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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第15話 ライの海へ
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15-8


 グレンは触手を帯の様に幅広く展開した。

 メドウスがレッドスペシャルを構える。レールガンから打ち出される散弾。ノゾミが追って切りかかる。ノットマンは無く、純粋に肉体とマナとの勝負だ。

 触手はリュウゼツランの葉のように、波打ちながら細く伸びる。剣で切り払おうとするが、まるで刃が通らない。舌打ちをし、マジックモーメントを腕に集中させる。叩きつけるように剣を打ち付け、ようやく細い一本を切り落とす。銃弾は黒い帯を一旦は引きちぎったが、すぐに別の帯にその隙間を埋められ、阻まれる。


「やっぱりだめね」

 つぶやくと、レーザーで牽制しつつ後ろへと下がる。やはり薄く伸びた触手が盾になる。

 入れ替わりに小さな瓶をいくつか投げ込む。飛び散る液体、そして煙幕。すぐに刺激臭が鼻を突く。地下空間だ、風が少ない分、おそらく効果は高いはず。祈りながら煙の中へと網を投げつける。


「作戦通り、一度退くわよ。あのうねうね相手に、やっぱり剣じゃ相手にならないわ」

 ノゾミとメドウスは踵を返すと、全速力で逃げる。


「本当に大丈夫かい? あいつは銃も使う、普通に考えたら不利だと思うんだけど」

「だから、さっき確かめたのよ。あいつはうねうねと銃を同時には使っていない。使えないのかもしれない。怖くても奴に銃を使わせないと、こちらの攻撃も届かないわ」

「でも、どこへ向かってるんですかー? 予定じゃ毒ガスで弱っている間に押し切るんでしたよね?」

「あらラトル、あんたなら気付いていると思ったけど。ここはライの海の地下ドック。ってことは、私の船もきっとあるわよね?」


 今回のツアーのゴールは、ライの海だ。宇宙船はそこで待機し、プレイヤーを待つ。感動のエンディングとともに帰還するために。


「それって前に教えてくれた、空飛ぶ船のこと? そこに武器があるの?」

「ええ。私の家に先祖代々伝わる、伝説の短機関銃(ウージー)よ」

 メドウスは意味がわからず、不思議そうな顔をする。ノゾミは説明を省き先を急ぐ。


 その空間は、まるで子供が好き勝手にブロックを並べて作ったビル街のようだった。ブロックの大きさはばらばらで、低い物もあれば高い物もある。

 ノゾミたちは屋上から屋上へと飛びながら移動する。ノゾミはメドウスの手を引き、積まれたコンテナと建物の屋根を隙間を駆け上がる。

 周囲をさっと見回す。ラトルがそれらしき特徴を持つ船を見つけ、ノゾミは頷く。メドウスを抱きかかえると、バーニアを思い切り吹かせ、宙を渡りながら一直線に向かう。




 グレンはせき込みながら、煙の中から這い出てくる。

 触手を広げていたおかげで網には捕まらなかったものの、ガスは少々吸い込んだ。新鮮な空気を求めて高所へと移動する。

 ようやく息を整えたグレンは、既に小さくなったノゾミたちを見つける。奴らが遠くで戦いの準備を始めようとしているのを見て、少しだけ安心した。

 あのクソ野郎どもめ、まともに戦う気はないのか。グレンは怒りを抑えきれず、触手を横の壁へと力任せにぶち当てる。ゴンと控えめな音がしてコンクリートが割れ、鉄筋が露出する。


 あのレールガンには注意しなければいけない。腕はともかく、射程も威力もなかなかだ。なにより、()()()()()()武器というのがまずい。

 グレンは銃を構えると、コンテナの間に身を隠しつつ接近する。

 最奥にまだ新しい白い船が見える。おそらくあれが、ノゾミが乗ってきた船だろう。




 準備を整えた三人はそれぞれ姿を消し、張り詰めた沈黙が広がる。それもすぐに破られる。

 間合いは一瞬で重なる。

 ノゾミがグレンの横っ面へとウージーを連射する。グレンは触手で身を守り、建物の陰へと隠れる。カラカラと心地よい音を立て、薬莢がばらまかれる。銃を構えて向き直った時には、すでにそこに人影はない。

 グレンの頭上で壁が急に破裂する。メドウスのレールガンだ。火花とともに、冷たいコンクリートを貫通していた。肩に灰色のかけらが積もる。

 静かな冷たい空気が足元に立ち込め、グレンはぶるりと体を震わせた。久しぶりの、死の空気。


 廃墟のようなドックで、散発的に銃声が響く。グレンはやはり大した腕だった。マナの補助があるとしても、ノゾミとメドウスを相手に一歩も引いていない。

 弱みとなるのは、やはりメドウス。ラトルの指示で大きなミスなく立ち回っているものの、やはり一番動きが甘い。しかしノゾミのウージーもすべてマナの腕に軽く弾かれ、決定打にはならない。


 グレンはグレンで、少々焦り始めていた。初手で捕まえられなかったことが響いていた。ノゾミらは触手の射程に入ろうとしない。仕方なくヘイトブリーダーで応戦するも、懐の弾はかなり軽くなってきている。

 少し考え、メドウスを釣り出すことにする。ノゾミに弾を集中させ、頭を抑える。メドウスに軽く体を見せてやる。メドウスが体を起こすのを見て、さっと建物の中に入り、ノゾミとの銃撃を続ける。


「罠かもしれません、気を付けて」

 ラトルの忠告は引っかかるが、メドウスの腹は決まっている。

「わかってる。でも、どこかで行かなきゃ。このまま弾切れになって、不利になるのは僕らのほうだ」


 今回は自分で選んだ戦いだ。危ない橋をノゾミに渡らせたくはなかった。それに、彼女は隙があれば自分が先に行こうとする。先に自分が行かないと、危なくなるのは彼女の方だ。

 メドウスは銃を構え、グレンの隠れた建物の壁へと背中をつける。ノゾミもすぐに近寄ろうとする。

 扉にむけて銃を構えようとする。


 最初は、壁が剥がれたように見えた。少し離れていたノゾミは、すぐにそれがグレンの伸ばした触手だと分かった。

 メドウスは気付いていない。ラトルにはそもそも見えやしない。

 息が止まる。氷の指で下から胸を掴まれたように。しかし、そこで止まるわけにはいかなかった。

 後のことなど考えず、ノゾミは即座にマジックモーメントを使い、地面を蹴る。メドウスをほとんど殴るように吹き飛ばす。




 ノゾミは激痛で目を開けた。気を失っていた。視界がぼやけている。

 目を擦り、唾を吐く。熱い。痛む左足を見る。

 血だまりが広がり、脛から先が無くなっていた。


 近くにはメドウスがうつぶせに倒れており、グレンがその横に立っている。


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