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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第13話 黒の女王のマーチ
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13-1


 ノゾミはラトルに急かされて、帰ってくるなりすぐに格別の赤へと向かった。

「明日でいいじゃない、まったくもう」

 さすがのノゾミも疲れが見えるが、メドウスよりはましだった。メドウスは言葉もなくぐったりして、帰るなり七日だけ亭のベッドに横になる。そして、そのまま起きてこなかった。

 ノゾミはメドウスのブーツやベルトだけ緩めてやると、自分は軽く上着を替えるだけで出てきた。

 まるで母親ですねーというラトル。せめて弟だろうと、ノゾミは軽く笑って聞き流す。体力的なこともあるが、年上の余裕もあった。


「こんばんはー、ハロルドさん。お届け物ですよー」

 あくび混じりの投げやりな声。なんだかラトルっぽい口調になってしまったと思いつつ、再度のノック。既にあたりは薄暗くなっていた。

 ハロルドはもう戻ってきたのかと驚きと喜びの声をあげ、歓迎した。そしてその後、メドウスがいないことに気付き、様子を不安げに聞いてきた。

 天国に旅立ったわ。ノゾミは答える。皺だらけの目元に涙が浮かぶのを見て、ノゾミは慌てて謝る。疲れて寝ているだけだ、天国はベッドの中にある。それを聞いて勘違いに気付いたハロルドが笑顔を見せると、ノゾミはほっと胸をなでおろした。


 さて、本題だ。ノゾミは奥の工房へ通してもらうと、大切に抱えてきたトランクを開けた。

 中に収められているのは、大小様々な、この世界においては宝石よりも貴重な品。ハロルドは息がかかるのにも注意して、その細かな細工に見入った。

「すごいな、これは。ドワーフの細工か。かつて様々な機械を残したという言い伝えにも、確かに納得するよ」

 ノゾミは言葉に困り、眉間にしわを寄せる。あなたのお探しのドワーフは、四角くて鉄の腕を持っている。まさかそんなことを言うわけにもいかず。


 舐めるように一つ一つの部品を確かめたハロルドは、奥の作業台に置いてあるものを持ってきた。包んでいた布を取ると、一丁のずんぐりとした銃が出てくる。

 ノゾミはそれを見て、眉をひそめた。

「ラトル、これ、グレネードランチャーじゃない。あんた、なんて物騒なもの作ってんのよ」

 ひそひそとラトルに文句を言う。ラトルは慌てて言い訳を始める。

「違います違います! って、確かに見た目はそうですけどー。えーと、発射装置とか弾の制限の関係で、どうしてもこういう形になっちゃったんですよ」

 そんなノゾミらを気にもせず、ハロルドはガチャガチャと銃をいじる。部品がきちんとはまるかなどのチェックをしているようだ。


 手を止めて、一言。

「一晩待ってくれるか?」

 意外な言葉が返ってきた。

「たった一晩でいいの? 別に明日から始めてもかまわないのよ」

「こんな立派なおもちゃを与えられて、明日まで待てるわけがないだろう。それに銃の本体はほとんど完成しちょる。あとは組み込むだけじゃ」

 ノゾミとしても、ちゃんとしたものができるならば、早くて困ることはない。それに、体力も限界だった。

 あとはラトルに任せると、ノゾミはまっすぐに七日だけ亭へと帰る。何も口にする元気も残っていない。コップに一杯の水を胃へと流し込むと、そのままベッドに横になった。


 翌日、ノゾミが目を覚ますと、メドウスは既に起きていた。大きく伸びをして、ぼさぼさの頭を手ぐしでかきつける。

 トーストに目玉焼きを乗せてほおばる。

 簡単に昨夜のことを説明し、格別の赤へ向かった。


「いらっしゃい、親父なら奥だよ。昨夜は結局徹夜だったみたいだ」

 店に着くと息子が出てきて、二人を奥へと通してくれた。息子がぼやくのが聞こえてしまった。「ったく、独り言が増えてまいったぜ」と。

 おそらくラトル2号との会話のことだろう。胸がちくりと痛む。


 扉を開けると最初に声をかけてきたのは、ラトル2号だった。部品の取付が終わり、後は最終調整を残すのみ。

 これだけは、メドウス本人がやらなければならない。

 細かい部分の調整は個人で差が出るし、メンテナンスも覚えなければならない。ラトルがいるとはいえ、やはり実際に作った人間の意見が聞けることは大きい。

 やることのないノゾミは、隅の椅子でまどろんでいた。


 しばらくの後、メドウスらは全員で地下室へと移動する。店では銃も扱うため、射撃場が用意されている。

「さ、貸し切りだ、打ってみな」

「メドウスさん、じゃ、言った通りに」

 製作者二人に促され、こくりと頷くメドウス。わずかな緊張が伝わってくる。

 丁寧に銃を構え、少しの溜め。狙われるのは、哀れな鎧人形。引き金が引かれる。

 パン と、空気そのものがぶつかったような音が響く。ノゾミはびっくりして肩をすくめ、爪を軽く噛んでいた。高い余韻が耳に残る。


 三人とも、メドウスもハロルドも、言葉が無かった。火花が一瞬、尾を引くように飛んで行ったような気がする。

 鎧は吹き飛んでいた。

 壁には放射状のヒビがあり、その中心は暗闇だった。


 ただ一人自慢げだったのがラトルだ。計算通りの威力が出たのだろう。

 通常の弾丸以外に、貫通力を高めた物もある。ラトルはそう言ったが、通常弾のはずの一発は、鎧を貫くだけでは収まらなかった。

 これよりも貫通力を高めただって? この小さな悪魔は、ジブラルタルの壁にでも穴をあけようとしているのか。ノゾミは本気でそう思った。


 その他には散弾も用意されていた。というか、ラトルからすれば、それがメインの弾らしい。

 ラトルは中距離での戦闘を想定して、この銃を作った。近距離ならばマジックがあるからだ。

 メドウスは銃を使い慣れていないが、散弾なら狙いが多少甘くても構わない。そして、マジックの弱点である、ストッピングパワーに優れている。

 今まで苦労してきた大型のモンスターに対し、特に有効な武器になるだろう。


「旅の初めから、メドウスさんにはずいぶんお世話になりました。あたしたちからの、ささやかなプレゼントです」

「ありがとう、みんな」

 メドウスは涙ぐんでいた。

「名前はどうするんじゃ?」

 ハロルドが言う。ノゾミは、目でメドウスに決めろと伝える。


「ノゾミ、君の星の言葉で、『格別の赤』ってなんていうんだい?」

 ノゾミは少し考えて答える。

「レッド・スペシャルかしら」

「うん、それにしようよ、良い響きだと思う。それに君の星の人間がいれば、この名前に反応してくれるかもしれないし」


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