表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第11話 作ろうよ、レールガン~ドワーフの村へ
52/91

11-5


 七大地獄の話は、魔法使いゴードンの冒険譚のハイライトの一つだ。それがどこまで現実とリンクしているかは別として。

 メドウスも子供時代に繰り返し読んだらしく、なかなか詳しく覚えていた。ああ見えて、彼も昔は普通の男の子だったということだ。


 

 馬の背で、星の下で、メドウスは色々な話を少しずつ語ってくれた。

 おかげでノゾミもラトルも、この星に染み込む世界観や人々の思いを、かなり理解することができた。


 東の地を訪れたゴードンは、いくつかの恐ろしい驚異を見つけた。彼はそれらをアグアス・テルマレスと呼び、帰郷後、人々に紹介した。

 『アグアス・テルマレス』とは、古代語――この星の本来の古代語のほうだ――で、地獄という意味だ。

 ゴードンは仲間とともに一つ一つアグアスを攻略していったが、七つ目にあたるヴィエントで愛用の杖を失い、ついにその攻略をあきらめて西へ戻ったという。


「で、ここがその七大地獄の最初の一つ、セフェってわけね」


 ゾンビをハルバードで薙ぎながら、ノゾミは言った。久しぶりの退屈しのぎの相手に、ノゾミは嬉々として向かっていった。

 セフェ。泥のアグアス。

 灰色の泥が広がる湿地。


 かつての冒険者だろうか、それともモンスターか。とにかく四つ足で動く灰色の何かが無数に起き上がり、襲いかかる。

 泥炭地に沈んだ死体にマナがたまり、それが生者のマナに引かれて起き上がってくる。

 身もふたもない言い方をすると、ゾンビの沼だ。


 メドウスの話では、ゾンビは普通、こんな開けた場所では発生しないらしい。

 人間も動物も立ち寄らないような場所では、マナが自然に分解されづらい。例えば以前の霊廟の中のような場所だ。溜まっていったマナがいつしか固まり、ぼんやりとした意志を持った存在がゴースト。死体にとりついたものがゾンビというわけだ。

 しかしここは、深い森の奥。人里からは離れているが、野生の動物は多い。ゾンビが発生するほどのマナ量は普通は溜まらないというのが、メドウスの意見だ。

 一つ目の脅威、セフェ。それは、ここが死の世界の入り口だということを暗に示していたのか。


 ただのゾンビの群れとはいえ、その数は膨大だ。

 ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。ハルバードで、マジックで、レーザーで。何度も弾ける灰色の泥を見過ぎて、目を閉じても頭の中で戦っている自分がいる。

 最初のうちは、倒したゾンビの数を数えていた。ノゾミは19匹、メドウスは16匹。それから後は、わからなくなっていた。


「飽きたわ」

 やがてノゾミは泥に背を向ける。背後で次の泥山が盛り上がっているにも関わらず。

「もういいのかい?」

 メドウスは倒したゾンビからマナを集めつつ、さらに攻撃を続ける。泥の山は無惨にも泡となる。

「ええ。宝物でもあれば、もう少し頑張ってもいいんだけど」

 ゾンビはマナの含有量が多いので、メドウスとしては嬉しい場所だったのだが、確かに長居するようなところでもない。


 ノゾミはあらかた満足すると、馬にまたがり、速足で歩かせる。

 たったそれだけで、もうゾンビたちには追い付く手段はなかった。力尽きたように、再びセフェの深い泥の中へと沈んでいく。


 人の手による痕跡を見つけたのは、そのすぐ後だった。


 小さな石碑。矢印と何らかの文字らしきものが彫られていた。

 墓石や何かを祀ったりしたようなものではなく、もっと実用的なもの。おそらく、村への方向と距離を示しているのだろう。三人はそう判断した。

 

 示されているだろう方向へと進んでいくと、一本の道にぶつかった。獣道ではなく、細いながらも人が通ることを目的とした道の跡だ。

 道なりに、そのまま進む。


 しばらく歩くと、山間に隠れるように作られた、寂れた寒村を見つけた。結局村人には出会わないまま、ここまでたどりついてしまった。

 村の入り口には木でできたアーチ状の門があり、村の名前が彫られていた。

 予想していた通りだ。

 そこには地球の言葉で、『ベツレヘム』と書かれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ