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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第14話 それでもやっぱり君が好き
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14-3


 ノゾミたちは走り出す。ラトルが指示した目的地は、北西の森。城の北西方面は二年前の地震で石垣も櫓も崩れかけており、絶賛補修中だった。侵入するときには避けた場所だが、森さえ逃げ込むことができればこちらのものだ。

「次の角を右へ曲がってください」

 ラトル地図通りに案内する。ノゾミは胸がざわつくのを感じる。勘が、この道はまずいと告げている。

「ラトル、この道はだめ」

「でも、ここが最短ルートです」

「だからなのよ。大勢に追われているときは、最短ルートじゃだめなのよ」

 大勢から逃げているときは、まずは引っ掻き回すことだ。

 過去の経験から、ノゾミは知っている。一番まずいのは、相手にしっかりと連携を取られることだ。そうなったら、隠れたところでいずれ捕まる。早いか遅いかの違いだけだ。

 こちらから積極的に引っ掻き回し、ほころびを作ってやる。そうするうちにやっと、ネズミの通り道ような狭い穴が見つかるのだ。


 問答をしているうちに、数人の兵士にぶち当たる。

「お前ら何者だ? そこで止まれ」

 こちらの姿を見て、相手は明らかに迷っている。まだ事情を知らない、ただの巡回だろうか。落ち着いて歩いていたら「やあご苦労」の一言で切り抜けられたかもしれない。そんな都合のいい妄想を、頭を振って投げ捨てる。

 ノゾミはそのまま走り続ける。兵士も遅れて抜刀する。腕は悪くないのだが、相手が悪かった。一人は堀の下へと蹴落として、もう一人を適当に剣であしらう。突き飛ばされしりもちをついた兵士は、手持ちの笛で人を呼ぶ。

 ノゾミの剣が青い電撃を放つ。兵士は崩れ落ちるが、既に笛は夜の闇に響いた後だ。

「ノゾミさん、急がないと仲間が来ます」

 焦るラトルとは裏腹に、ノゾミは冷静さを増していく。仲間を呼びたいなら、呼ぶがいいさ。

 軍の侵攻に備えるための段状の城郭。ラトルにはその迷路が見えている。しかし、彼女は二次元でしかそれを見ていない。

「メド、私に掴まって」

 答えも聞かずにノゾミはメドウスを抱きかかえる。石垣の低めの場所を探すと、石垣を駆けあがりレンガの塀を越える。すんでのところで、石垣の下に兵士たちが集まる。まるでピンボールの球のような彼らを、蹴飛ばしたい衝動に駆られる。


 ノゾミたちは塀の下に降り立つと、城壁の闇に紛れる。ノゾミはメドウスに、いくつかの弾を手渡す。発煙弾に、音響弾。ポケットを漁って出てきた順だ。

 苦労して作り出したレールガン、レッドスペシャルの初の実戦だ。

 緊張しながら装填するメドウスに、ノゾミは肩を叩き、いたずらっぽく微笑む。

「派手に行きましょう」

 西の方角へむけて、適当に何発も発射する。数秒ののち、遠くで甲高い破裂音が聞こえる。各所で白煙が立ち上る。


 ラトルが近寄る足音に気づき、警告する。ノゾミも気付いていた。さっきの奴らと違い、軽装で無駄のない動き。

「ラトル自慢のアレはどこ?」

 メドウスが取り出した弾をレッドスペシャルごとひったくると、ノゾミは手慣れた様子で装填し、容赦なく発砲する。

 空気が破裂し、金属音と悲鳴が響く。


 発射した弾丸は、銅貨の束だ。軽い円形の、殺傷力の低い散弾。もともとは、コーディネーターとの戦闘を見据えて用意した弾丸だった。

 ラトルが弾に硬貨を選んだ理由はいくつかある。まず最初の条件は、簡単に命中させられること。そして、殺さずに相手を無力化できること。一番価値が低い銅貨ならば、まとめて多数を入手でき、しかも足がつきにくい。

 こんな場所でお披露目することになるとは思わなかったのだが、対人用のアイテムとして、備えておいて正解だったようだ。

 うめく兵士たちを跳び越して、二人は駆ける。


「ずいぶん慣れてるんだね」

「以前、銀行強盗(バンク・ラバー)でもしてたんですかー?」

「したこともあるわよ」

 ぎょっとしたラトルが、冗談ですよねーと聞く。

 ノゾミは言う。

「あら、私にだってお金に困ってた時期くらいあったわよ。昔、食べ物がなくてすっごく困ったときにね、銃を持ってボロっちい銀行に入ったの。でも、勢いだけでろくに準備もしてなかったから、失敗しちゃった」

「捕まったの?」

「ううん、そこは三週間も前に店じまいしてたわ。お金どころか埃だらけ」

 くくく、とメドウスが走りながら笑いをこらえる。続きが気になったラトルは、聞いてみる。

「それで、どうしたんですー? そのまま倒れて埃まみれ(ダスト・トゥ・ダスト)ってわけじゃないんでしょ」

 ノゾミは頬を赤くし、恥ずかしそうに言った。

「書類の片付けをしてた、しなびたお爺さんがいたの。ピーチパイをもらったわ。美味しかったなあ」


「いい思い出だね」

 メドウスは笑ってくれる。ぜえぜえと苦しそうだが、ちゃんと笑ってくれている。

 ノゾミは言う。

「メドウス、あなた本当に良い人だわ」


 ちょうど話が途切れたところで、つながれている馬を見つける。

 二人は馬を奪い、さらに逃げる。


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