12-5
仕留めそこなった。
ノゾミは歯噛みして悔しがった。
幸いだったのは、最初の風を攻撃ではなく回避に使われたこと。これが初見で攻撃に使われていたら、避けきれていた保証はない。
だからこそ、なおさら先程の攻撃で奴を仕留めきれなかったことが悔やまれる。
「お嬢さん、この部屋はなぜ、熱湯で満たされてるんだと思う?」
ヴィエントは言う。
「ワニがいるからでしょ」と、ノゾミ。
「ガーゴイルのことか? 確かにあいつらはこの部屋には寄って来ないが、でかいだけのトカゲなぞ敵ではないわ」
薄ら笑いを浮かべる魔法使いに、ノゾミは事も無げに言い返した。
「奴らがこの池に落ちてくれれば、料理する時の手間が一つ省けるわ」
意味がわかり、メドウスは苦笑する。
ヴィエントはそれを聞いて、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。自分から始めた問答だが、一方的に打ち切り、杖を掲げる。
「食らうがいい、我が竜巻を!」
ヴィエントが手を振ると、ノゾミの直前で水の面が泡立ち、直後、どおという轟音とともに水柱が巻き起こった。
「ちょっ、あつっ! 熱い!」
ノゾミは慌てて飛びのくが、顔を抑えて悶絶する。
「ノゾミ!」
メドウスは慌てて駆け寄ると、マントを広げてノゾミの身体を覆う。マジックで吹き飛ばそうかとも思ったが、力の加減を間違えれば、ほとばしる水流がこちらへ向かうかもしれない。
水柱が消えるとともに、二回目の泡がぼこぼこと音を立てる。
「こっちだ!」
猶予はなかった。メドウスはノゾミの手を引き、とにかく距離をとった。
「けほっ、ありがと、メドウス。助かったわ」
赤く腫れた鼻先を手で押さえているが、ヤケド自体はたいしたことはなさそうだ。
「こいつ、むかつくわ」
むかつくとノゾミは言った。そうだ、ドラゴンのブレスにしろ、アサシンの刃にしろ、ゴブリンの粗末な棍棒にさえ、きちんと殺意が宿っていた。それなのに、ここにきて、熱水だと?
舐められている、とノゾミは思った。
奴のやり方は何となく察した。
結局のところ、あいつは酒場にいる軟派男と同じなのだ。丁寧に、いかにも紳士面をして、まずは湖面をノックをする。強引に迫ってくるのはそのあとだ。
自分からは一線を越えようとしない、チキン野郎だ。
そう、奴は自分から、足場となる浮葉を減らすようなことはしない。
まあ、たしかに重度の火傷は生命の危機よね。
ノゾミはため息を吐く。この熱だ、落ちたらあっという間にゆで過ぎたパスタのようになってしまう。
しかし、直撃させる気もない水柱に、なんの意味があるというのだろう。そんな奥に引きこもって、鍋から跳ねる飛沫すら恐れているなんて。料理をしたこともないのか、このクソマザコン野郎め。
ヴィエントは指揮者のように杖を大仰に振り回す。
「ほら、続けていくぞ」
合わせて踊るように、右へ左へと水柱が動いていく。
熱気を増す空気とは逆に、ノゾミの心はどんどんと冷えていった。
基本的に、ゲームのボスにはそれぞれに弱点が設定されている。ゼノボアには胸のクリスタルであり、テングでは、――ノゾミは使わなかったが――電気というように。
ヴィエントに関しては、水をかぶると杖を封じられるというプログラムが仕組まれていた。
相手の攻撃方法や地形などをよく観察すると、それなりに答えが導き出されるようになっているのである。
考えろ。杖は封じたことがフラグとなって、行動パターンが風に切り替わった。では、それの弱点は? どうすれば攻略できる?
ノゾミの頭は、ゲームとしてこの魔法使いを攻略する方向にと、スイッチを切り替えていた。
ヒントを探せ。怪しいもの、不自然なもの。異物だ。
蓮の花にあたりをつける。全部で、六つ。根拠はないが、さて、やてみる価値があるかどうか。
ノゾミがじっと考えていると、メドウスが言った。
「どうする? 奴が攻撃を止めたのは、たぶん僕らが竜巻の射程外にいるからなんだろう。一応近づくための手はあるけど、……ああ、狙い撃ちにされなきゃだけどね」
「いえ、たぶん渡らなくても倒せるわ」
「あの花を狙うのかい?」
ノゾミはまさか先に言われると思わず、驚いた。
「なんでわかったの?」
「わかるさ。奴が竜巻の魔法を使うたびに、近くの花が動いていた」
なんということだ。ノゾミが一人で戦いを進める中でも、冷静で頼れるこのパートナーは、戦いながらもしっかりと相手を観察することを忘れていなかった。
「ノゾミ、僕がやってみてもいいかな」
もちろんだ。ただし、
「たぶん奴は、花を攻撃し始めたら、それを守ろうとするわ。二人同時に接近して、本体を叩くふりをしましょう。そして、一番奥の花から潰していく」
「わかった。そのあとは、引きながら手前の花を潰していくんだね」




