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ノゾミが彫像を持ち上げて派手に窓ガラスを割ったときの音は、グレンをはじめ、下にいる兵士たちにも届いていた。
グレンの心は躍る。ついに始まったのだ。
はやる気持ちを抑え、グレンは兵とともに階段を上がる。
兵士を数人ほど女王の警護に回し、グレンは扉が開いたままの奥の部屋に入る。中では、ディーコンが倒れた兵士に活を入れている。
戦闘の跡を確認し、心の中でほくそ笑む。
「おい、状況を説明しろ」
「賊は二人。たった今、窓から飛び降りた」
グレンは窓へ駆け寄る。確かに細いロープが風に揺れている。下を見ても漆黒、人影は見えない。
「ひとまず、陛下のところへ集まるぞ、聞かねばならないことがある」
ディーコンの言葉に、グレンは頷く。
「聞いてたな? お前は下に行って、城中の兵士をたたき起こせ。賊が侵入した。警鐘を鳴らせ、火を増やせ、警戒に当たらせろ」
「はっ!」
ディーコンとグレンが女王の部屋に入ると、近衛兵長のイゴールも来ていた。女王が言う。
「非常時じゃ、ここで構わんからすぐに話を聞かせろ」
まずディーコンが口を開く。
「賊は二人です、一人は女剣士。もう一人は……たぶん男かと。姿を消すマジックアイテムを持っていました」
「姿を? なんだそりゃ」
この中で唯一、消えるマントを見ていないイゴールが聞き返す。
「言葉の通りだ。布状のアイテムで、かぶると姿が消える」
「見えないやつをどう捕まえろと?」
「それは心配ないと思う。グレンが用意した道具で、すでに無効化済みだからな。……グレン、君は何か知っているんじゃないのか?」
グレンは言うかどうか少し考えるそぶりを見せてから、口を開く。
「……フォルトナだ、そこで似たようなマジックアイテムが発見されたと噂に聞いた。半信半疑だったが、念のため用意しておいたんだ」
ディーコンはグレンを疑っていた。彼は優秀だ。以前に一緒に仕事をした時も、こちらの思いつかない手段を用意していたことは何度もあった。そして今回も、グレンの用意した道具で透明化はあっさりと無効化された。まるで知っていたかのように。
今回ディーコンの頭に引っかかっているのは、「ダンジグが黒幕だ」という、賊の言葉。
グレンが優秀過ぎるだけなら、それでいい。ディーコンの胸には、グレンがダンジグなのではという小さなトゲが残ったままだった。
「奴らの目的は何だと思う? 陛下の暗殺か?」
イゴールの質問に、ディーコンは考える。考えれば考えるほどわからなくなる。最初の直感のほうが、よほど正解に近い気がする。
「いえ、それはないと思います。……陛下、賊と何を話していたのか、聞かせていただけませんか?」
女王は口元に手をやり、考える素振りをする。グレンに目で合図をすると、小さな頷きで返される。かまわないから全て話せということだ。
女王はゆっくりと話し始める。
「奴らは、錬金術師の事故について知らぬかと聞いてきた。3ヶ月ほど前の、バルサラという錬金術師の工房の火事じゃ」
ディーコンはそれを聞いて、血の気が引いた。やはり賊はあの青年だったのだ。ディーコンは意を決して聞く。
「陛下、ダンジグという名前に聞き覚えはありませんか? ダンジグという者の指示で来たと、彼らは言っていました」
「知らぬ」
即座に答えた女王に、ディーコンはそれ以上聞き返すことはできなかった。
「で、結局そいつらの目的はなんなんだよ」
「ダンジグという者の指示で、バルサラという男の事件を調査している、ということでしょう。誰も傷つける気はないと言っていました。おそらく既に脱出中かと――」
「バカな。なぜ市井の小さな火災事故のことを、わざわざ女王に聞きに来る必要がある? 警察でも消防でも、いくらでも調べるところはあるだろう」
イゴールが叫ぶように言う。その言葉はもっともだ。ディーコン自身、なぜそんな行動に出たのか、意味が分からないのだから。
混乱していたのは、グレンも同じだった。当てが外れ、相手の意図もさっぱりわからない。
ノゾミたちが武力行使に出るだろうと思った理由は、革命システムの存在にある。
この国も王都ベーメンも、もともとはこの星――マニフィコの人間が作り上げた、歴史あるものだ。ジェリー社はそれを横から乗っ取り、ゲームに都合の良いように手を加えた。マニフィコに限らず、どの星でも行われるいつもの作業だ。そして、手を加えられた国には二つのものが置かれる。
統治する王と、システムを統括するコントロールルーム。
全ての星で全部分が使用されているわけではないが、ゲーム内に戦争モードや国家経営モードなども組み込まれているため、コントロールルームは非常に強力な権限や装置を備えている。そして、奪い合いを前提とするために、防御システムはプレイヤーに対して脆弱に作られている。
プレイヤー同士の戦争とは、コントロールルームの奪い合いなのだ。多少強引だろうが、警備を突破してコントロールルームを制圧しさえすれば、そのあとのリカバリーはどうにでもなる。それが革命だ。
よって、少数精鋭による城攻め、一点突破という戦法も普通に取られる。
ノゾミもそれを知っているはずだ。だからこそ、武器を携え城へと乗り込んだのだ。
それなのに、話だけ聞いておとなしく帰っただと?
「もういいさ、俺は一人で奴らを追う。兵の指揮はあんたらに引き継ぐぜ」
グレンは、イラつきを隠さなかった。
馬を一頭借りる。それだけ言うと、呼び止めるイゴールを無視して、部屋から出ていく。




