秘める熱き想いや、遥か高みを目指す志なんかがある意識高い系の人ならば黙ってはいられない光景だが、俺は普通にスルーである。なぜなら俺は無駄な事はしない主義だ。それに熱さも志も生憎持ち合わせてはいないし、産まれてからこの方そんな物と顔見知りにもなった覚えもない。

 場違いな奴が生きて行けるほどここは甘い場所じゃないんだ。



 大体この通りでは『厄介事は決まって向こうからやって来ると相場は決まっている』って言われてる。

 要するにほっといても厄介事に見舞われる様なこの町で、わざわざ自分から首を突っ込むなって言うありがた~い格言めいたものだ。


 ボロボロの少年を拾って自分のボスに「こいつにスパゲッティーを食わしてやりたいんですが」なんて言ってくれるそんな面倒見の良いにーちゃんは此処には存在しない。

 いくら相手が鴨葱だろうが俺には関係ない。それにその鴨葱に唾つけてる奴等が最悪だ。


 「イヤンテール商会」


 サシからオトシまで手広くやるこの裏通りの顔役の一派であり、最大派閥『ギルド』としのぎを削っている様な奴等だ。

 仕事の内容は最も苛烈で極悪極まる。要人の『サシ(暗殺)』獣人や亜人達を攫ってき奴隷にと落とす『オトシ』その他どんな山でも請け負うそれが「イヤンテール商会だ」


 まぁ何にせよハグレ者の俺は係わり合いを持ちたくないランキングぶっちぎりの一位だ。

 なるべく『そちら』を見ないようにし俺は少し距離を取り道の端を歩く。別にビビってるとそういう訳じゃない。


 それがココのルールだってことだ。

 誰だって仕事中によそ様にずっと観られるのは嫌だろう?

 それと一緒の理由さ。

 そして通り過ぎようとしたその時だった。


 「に、兄さん!!助けてよ!」

 不意に件の少年が俺の腰だめ辺りに抱き着いてくる。

 さっきまで鴨が葱背負っていたはずなのに実は背負っていたのはとんでもない茨だった。


 嗚呼、昔の人はよく行ったもんだ、やっぱり厄介ごとは向こうから飛び込んでくる。



 



          to be continued・・・・・


最後まで読んで頂きありがとうございます

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