15-7
曲が終わろうとしている。パイプオルガンの低音の響きが、机の上に降り積もる砂を小さくふるわせていく。ゴルゴンの肉もまた、小刻みに震えながら動きを止めようとしている。
ノゾミは床に尻をつき、椅子にもたれかかる。肩で息をする。銃声はいつの間にか止んでいる。
銃を構えたメドウスが、駆け寄る。
「メド! グレンは?」
抱きつきたくなるのを必死で我慢し、現状を確認する。
「わからない。あの爆弾を投げつけた後、姿は見えない。君は無事か? ケガはない?」
「私は大丈夫。けど、ラトルが」
「えへへー、心配させてすみません。ちゃんと生きてますからねー」
その声は、メドウスのつけているインカムから。
「ラトル!」
ノゾミの視界が涙でにじむ。
「本体はゴルゴンの石化をもろに喰らっちゃいましたから、しばらく動けません」
「どれくらい?」
さあ? ラトルは他人事のように答える。
まあゲーム的に考えても、たったあれだけでロストということもないだろう。とりあえず一時的な異常と分かり、一安心だ。
問題は、この後。
「センサー類はどこまで生きている?」
「インカムに搭載されている部分だと、簡易カメラとマイクのみです。人間よりは多少マシですけど、ほんっとに最低限ですよ。会話もこうやって外部スピーカー経由になっちゃいますし」
「仕方ないわね。いいわ、あるもので何とかしましょう。……グレンはどこかわかる?」
「爆発の後で、だんだん小さくなる足音を拾ってます。おそらく、既に下へ」
覚悟を決める。
ノゾミは右から、メドウスは左から、ゆっくりとグレンが隠れていた教壇付近へと近づく。
合図とともに、同時に飛び出し、武器を向ける。
そこに人影は無い。教壇の下の床には、薄い木の板がはがされた跡。
ぽっかりと開いた穴の中に、地下への階段が続いている。
「どうする?」
ノゾミはメドウスに聞く。引き返すと言ってちょうだい。ノゾミは祈る。しかし、答えはわかっている。
「僕は行くよ。ノゾミ、結局僕のわがままに付き合わせてしまうけど、ついてきてほしい。君の力が必要なんだ」
是非もない。ノゾミは軽く微笑む。ノゾミもグレンに確かめていないことがある。それを聞き出すまでは安心して殺せない。
ノゾミはメドウスの手を取った。エスコートは私の仕事だと言わんばかりに。
カツンという固い音に、ノゾミは歩みを止めた。降りている階段の先は、空中に投げ出されているように見えた。
足元の土を靴で払うと、その下には金属の板が仕込まれている。空中に投げ出されるように見えたのは、そこから先が薄い金属製の階段に代わっていたせいだ。細い手すりはあるものの、まるで工事現場の足場のように頼りない。
カンカンとやかましい音を立て、二人は足早に降りていく。
天井からは幾筋もの照明。少し薄暗いが、問題ない。
地下は一転して、無数の柱がそびえたつ、巨大な空間が広がっていた。真ん中に数隻の、船。宇宙船だ。
ドックというよりは、まるで神殿。作りかけか滅びた遺跡か。それはまるで。
「まるでカルナック神殿ね」
誰に言うともないつぶやきに、低い男の声が返事をする。
「お前さんも、けっこうインテリじゃねえか」
弾かれたようにその場を飛びのき、戦闘態勢を取る。
グレンが船の影から現れる。
「グレン、師の仇を討たせてもらう」
銃を構えるメドウスを前に、グレンはこみあげてくる笑いを抑えようとはしない。
ぎりと歯を食いしばり、メドウスはグレンをにらむ。この距離はマジックの範囲ではない。が、銃で射貫く自信もなかった。
「何が可笑しい」
「何が、だって? それがわかってねえのが面白えんじゃねえか。お前らは、マナがどれだけヤバいものかをさっぱりわかってねえ。
これだけ多くの人間が長いこと使ってきたというのに、お前らが今までしてきたことと言えば、安物のマッシュルームワインでラリってる程度のもんだ」
グレンは、メドウスをはじめとするこの星の住人全てに向けて言った。
グレンは銃を手にしてはいなかった。ゆっくりと両手を広げ、ぐっと握りしめる。合わせて影がざわりと動いたように見えた。
違う、影の中で黒い物が動いたのだ。
それは、漕ぎだす姉妹亭で見た、黒い触手だった。
「来いよ」
見え見えの挑発だが、グレンが銃を構えていない今がチャンスかもしれない。
「行くわよ、メド」
「わかった」




