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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第12話 地獄めぐり
59/91

12-5


 仕留めそこなった。

 ノゾミは歯噛みして悔しがった。

 幸いだったのは、最初の風を攻撃ではなく回避に使われたこと。これが初見で攻撃に使われていたら、避けきれていた保証はない。

 だからこそ、なおさら先程の攻撃で奴を仕留めきれなかったことが悔やまれる。


「お嬢さん、この部屋はなぜ、熱湯で満たされてるんだと思う?」

 ヴィエントは言う。

「ワニがいるからでしょ」と、ノゾミ。

「ガーゴイルのことか? 確かにあいつらはこの部屋には寄って来ないが、でかいだけのトカゲなぞ敵ではないわ」

 薄ら笑いを浮かべる魔法使いに、ノゾミは事も無げに言い返した。

「奴らがこの池に落ちてくれれば、料理する時の手間が一つ省けるわ」

 意味がわかり、メドウスは苦笑する。


 ヴィエントはそれを聞いて、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。自分から始めた問答だが、一方的に打ち切り、杖を掲げる。

「食らうがいい、我が竜巻を!」

 ヴィエントが手を振ると、ノゾミの直前で水の面が泡立ち、直後、どおという轟音とともに水柱が巻き起こった。

「ちょっ、あつっ! 熱い!」

 ノゾミは慌てて飛びのくが、顔を抑えて悶絶する。


「ノゾミ!」

 メドウスは慌てて駆け寄ると、マントを広げてノゾミの身体を覆う。マジックで吹き飛ばそうかとも思ったが、力の加減を間違えれば、ほとばしる水流がこちらへ向かうかもしれない。

 水柱が消えるとともに、二回目の泡がぼこぼこと音を立てる。

「こっちだ!」

 猶予はなかった。メドウスはノゾミの手を引き、とにかく距離をとった。


「けほっ、ありがと、メドウス。助かったわ」

 赤く腫れた鼻先を手で押さえているが、ヤケド自体はたいしたことはなさそうだ。


「こいつ、むかつくわ」

 むかつくとノゾミは言った。そうだ、ドラゴンのブレスにしろ、アサシンの刃にしろ、ゴブリンの粗末な棍棒にさえ、きちんと殺意が宿っていた。それなのに、ここにきて、熱水だと?

 舐められている、とノゾミは思った。


 奴のやり方は何となく察した。

 結局のところ、あいつは酒場にいる軟派男と同じなのだ。丁寧に、いかにも紳士面をして、まずは湖面をノックをする。強引に迫ってくるのはそのあとだ。

 自分からは一線を越えようとしない、チキン野郎だ。

 そう、奴は自分から、足場となる浮葉を減らすようなことはしない。


 まあ、たしかに重度の火傷は生命の危機よね。

 ノゾミはため息を吐く。この熱だ、落ちたらあっという間にゆで過ぎたパスタのようになってしまう。

 しかし、直撃させる気もない水柱に、なんの意味があるというのだろう。そんな奥に引きこもって、鍋から跳ねる飛沫すら恐れているなんて。料理をしたこともないのか、このクソマザコン野郎め。


 ヴィエントは指揮者のように杖を大仰に振り回す。

「ほら、続けていくぞ」

 合わせて踊るように、右へ左へと水柱が動いていく。

 熱気を増す空気とは逆に、ノゾミの心はどんどんと冷えていった。


 基本的に、ゲームのボスにはそれぞれに弱点が設定されている。ゼノボアには胸のクリスタルであり、テングでは、――ノゾミは使わなかったが――電気というように。

 ヴィエントに関しては、水をかぶると杖を封じられるというプログラムが仕組まれていた。

 相手の攻撃方法や地形などをよく観察すると、それなりに答えが導き出されるようになっているのである。


 考えろ。杖は封じたことがフラグとなって、行動パターンが風に切り替わった。では、それの弱点は? どうすれば攻略できる?

 ノゾミの頭は、ゲームとしてこの魔法使いを攻略する方向にと、スイッチを切り替えていた。


 ヒントを探せ。怪しいもの、不自然なもの。異物だ。

 蓮の花にあたりをつける。全部で、六つ。根拠はないが、さて、やてみる価値があるかどうか。


 ノゾミがじっと考えていると、メドウスが言った。

「どうする? 奴が攻撃を止めたのは、たぶん僕らが竜巻の射程外にいるからなんだろう。一応近づくための手はあるけど、……ああ、狙い撃ちにされなきゃだけどね」

「いえ、たぶん渡らなくても倒せるわ」

「あの花を狙うのかい?」

 ノゾミはまさか先に言われると思わず、驚いた。

「なんでわかったの?」

「わかるさ。奴が竜巻の魔法を使うたびに、近くの花が動いていた」


 なんということだ。ノゾミが一人で戦いを進める中でも、冷静で頼れるこのパートナーは、戦いながらもしっかりと相手を観察することを忘れていなかった。

「ノゾミ、僕がやってみてもいいかな」

 もちろんだ。ただし、

「たぶん奴は、花を攻撃し始めたら、それを守ろうとするわ。二人同時に接近して、本体を叩くふりをしましょう。そして、一番奥の花から潰していく」

「わかった。そのあとは、引きながら手前の花を潰していくんだね」


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