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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第12話 地獄めぐり
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12-4


 トントンと軽快な音を立てて、メドウスがノゾミの方へと浮葉を渡ってくる。

 落ちればただで済みそうもない熱水の池ではあったが、一面の葉のおかげで、移動自体に支障はない。戦いとなると別だが。


「君は、戦えそうな相手を見ると、すぐに切りかかる癖があるね」

 ノゾミの隣に立つと、メドウスは呆れながら言った。敵ではなく、”戦えそうな相手”という表現をするあたりが、ノゾミに対するメドウスの深い理解を示していた。

「相手は伝説の魔法使いだ、 賢者だよ。こちらの事情をきちんと話せば、わかってくれるかもしれないじゃないか」


 一歩前にでると、メドウスは頭を下げる。

 メドウスは、きちんと名を名乗り、できれば協力してもらうつもりだった。なにせこの男とは、まだ自己紹介程度の会話しかしていないのだから。


「私はベーメンから来た、魔術師で冒険者の、メドウスと言います」

 ヴィエントは無言で杖を突きだした。

「ここには、あるものを探しに来ただけです。争うつもりはありません」

 中空に火球が形成される。

「あの、突然襲い掛かってすみません、でし……、うああ!」

 火球はぽーんと勢いよく飛び出し、メドウスへと向かう。さすがに正面からの攻撃を食らうほど鈍くはない。が、問いかけをまったく無視されるとも思っていなかった。


 ――既視感。もしかしてとも思うが、ノゾミと魔法使いが同じタイプの人間だと仮定すると、後の展開は火を見るより明らかだ。


「探し物とは、この杖のことだろう」

 確かにその杖は、高価そうな品物だった。いかにもな節くれだった古木の先に、大きな紅の宝珠が取り付けられている。

 元の持ち主はゴードンなのだろうか。炎と雷の魔法を操る強力なマジックアイテムだと、昔読んだ本には書いてあった。


「欲しければ、戦って奪うんだな。この隠れ場所を知られたからには、生かして返すつもりはないが」


 メドウスの嫌な予感は当たった。

 メドウスは頭を抱えるが、ノゾミの口角は自然と吊り上がる。ありがたい、話し合いよりもよっぽどわかりやすい。


 ノゾミは、得意そうに剣でヴィエントを指す。そして、挑発めいた宣戦布告。

「ほら見なさい、こんなところにいる謎の魔法使いなんて、敵に決まってるわ」


 こんなところという言葉の真意は、ダンジョンの深奥。しかしメドウスには正しく受け取ってもらえないだろう。それでも、目の前の魔法使いが話し合いに応じるつもりがないことくらいはわかる。


 ヴィエントはメドウスを警戒しつつ、小走りにノゾミに迫った。杖を上段から振り下ろす。

 攻撃力はいらない。相手に受け止めさせるだけでいい。そうすれば、即座に仕込んだスタンガンで電撃を叩き込める。

 それがわかっているので、ノゾミは避けるしかない。体を斜めにし、大周りにヴィエントの右へ移動する。

 ハルバードは岸に置いてきた。リーチはあっても、この足場ではそんなものは振り回せない。


 あっさり攻撃をかわされたヴィエントだったが、そんなことは想定済みだ。ソードマスタリーの組み込まれた戦士に、正面からの切り合いで優位に立てるはずがない。

 狙うのは、横にいたメドウスの方。飛び下がるメドウスを追い、その胴を薙ぎにいく。

 杖の先から、箒のようにオレンジ色の火炎がたなびいた。

 あんな使い方もできるのかと、二人は驚いた。


 間合い、足取り。完璧とは言えないが、それでいい。この頼りない浮草の上から落とすだけで良いのだから。

 一人目を仕留めた そうヴィエントが思った瞬間、足元を衝撃が襲った。メドウスが放ったマジックが、足元に直撃したのだ。


 避けようがない、ヴィエントが軸足をちょうど踏みこんだタイミングでの一撃だ。水柱が立ち、湯気が二人を覆い隠す。

 ヴィエントの炎が当たる直前、杖からの赤い軌跡がぐにゃりと曲がったのが見えた。おそらく、メドウスは避けているはず。ノゾミは祈る。


 休む暇は与えない。ノゾミは体ごとぶつかるようにして、ヴィエントに向かっていった。


 ガチンと剣の刃が杖に食い込む。その音、手ごたえは明らかに金属のものだった。

 電撃は来ない。

 はだけたローブからは湯がしたたり、ヴィエントは悔しそうにしている。ノゾミは、込み上がる嫌な笑いをこらえた。

 予想通りだ、この状態では電撃は使えまい。


 ふっと息を吐くと剣を滑らせ、一気にたたみかけるが、相手も器用に杖で合わせてくる。柄の部分をうまく使って、こちらの動きを最小限でかわしているのだ。

 さすがに攻撃までは余裕がないようだが、受けに専念されると、魔術師クラスでもここまでしぶといのか。


 接近戦なら、普通は魔術師に出番はない。味方まで巻き込みかねないからだ。

 この間を狙い、メドウスはマジックで敵後方の葉を丁寧に潰していく。


「ちい、小賢しいやつらだ」


 ーーヴィエント。七大地獄の一つ。その正体は、古い魔法使いの名前だった。なるほど、確かに彼はこのダンジョンの主だろう。

 しかし、その名が意味するのは、炎や雷ではない。

 メドウスは忘れていた。ヴィエントが、竜巻のアグアスと呼ばれていたことを。


 ヴィエントは飛ぶ。その先にはちぎれた葉が浮いているだけだ。

 泉は戦いに呼応するように熱を増し、ボコボコとまだらに泡を吹いている。


「風よ!」

 その一言が、突風を巻き起こした。魔法使いは放物線を無視して宙を舞い、ふわりと10メートルは先の葉へと着地した。


「さあ、仕切り直しじゃ」

 ヴィエントはにんまりと笑っていたが、お互い様だ。

 ノゾミらもまだ、手の内を見せたわけではない。


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