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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第11話 作ろうよ、レールガン~ドワーフの村へ
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11-6


 時は戻るが、石碑を見つけた直後、ノゾミのヘッドギアは低いアラーム音を立てていた。どこかで聞いた音だと頭の中を探していたら、ラトルが短く「あ、フラグですね」とつぶやいた。

 思い出した。あの霊廟で聞いた音か。


「フラグ?」

「ええ、フラグです。スネークピットみたいなプレイヤー専用の危険なダンジョンに、そこらの旅人が迷い込んだりしたら大ごとですからね。普段は入り口を隠しておくこともあるんです。他にも、ボス前とかで出るフラグもありますよ」

 ふーん。ノゾミは適当な返事を返した。


 おそらく現地住人相手の、技術や知識の漏洩防止という役目もあるのだろう。普段は入り口を隠しておいて、プレイヤーが近づいたら、真の入り口が開くという仕掛けか。

 そのわりにスネークピットでは盗賊が入り込んでいたようだったが、まあ、完全にシャットアウトということもしないのだろう。なにせ、犠牲者がいなくてはダンジョンの噂も広がらないのだし。


 メドウスは、何やらよくわからない話をしているノゾミとラトルを、後ろから見ていた。会話の内容までは聞こえない。こういう話をするときは、ラトルはメドウスへの通信をカットしていた。ラトルは妖精だという認識のメドウスからは、特に不審に思うこともなかった。

 それよりも、気にしていることがある。


 メドウスは一つの質問を口の中で転がしていた。ノゾミの過去のことだ。

 今でなければできない質問だった。

 聞きづらかったわけじゃないし、どうしても知りたかったわけでもない。単に、言い出すタイミングがなかっただけだ。

 思い出なんてものは、他人からすると何でもない話だとしても、話す方は痛かったりするのだ。メドウスはそれを知っていた。だから、はぐらかされたり言い淀んだりしたときは、そこで打ち切るつもりだった。


「ねえノゾミ、ラハムってどんな村だったんだい?」

「知らないわ、行ったことないもの」

 拍子抜けするくらい、あっけらかんとした答え。メドウスは、ああ、やっぱりな、くらいにしか思わなかった。むしろラトルのほうがぎょっとしたくらいだ。


 メドウスの小さな引っ掛かりはあっさりと解消された。ラハムについて話すときのノゾミは、いつも他人事のような態度だった。

 故郷だというのに、懐かしむわけでなく、秘密を隠しているふうでもなく。かといって食いついては来る。見たことのない酒のつまみを出された時のように、横から話に入ってくるのだ。

 ノゾミのことだ。たぶんもっと前、出会ってすぐのころに同じことを聞いたとしても、同じように「ラハムなんて知らない」と答えただろうが。


 ベツレヘムの入り口で、二人は適当な木に馬をつなぐ。

 人気はない。

 一応、すぐに剣を取り出せるように心の準備はしておくが、ハルバードは置いていく。別に攻め滅ぼしに来たわけではないのだ。 


 村は柵で囲まれていた。数軒の家が見えたが、全体が収まるように大きく円状になっているようだ。

 簡素な門をくぐった瞬間、軽いめまいのような感覚があった。空気がゆがんだ気がした。一種の警戒装置でもくぐったのだろうかとノゾミは思った。


 村には全部で五軒の家があった。上空から見れば星の形に並んでおり、それぞれの家が中央の広場に入り口を向けて並んでいる。

 レンガ造りでそれなりに丈夫そうだが、それぞれは小さく、また、単純な作りをしていた。

 メドウスはすぐに生活感の無さに気付いた。単に寂しいとか人気が無いわけでなく、薪も農具も無いのだ。


 どうしようかと迷っているところ、正面の家の扉がぎいっと開き、妙齢の女性が出てきた。


「こんにちは」

 メドウスは彼女の顔に見覚えがあるような気がしたが、思い出せなかった。何と呼びかければいいかわからなかったが、とりあえず無難に挨拶を返す。敵意がないということはわかってもらわなければならない。


「いらっしゃいませ、ようこそラハムの村へ」


 落ち着いた声だった。と同時に、感情のない声といった印象も受ける。

 むー、と先程からラトルが唸っている。


 腕組をしたままで、ノゾミが言った。

『私の言葉はわかる?』

『はい、もちろんです、ノゾミ・ランバード様』

『なんで名前まで知ってんのよ』

『星が西の空を横切りました』

『回りくどいことはいいわ、ストレートに言ってよ』

 女性は少し困った表情を浮かべたが、すぐに違う返事をした。

『プレイヤーの乗る宇宙船は、星に着いた後、周回軌道中に各地に電波を発します。それはコーディネーターらにプレイヤーの情報を伝えるとともに、この星のイベントやダンジョンなどを活性化させる役目もあります』


 メドウスへの通訳は、ラトルがしてくれた。コーディネーターという単語も隠さずに、そのまま直接伝えた。メドウスはカっと顔が熱を持つのを感じたが、黙って話を聞いていた。熱はすぐに冷たい風がさらっていった。


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