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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第15話 ライの海へ
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15-3

 

 ノゾミ、メドウス、ラトルの三人は、あの騒動の後にすぐにフォルトナを発ち、北へと向かった。

「まったくもう。こんな強行軍になるなんて、思いもしなかったわ」

「仕方ないよ、あれだけ派手に騒いでおいて、まさか街に残るわけにもいかないし」

「最初に荷物だけでもまとめといて正解でしたねー。おかげで、旅支度自体はできていましたから」

 部屋に戻り少しでもグレンの残した手がかりを探したかったのだが、わからずじまいだ。ディーコン宛に短い手紙を書くのが精一杯だった。


 プエルタ海峡。狭いが流れが速く、おまけに時間によって潮の流れが変わる難所。その向こう岸の詳しい地図はなく、島か大陸かもわかっていない。

 しかし、村や定期船が存在しないわけでもない。小さな船でも、潮目の隙間を縫って渡ることはできるのだ。


 海峡を渡り、モンジベロで一泊する。北の地で、おそらく、最後に立ち寄ることになるだろう村だ。フォルトナと比べるのは無茶にしても、同じ港町であるリブロ・ハルボルよりもさらに小さい。

 グレンの言葉通りなら、ライの海はここから北北西にある海岸だ。海沿いに進めばとは言うものの、海岸線には切り立った崖も多く、道もない山中を歩くことにもなるだろう。

 もっとも、グレンが言った10日という期限には十分なのだが。


「で、流されるままに来ちゃったわけだけど。僕にはグレンと戦う理由が思いつかないんだが、何とか話し合いで収められないのかい?」

「すみませんー、ノゾミさんが突っ走ったばっかりにー」

「ちょっと待ってよ、ラトル。人のせいにしないで。それにメド。あなた、コーディネーターを殺そうって話になってたじゃない。敵討ちと、この星のためにと。だから、グレンは敵でしょ?」

 最初に思いつく解決策が殺しとは、また物騒な。メドウスとラトルは、二人揃って深くため息を吐く。


「君らしいと言えば、君らしいけどね。僕は、技術の発展を邪魔してた障害を取り除きたいだけさ。

 敵討ちは、そりゃまあ、できるならしたいけど――。 そもそもどうやって勝つんだい? 相手はベーメンで最高クラスの冒険者だ。戦闘力だけ見ても、ドラゴンを狩るよりよっぽど厄介だよ」

「ドラゴンですって? はっ、いい冗談だわ。あいつはただの酔っ払い(ドレイク)よ」

「でもでも、準備不足で決闘に放り出されたのは変わりませんよー」

「そこを言われると弱いけど、でも相手は一人よ。道中で節約しておいて、一回戦う分だけ残しておけばいいじゃない」


 文句を言い合ってはいるものの、二人は幸せだった。二人の目的は一致している。一人の悪人を殺せば終わり。これほどわかりやすいことはない。そして、それさえ終われば、すべてきれいに片付く。後は二人で家でも建てて、幸せに暮らすだけだ。

 そう信じている。

 太陽がいっぱいあるみたいだ。天気は良く、じりじりと刺さる日差しが痛い。モンスターとぶつかる。グレンのクソ野郎の背より一回り大きい、熊の魔物。ハルバードを振り回し、ストレスとともに吹き飛ばす。

 久しぶりの、冒険者らしい道程。このままライの海を過ぎ、未開の地をひたすら進んでやろうかという気持ちもある。


 唐突に、木々が開けた。その海岸は隠れるように存在していた。

 象牙ほどに白い砂浜の上に、透き通ったターコイズの海が広がる。海岸からは一本の道が、沖へ浮かぶ島へと続いている。橋は島のわずかに手前で左に曲がり、向こう岸は直接見ることはできなかった。


 二人は美しい光景に声も無く見入っていた。

 二人は橋のたもとへ降りると、そこには石碑があった。波と岩をかたどったような、雑なオブジェ。プレートには素っ気なく、『クェルノ島』とだけ書かれている。

 例の音が聞こえる。低いアラーム音だ。ラトルに訊ねる。

「これが、フラグが立ったってこと? ここが目的地で間違いないわよね?」

「うーん、ライの海っていう言葉自体は、一種の符丁みたいなものなんです。場所は確かに例の地図通りですし、グレンの話とも一致します。ですから、()()()()()()()()()()、ここ、クェルノ島で間違いないでしょう。……橋、渡ってみます?」

「もちろん」


 少しだけ警戒したものの、こんな美しくいかにもな場所にモンスターを配置するなんて、そんな野暮なことを制作者がするだろうか。

 そう思ったノゾミだったが、すぐにグレンの顔が浮かぶ。いや、あのクソコーディネーターなら、橋に地雷を仕掛けるくらいやりかねない。

 ラトルに警戒を頼むが、あっさり問題なしと判断された。

「マナに関することならともかく、地雷だの銃だのに気付けないほどへっぽこじゃありません」

 だそうだ。


 長い橋だった。

 ノゾミがあざとくメドウスの手を握ると、メドウスも照れたように握り返してくる。少しだけ、半歩だけ、メドウスはノゾミの方へと身を寄せた。


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