表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第14話 それでもやっぱり君が好き
81/91

14-7


 グレンはノゾミに聞いた。そのガキに惚れているのかと。ノゾミは答える。当り前だと。

 グレンとしては、ゲームを進めてさえくれるなら、二人が乳繰り合おうが殺し合おうがかまわない。そうでないのなら、方向転換が必要だ。ノゾミがこの先どうするつもりなのか、見極めねばならない。しかし、メドウスという男の目的――錬金術師の事故の調査――に付き合うつもりだとすると、かなりの時間が取られるだろう。それはかったるいことだ。


 一番の懸念は、ノゾミがこの星でメドウスと暮らそうと考えることだ。

移住目的でゲームに参加するプレイヤーがいることくらい知っている。

 その星でプレイヤーとして暮らすうちに、そのまま居ついてしまった者たち。また、最初からそれを目的として、第二の人生をファンタジーの世界で終えようとする者たち。時期により多い少ないの違いこそあれ、やつらは常に一定の数がいる。

 そしてグレンは、理由がどうあれ、彼らをカクテル飲みのように一段下に見ている。せっかくの酒に砂糖をぶち込み台無し(スポイル)にする奴らだ。犬に食われちまえば良いと本気で考えている。

 企業として一応の対策は取っているものの、もちろんこの星では機能していない。もともと開発側であったグレンは、当然そういった事情を知っている。

 グレンはぼやく。よりにもよって待ち望んでいた奴がこの病気にかかるとは。

 

 ノゾミの口調に、グレンはぞわりとした悪寒を感じた。身の危険だとか戦いだのの警戒ではない。嫌な思い出が蘇る。厄介でクソ面倒くさく、理解なんてとうの昔に諦めたあれだ。

 グレンはある女を思い出す。昔一緒に暮らしていた、ヒス女だ。名前はたしかリンダだったか。ケンカをするたび、グレンはリンダを必死でなだめ、説明し、機嫌を取った。デビという女もいた。彼女はわめかないだけマシだったが、べたべたと引っ付いてきた。まんざらでもないと思ってしまうぶん泥沼は深く、たちが悪かった。

 その繰り返しで得たのは、女を説得することの無意味さを知ったことだけだ。無知の知を知った、ソクラテスに並んだのだ。

 グレンは知っている。こういうときに、女に反対してもムダなのだ。


 ディーコンが口を開く。沈黙するグレンの様子に危険を察したのかもしれない。

「金と言ったな、グレン。その金は、私が出そう」

「はあ?」

 グレンは間抜けな声を出す。いったいこの男に何の得があって、そんなことをするのか。

「私にも、この年までため込んだ金が多少ある。陛下に依頼された額の倍を出そう。その金で二人をフォルトナまで護衛してやってくれ」

 グレンは一瞬ぽかんとした表情を浮かべる。すぐに、くっくっと小さな笑いがこみ上げる。隣の木に手を打ち付け、頭を振る。

 何をバカなことを。よりによって、俺に頼むか?

 ディーコンは続ける。

「この騒動だ、例えこのまま逃げたところで、ベーメンにいる限りはいずれ見つかる。向こうなら人の出入りも活発だし、追手も届かんだろう。ほとぼりをさますには都合がいいと思うがね。……その間、私もバルサラの死について調べてみよう。落ち着いたら手紙をよこす、それまで隠れていろ」

「信用、できるんですか? あまりにも都合よすぎません?」

 ラトルが小声で聞く。メドウスは答える。

「大丈夫だと思う。師匠はディーコンさんのことを、王宮で唯一信用できる男だって言ってた。僕も名前しか知らないけどね。それに、提案自体は悪くない」

「私は、メドに任せるわ」


 グレンとしても、フォルトナなら妥協できる。ライの海に近いからだ。しかし、護衛か。

 いろいろと考え続けていたグレンは、積み上げた考えを唐突に放棄する。もういい、だんだんと面倒くさくなった。計画は外れ、コントロールも奪われる。いいさ、最初からやり直して次の客を待とう。そんなことまで思う。

 この男が原因か。グレンはメドウスをじろりと睨む。この男を殺せば、ノゾミは俺を恨んで追いかけてくるだろうか。それもいいかもしれない。

 数秒の間ではあったが、様々な考えがグレンの頭をよぎっていく。

 交渉決裂だな。口の中で転がしたセリフは、誰にも届かない。

 ゆっくりと銃を持ち上げる。やめろ、とディーコンが叫ぶ。メドウスはノゾミをかばうために体を差し出す。

 グレンはろくに狙いもせずに引き金を引く。


 発砲音とメドウスが弾き飛ばされたのとは、ほぼ同時だった。

 グレンがすっと銃を持ち上げた瞬間、ノゾミは既に動いていた。ラトルにスキル使用の指示を出す。

 ラトルは何も言わずに従った。ケガをした体に負担がかかるのはわかっていたが、そんなことを言っている場合ではなかった。言い返していたら、その間にメドウスが打ち抜かれていただろう。

 ノゾミは飛び掛かるようにメドウスを弾き飛ばし、その勢いのままグレンに切りかかった。

 甲高い金属音が響く。グレンも大型のナイフを抜き、応戦する。

 数合切り結び、グレンは後方に跳んだ。ただの筋力ではありえない跳躍。彼もまた、熟練の冒険者であり、マジックモーメントの使い手なのだ。

 ノゾミは追えなかった。肩を抑え、声にならない呻きを上げてしゃがみ込む。代わりにメドウスがレッドスペシャルを構え発砲する。マナにより加速された弾丸が、白いプラズマを散らしていく。細い樹々など問題にならない貫通力だが、それも当たればの話だ。グレンは暗闇の中、素早く移動して的を絞らせない。経験に圧倒的な差があった。


 ディーコンはマナを展開し、暗闇の中で跳ねるグレンを追う。グレンが女ではなくメドウスに狙いをつけているのを察し、その射線上に飛び出す。

 発砲音。音も無くディーコンが崩れ落ちる。

 

 メドウスはディーコンに駆け寄り、抱き上げる。

 ノゾミは奥歯が砕けんばかりに食いしばり、一言絞り出す。

「……グレン!」

 グレンはバツが悪そうに、頭をぼりぼりとかきむしりながら近寄ってくる。

「俺は、謝らねえぜ」

 所作に油断はないものの、すぐに続きを始める気はないようだ。


 ノゾミが苦しそうに、ラトルが選んだ薬をメドウスに渡す。メドウスはそれを飲ませ、次に、服を破ると傷口を確認した。テープ型のばんそうこうを張り付ける。幸いにも弾は貫通していた。

「大丈夫、命は助かるはずです」

 普段から空気を読まないラトルのセリフだ、死ぬならそう言う。ある程度信用してもいいだろう。

「……グレン、二人を、……たのむ」

 ディーコンは一言だけつぶやき、目を閉じた。かすれた声だった。


「わかったよ、やればいいんだろ、やれば」

 グレンはあっさりと白旗をあげる。時間がないことを言い訳に、すべてをあきらめる。せめてもの抵抗に、あからさまに嫌な顔をしてみる。

「やるのはいいが、お前らは俺を信用できるのか?」

「あら、もらった金の分は働く主義だって、さっき言ったばかりじゃない」

 ノゾミは皮肉をたっぷり込める。

「主義ってのは、ぶれるもんだ。……それも前に言ったろ?」

 そっちの坊やは? あごをしゃくり促す。

 メドウスは口を開く代わりに、ゆっくりと、深く頷いた。納得していない部分もあったけれど、自分の力ではこの男には到底かなわないのもわかっている。

 今だけは、メドウスはバルサラのことなんてどうでもよかった。ただ、ノゾミを死なせないことだけを考えていた。

 

「上等だ。この先に、枯れた古井戸がある。底まで降りると横穴があるはずだ。城の外へつながってる。追手は適当にごまかしといてやるから、お前らはそこを通ってさっさと消えろ」

 言うだけ言って、――そこでやっと銃をしまい――グレンはディーコンを乱暴にかついだ。

 なぜグレンが井戸のことを知っているのか。気になる点はあったが、それどころでもなかった。メドウスはノゾミに肩を貸し、ゆっくりと暗闇に消える。

 グレンはただひたすらに、疲れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ