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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第12話 地獄めぐり
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12-10


 エレベーターの出口は岩肌に偽装されていた。二人が外に出ると自動的に扉は閉まり、継ぎ目は消えてわからなくなった。

「ここから入れば近いと思ったんだけど、そううまくはいかないってことか」

「偶然迷い込んだ旅人に、宝物を盗まれるよりはいいんじゃない?」

 ノゾミはあえて口にしなかったが、再び訪れたときには、ヴィエントが復活しているかもしれない。ガーゴイルと共に、ちょうどいい門番になってくれるだろう。


 ベツレヘムに帰ってから、三人の行動は早かった。やることは決まっているし、冬も間近に迫っている。急がないとミラーマウンテンが雪に閉ざされる。酒もなしに辺境の地に閉じ込められるのはごめんだった。

「ホワイトさん、持ってきましたよ。ヴィエントの杖です。これで奥の宝物庫が開くんですよね?」

「ええ、本当にありがとうございます、これで神代に残された宝物庫の封印が解けますわ」

 封印の扉とやらの前で、恭しくホワイトは杖を掲げる。何やら唱えたかと思うと、杖を扉のくぼみへと差し込んだ。


 ゆっくりと扉が開き、足元に演出用の白い煙が流れ出した。下へと続く階段が見える。

 ホワイトにうながされるままに地下へと降りていくと、土壁にいくつかの木製の扉が取り付けてあった。覗いてみると武器庫のようだ。しかし、品質自体は良いのだろうが、とても神代とやらの品には見えない。いたってごく普通の武器だ。


 突き当りまで行くと、ホワイトが立ち止まる。

「この先はプレイヤー専用の施設となっています。資格のない人は入れませんが、よろしいでしょうか?」

 迂遠に、メドウスは来るなと言っているのだ。助け舟を出したのはラトルだった。

「かまいません、あたしが許可します。優先権はプレイヤー随伴NPCである、こちらにあります」

 ホワイトは「失礼しました」と一礼すると、壁に手をかざした。すっと音もなく隠し扉が開く。下層につながるエレベーターだった。


「あんた、意外とすごかったのね」

「場合によりますよ。今回はパーティーメンバーに関する部分でしたけど、例えば施設の使用に関する権限なら、あちらの判断が優先されるはずですし」


 ゆうに一分間は下りていたように感じる。メドウスは慣れない浮遊感に戸惑った。アグアスの洞窟で乗ったときは、外へ出られると聞いていたので、さほど不安が無かったが。今度はどこへ連れていかれるのだろう。ちゃんと地上に戻れるのだろうか。

 気まずい沈黙は、ポーンといささか間の抜けた音とともに砕けた。

 最下層だ。


 無機質なリノリウムの通路と、金属とガラスの窓。そこはノゾミのよく知っている世界だった。

 ガラス窓からのぞいた部屋はまるで診察室のようで、作業台かベッドかよくわからないものがいくつか。

 メドウスは目を丸くしてきょろきょろとあたりを観察していた。鎚や金床のような、メドウスになじみの深い道具は見当たらない。

 ホワイトは適当な部屋に入り、ノゾミたちもその後をついていく。自動的に閉まった扉に、メドウスは少し怯えていた。


「さて、どうしますー? とりあえずマナ・コンデンサの加工、それとアーマーや武器のバージョンアップなどを考えていましたけど」

 メドウスの不安を知ってか知らずか、ラトルのいつも以上に明るい声。

「モニターの修理はできる?」

「ファクトリ内の在庫リストを前もって調べておいたんですが、残念ながら部品がありませんでした。探せば互換品が用意できるかもしれませんけど、確実ではありませんし……」

 それならいいわ。ノゾミはあっさりとあきらめた。直せるものなら直しておきたかったのだが、仕方がない。


 本来は重要な装備品ではあるが、ノゾミの場合はモニターの感覚に慣れる前に破損してしまったため、さして不便さを感じていなかった。ラトルが音声でかなりの部分をサポートしてくれたことも大きい。

 普段から軽口ばかり叩いている関係ではあるが、ゼノボアのダンジョンの報酬でラトルを選んだのは、唯一と言っていい正解だったのだ。


「じゃメドウスさん、早速ですが、材料のドラゴンの骨をホワイトさんに」

「あ、ああ」

 きょろきょろと落ち着かないメドウスは、急に名を呼ばれ我に返る。ドラゴンの骨を取り出し、作業台の上に置く。ごとりと重たそうな音がした。

 不思議そうに見つめるホワイト。一体これで何をするのだろうかと考える。ホワイトは、マナについて推測するのに有効なデータを何一つ持っていなかった。


「一晩ほどお時間いただけます? あたしとホワイトさんとで、ちゃちゃーっと作っちゃいますから。なーに、少々古い型ですが、レーザー加工機まであるんですから余裕ですよ。よ・ゆ・う!」

 ハロルドの工房で行ったのと同じように、ラトルはホワイトの中に自分のコピーを作り、作業をするつもりらしい。

 いつも通りの調子の良さだが、頼む仕事内容は機械的なことなので、素直に任せておくことにする。


 作業所を出ようとするノゾミに、ラトルが声をかける。

「あ、ノゾミさん、剣も一晩貸してもらえませんか」

「いいけど、何するの?」

 不思議そうに剣を取り出すノゾミ。

「ヴィエントの使っていた杖からパーツを取り出して、剣に組み込もうと思うんです。それとレーザーの交換部品リストも用意しておきましたので、確認しておいてください。そちらはもともと取り換え前提で作られていますから、作業自体はすぐに終わりますよ」

「いいなあ、本当に進んでるんだね、君たちの科学は。ねえ、僕でも使える道具は、何かあるかな?」

「んー、そうですねー。メドウスさんはマジックがありますから、下手に武器を持つよりも、手を空けておいたほうがいいんですよね」

 ラトルは少し考え、倉庫からサイズの合いそうな衣服やブーツを用意しておくことにした。もちろんただの服ではなく、ノゾミの着用しているインナーのような、防御力に優れたものだ。服ならば、着るだけで操作の必要もない。


 今日のラトルはやけにサービスがいい。久しぶりに本格的な機械に触れたため、はしゃいでいるのだろうか。

 ともあれ、やることは終わらせた。あとは作業が終わるのを待つだけだ。

 ノゾミとメドウスは後のことをラトルに任せ、エレベーターで地上へと戻った。


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