13-2
レッドスペシャルを受け取った二人は、数日間の休みを取る。今回の旅は長丁場だった。体も装備も点検が必要だった。
以前のときとは違い、同じ宿住まいの二人だ。休みといっても顔を合わせる。
こちらからは何も言わなかったが、ノゾミは気付いていた。メドウスはずっと何かを考えている。
何も知らない普通の人からすると、思い詰めているように見えて、心配されただろう。最近の彼の動向を知っている人間なら、疲れているんだろうと放っておくかもしれない。
違う。
ノゾミは覚えている、悪友のリックがよくあの顔を見せていたことを。あれは負けが込んだ時のリックが、残りのチップを全てベットするときの顔だ。
ノゾミは思った。この愛しい相棒が賭け事で負けて帰ってきた時は、せめて最後に残った酒代くらいは自分が守ってやろうと。
それから数日後、メドウスはノゾミを部屋に呼んだ。開口一番に言う。
「パーティーを解消してもらえないか」
ノゾミは、自分が何か勘違いをしていたのだろうかと思い直した。普通の人が感じる通り、メドウスはどうやら思い詰めていたらしい。
「いやよ」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、ノゾミに迷惑はかけられないから」
そういうやりとりはいいから、早く理由を話せとノゾミは急かす。
「王城に行って、女王陛下に会ってみたいんだ」
「ホワイトさん、ですか?」
ラトルが確認する。
「うん。女王様は、たぶん君たちの同郷だと思う。そして、お師匠様が殺されたことについても、何か知っているんじゃないかと思ってる」
メドウスらしい控えめな表現ではあったけれど、彼が口に出し行動に移すということは、はっきりとした確信があるということだ。
容姿が瓜二つなだけではない。即位した年代と、ギルドの設立時期。ギルドの初期メンバー。ヴィエントの奥の部屋で見た、日記の内容。日付。オウロ山遺跡が発見された時期や経緯。果ては魔術師ゴードンの本が書かれた時期まで。
荒唐無稽な物語が事実だと想定してみると、全ては薄ぼんやりとつながっていく。
確信に至る証拠は、まだ見つけていない。
しかし、矛盾点も何一つ出てこない。これだけばらばらな部品をかき集めているのに、どうしても違う証拠が見つからない。
メドウスはそれを考えている。
ヒントを持つのが女王のみというのは、厄介だ。それも隠し事を聞きに行こうというのだから。
メドウスはすでに王城に忍び込む覚悟をしている。忍び込むというスマートな言葉で収まるかは別として。
ノゾミは軽く息を吐く。芝居がかった口調で煽る。
「オーケー、わかったわ。メドウス、あんたは分不相応な武器を手に入れた勢いで、クーデターを起こそうってわけだ。穴を穿ちたいのはジブラルタルの岸壁? それとも貴族社会だのとかいう、形のないあやふやなもの? 後者だとすると重症だわ」
慌てるメドウスは、それを文字通り受け取る。
「ノゾミ、僕の話を聞いてたかい? そんなたいそうな話じゃない、個人的でささやかな理由のために行くんだ。ただ、場所が場所なだけさ」
最後の方は絞り出すようだった。ノゾミは心から楽しそうに、にんまりと笑う。
「だからこそ、ついていくわ」
「危険だよ」
「私だって女王様に用事があるもの」
「ゲームのことかい?」
「そうね、そうかもしれない。明日までに考えておくわ」
メドウスとノゾミは作戦を考える。そこへ黙って聞いていたラトルも加わる。
王城のもとになった古城は、入植時にはすでにこの地に建てられていた。だだっ広く、現在もところどころで改修工事が行われている。平和な時代が続いていることもあり、警備は大したことがない。城自体への侵入は容易いだろう。
問題は王族の居住区、こちらはさすがに厳重だ。
バルサラの残したノートに城内の簡単な見取り図があった。こうなることを予感していたのかもしれない。細部に関しては出たとこ勝負か。
見つかったら重罪だ。裁判なんて気の利いたものがあるわけもなし、カッコーの巣へと直行だ。牢番を殺して脱出なんて強硬手段に訴えたくはないが、捕まってしまえばそれが唯一の方法となるだろう。願わくば牢の中に、格子のない窓があらんことを。
ノゾミは考える。ノットマンとマジックモーメントの力をフルに使えば、自分一人ならば何とかなるだろう。万が一見つかったとしても、その場から逃げ出すことくらいはできるはずだ。
では、メドウスと二人なら?
あてはある。
「酒場に行くわ、ついてきて」
ノゾミは入口から店内を見渡す。しばらくきょろきょろして、茶色のコートを見つける。
もしいなかったらギルドで聞いてみようかと思っていたが、一件目で見つけられるとは、運がいい。
「やあ、飲んだくれのお兄さん。少し時間をいただけないかしら?」
ノゾミはグレンに声をかける。




