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地ノ震迷、天ノ黄昏  作者: 日仁希瑠
KNOCKIN’ ON PARADISE DOOR
10/23

無能と落ちこぼれ 参

 幽霊の少女に連れられ、階段の上の十字路に来た結は、そこから再度隔世を見回し、ふと空を見上げ──言葉を失った。それは結が知っているどれとも表情が違っていて、薄く紫がかり、しかし目に張り付くような(くど)い色ではなく、夜明け前の星を連想させる光の粒子が一面に散らばっていた。日の光だと思っていたものの正体は空に浮かぶ光の球体だ。相当大きなものでそれなりの高度に位置しているのか、それとも小さくて低い位置に浮かんでいるのか、距離感が全く掴めない。

 「どう、したの……?結、機嫌悪、い?」

 立ち止まってしまった結に気づき、霊少女が宙を滑って隣に浮かぶ。腰を屈めて下から結の目を見上げ、しかし怒っているわけではないとわかると、彼女も同じように隔世の空を見た。

 「ここ……は、夜になる、と。あの光、の玉が、暗く。なる。時間は、外……と、同じ。はず」

 はず、というのが引っかかり、どういう事かと尋ねる結。すると、この隔世と現実世界は、互いに干渉することができないから確かめる術がないと説明された。そもそも隔世は別空間に創られているので、こちら側に時間という概念があるのかすらわからない、と。

 では、ここにいる間は歳をとらないのだろうか。するとそうではないらしく、外と同じように成長もすれば老衰で亡くなることもあるのだという。

 結がよくわからないと首を捻ると、記なら知っているかもしれない、と霊少女が言った。

 「記さんのこと知ってるの?」

 隔世で目覚めてから初めて会った人物である記は、何かの研究をしているらしい。彼女自身が研究者だと名乗ったので、特にそれについて何の疑問も抱いていなかったが、どんな事を研究しているのかは気になる。隔世の中にいるのだから、そういう関係のものだろうとは推測できるが──

 「ごめん、なさい。どんな研究、を。しているかは、よく知ら、ない。の」

 霊少女が済まなさそうに目を伏せる。記は彼女の所属する部隊を含め、超常廳で戦闘を専門としているヒトたちの心的ケアも行なっているらしく、平たく言えば相談役のようなものなのだという。質問すれば、研究内容は無理にしても、どんなことをしているかくらいは教えてくれるだろうが、そもそもそれを訊くつもりがないらしい。

 結は“困ったら記”と脳内に書き込むと、霊少女に向き直る。

 「あのさ、さっき言ってた貴女の部隊って、もしかしてす──」

 「うう、ん。違う、の」

 結が言い終わらないうちに答える霊少女。迎えに来たことから、勝手に彼女がす号隊の隊員の一人だと思い込んでいたのだろう。結は不思議そうに首を傾げると、では何故自分を迎えに来たのかと問う。

 「暇……だった。から?」

 疑問符を付けられても結がそれを知るわけがない。いや、時間があったから新人の出迎えに行く、というのは間違っていないというか、良い先輩という意見が出てもおかしくはないかもしれない。しかし彼女と結は違う部隊だとつい今しがた本人が言っていたではないか。

 今度は結が頭上に疑問符を二、三浮かばせながら唸っていると、それを見た霊少女が説明を始める。

 「結を、迎えに行った。のは。暇だった、のと、宿舎が──……」

 「やや?そこに居るのは靈歸(たまき)ではないかい?一日留守にしていたら、珍しくこんな朝早くに外に出ている靈歸に会うなんて!まあ然程早いというわけではないけれども!っと、隣にいるのは誰だい?友達を連れてくるなんてこれまた珍しいじゃないか!やあやあ初めまして!」

 途中で割って入る、姦しい声。それは頭上から聞こえてきていて、結と霊少女が見上げると同時に、烏のものと(おぼ)しき黒い羽を畳んで一人の妖怪(じょせい)が二人の前に降り立った。真紅の中華服の様なものを着て、右目を隠している赤茶けた頭髪の上──左側頭部に、天狗のお面が乗っかっている。健康的な素足に履いているのは下駄で、一本しかない歯は優に三十センチはあるように見えた。

 靈歸というのは、この霊少女の名前だろう。靈歸が結のことを視て知っているというので自然に接していたが、そういえば初対面だったと思い出す結。いくら予知能力をもっているとはいえ、名も名乗らぬままというのは、礼儀知らずと思われていても仕方がない。

 「むむ、見たところは人間と変わらないようだけど!怪者かい?それとも異能者?ああ初対面だから言いにくいよね!取り敢えず初めまして。私は烏天狗の烏丸(からすま) (みゆき)、妖課・せ号隊の隊長をしているんだ。よろしく!……えー、と?」

 「あ、結。蓮城 結です」

 勢いに押されながら名乗る結。生来押しに弱い性格である結は、幸のように間の距離を問答無用で破壊して話しかけてくる相手が苦手だ。逆に、靈歸のように控えめというか、静かな方が接し易い。

 結が名乗ると、幸は手を叩いて何かを納得したようだった。その動きがあまりに大仰だったので、結は無意識のうちに苦笑いを浮かべていた。

 「成る程、君が靈歸が言っていた新人君だね!す号隊の!ウチはす号隊とは関わりが深くてね、お互い小さな部隊だから何かと協力し合っているんだ!」

 靈歸の予知がどれ程先のことまで視れるのかはわからないが、少なくとも一日以上先の未来を知ることはできるらしい。数日前まで只の人間だった結にも、未来予知という能力が非常に強力で、有用で、同時に視た内容次第では能力保持者に大きな負担を掛けることくらいは想像がつく。

 そんな雰囲気は靈歸にはないが、感情が表に出にくいだけで、その能力で傷ついたこともあるのかもしれない。

 「今。は。結を宿舎、に、案内。してい、た」

 そう言って靈歸が結の袖を引くと、幸が再度成る程と声を上げた。そうして彼女は、十字路に面した二階建ての家屋の入り口を潜り、振り返って手招きをした。

 あそこがせ号隊の宿舎なのか、と見ていた結は、靈歸に軽く背を押されてその宿舎に入った。

 和風な外観から一転、床こそ板張りだが、目の前にはバーを思わせるカウンターがあり、二つのテーブルにそれぞれ二つずつ椅子が置かれている。宿舎のイメージとはあまりにかけ離れているその内装に、結はただ靈歸の顔を見ることしかできなかった。

 「靈歸、が、結を。迎え、に、行った。のは。宿舎が、同じ……だか、ら。でもある」

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