15-9
パキッと何かが割れる音がした。グレンの足の下で、二つに折れたインカムが見えた。
身体が重たい。ぐったりとして、動けない。
メドウスは無事だろうか。血を流しているようには見えないが、まだ生きているのだろうか。少しだけ気になる。
そう、少しだけだ。
いろいろと、どうでも良くなっていた。痛む足を抑えることすらおっくうだ。
ノゾミが起きたことに気が付いたグレンは、銃口をゆっくりとそちらに向ける。
ノゾミは横たわったまま、ゆっくりとグレンを見上げる。
「……あんた、本気であの星に行くつもり? 確かにマナが使えるってのは有利でしょうけど、もっとお手軽で強力な武器なんて、いくらでもあるわ」
別に答えなんかどうでもいい。なんとなく発した負け惜しみだ。
「だから、お前は負けたのさ」
グレンはそれに付き合った。下品な笑みを見せる。
「186の爆発で無傷だったのは、なぜだと思う? ウージーがやけに簡単に弾かれると思わなかったか?
――マナにはマナでしか干渉できない。マナもマジックモーメントも使えない奴らには、俺の鎧を抜く手段が無い」
「それでも――」
ごほっと咳き込む。鉄の味がする唾を飲み込み、続ける。
「そのうちに誰かが気付くわ。すぐに解析されて、種が割れる。殺されるわよ」
「まあ、そうだろうな。別にいつまでも勝ち続けられると思ってるわけじゃねえさ。いつか誰かが俺を殺すんだろう。ただ、それは今日じゃない。お前でもない。それまでに楽しめれば、それでいいと思ってる」
「バカだわ」
「自覚はしてる」
「……クソ野郎め」
グレンは引き金に指をかける。急速に命が惜しくなる。
なにか、グレンが喜びそうなものを探す。必死で。早く、早く。
「ねえ、あたしたちを生かしておかない? 殺しに行ってあげるわ」
ピクリとグレンの眉が動く。当たりを引いた。興味を引けた。
薄氷を踏むような心境で、言葉をつなげていく。
「交渉のつもりか?」
「そう……ね。 ええ、そうよ。交渉しましょ。あなた、ゲームがしたかったんでしょ? 付き合ってあげる」
頭がぼやける。しっかりしろ。ひゅーひゅーと音を立てながら、必死で肺に酸素を取り込む。
ノゾミは続ける。
「ライバルよ。欲しかったんでしょ? 廃人プレイヤーたちはそこそこ強いかもしれないけれど、所詮マナもストーリーも把握していないモブキャラだわ。
でも、私たちは違う。同じ力を持ち、あなたを殺せる力を持っている。そしてなにより、戦う理由があるわ」
「俺を追ってくる保障は?」
「無いわ。でも、予言しておいてあげる。あたしたちを生かしておかないと、すぐに退屈で死にたくなるわ」
グレンは静かに笑った。
「オーケーだ、お嬢さん。口車に乗ってやるよ」
ノゾミも笑う。震えるたびに、体がバラバラになりそうな痛みが走る。
交渉は成立した。
震える手でヘッドセットを外し、裏に仕込まれたカバーを開ける。小指の爪ほどの大きさの黒いチップを取り出し、グレンに渡す。
グレンはそれを受け取ると、確認する。
「お前さんは、ID無しでどうするつもりだ?」
「あら、心配してくれるの? 引きこもりのあんたよりは、友達は多いわよ」
グレンはその答えに納得したのか、口笛を一つ吹き、闇へと消えていった。
ノゾミはばったりと倒れ、再び気を失う。




