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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第11話 作ろうよ、レールガン~ドワーフの村へ
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11-3


「ところでノゾミさん、レールガン作成にあたり、絶対に必要なものが一つ足りないんですよ」

「ん、なあに? ここまで来たんだし、カカシの脳みそでもブリキの心臓でも集めてあげるわよ」

「ありがとうございますー。でも、そもそも作れるかもわかんないんですよねー」

 ノゾミは電子部品だろうかと想像し、身構えた。メドウスではなく、自分相手に相談してくるということは、そういうことなのだろう。


「コンデンサです」


 そら来た。

 必要なのはわかるが、なぜそれを自分にねだるのか。

「わかったわ、あんたを生贄に捧げればいいのね」

 機械にそこまで詳しくないノゾミでも、コンデンサが電子機器には欠かせないものだということくらいは知っていた。当然、ノゾミの使っているアーマー、ノットマンにも組み込まれている。

「違いますよ! マナです、マナ用のコンデンサですー」

 素材となるドラゴンの牙のマナ効率がどれほどのものかはまだわからないが、実験結果から計算するに、今のままでは出力不足。武器としてはとても使えない。ラトルが希望するだけの威力を確保するには、どうしてもコンデンサの助けが必要だった。


「何だい、こんでんさって」

 メドウスが聞いた。

「そうね、電気を――、ええと、今回の場合はマナかしら。うーん、マナを一時的に溜めておいて、一気に流すための部品というか」

 うろ覚えの知識でメドウスに説明した。

 マナの正体もわからないのにコンデンサなんて作れるものか。そうノゾミは思ったが、メドウスには心当たりがあるようだった。少し考えたあと、メドウスはラトルに聞く。

「もしかして、こないだ実験させられた、あれのこと?」


 この世界にも、マナを溜めておいて後から使えるようにしようと考えた人間は大勢いる。ラトルの目からは玩具程度の出来だったけれど、マナバッテリとでも言えるだろうか。そういった物を参考にして、ラトルとメドウスは既にコンデンサの実験を済ませていた。

 ノゾミは素直に感心した。技術や発想はもちろんのこと、その情熱に。

 ラトルは事も無げに言う。

「人間だってライデン瓶を作り出したじゃないですかー。しかも、電気の正体があやふやな時代に。ヒント無しでそれを作り上げた人たちのほうが、よっぽど尊敬されるべきですよ」


 ライデン瓶とやらは知らないので、ノゾミは軽く聞き流す。でも、とノゾミはふと立ち止まった。ラトルは最初、作れるかどうかがわからない、と言った。実験まで既に済ませているのに、一体何を困っているのだろう。

 その疑問にはメドウスが答える。

「たぶんだけど、マナを溜められる量が少なくて、ラトルが欲しがるほどの強い力には足りないんじゃないかな。武器に使うってのに、材料が壊れやすいガラス瓶なのも気になるし」

 そのあたりの実用的な指摘は、さすがに技術者だけのことはある。

 ラトルはうんうんと頷く。補足も反論も特にない。


「ドワーフたちなら作れたかもね」

 メドウスの何気ない一言。ノゾミはその言葉が引っかかった。そうだ、今までも何回か、こんなことがありはしなかったか。

 普段なら「そうね」で打ち切る話だったが、ダメ元でドワーフについて聞いてみる。


「昔話だよ? 東のレヴィベ山脈を越えた先に、七つの地獄があるって言われてるんだ。この世の果てらしいんだけど。で、その地獄の入り口の少し手前に、ドワーフの村があるの。人間よりもずっと古い歴史があって、未知の古代技術だとか色んなマジックアイテムとかが隠されてるんだってさ」

 

 そうだ、大抵発端はこういう昔話だ。そしてそれが絡むのは、いつも――


「もしかしてそれも、ゴードンとかいう魔法使いの?」

「ああそうだよ、閃光の魔法使いゴードン」

 ノゾミの首筋で、産毛が逆立つ。声が自然に高くなる。


「ラトル」

「はい」

 そのやり取りだけで通じた。ラトルも察していたのだ。

 この地域の地図を探す。一番早いのは、ギルドの壁にかかっているやつだろうか。メドウスの手を引っ張り、引きずるように急ぐ。

 壁にかかっている大きな地図は、色々と装飾されてはいるが、地形や距離自体はなかなか正確だ。肝心の東方面以外に関しては。

 ミラーマウンテン、そしてその本体にあたるレヴィベ山脈に阻まれ、調査が進んでいないのだ。

 よく見ると確かに、山脈の向こうに七つの地獄とオーガのイラスト。その左にはハンマーを持つ、不格好なゴブリン。もとい、ドワーフだ。


「メドウスさん、ドワーフの村に名前はついてるんですか?」

「ええと、ベツレヘム、だったかな」

「なるほど。ノゾミさん、行きましょう、ドワーフの村へ」


 一人で納得するラトルに、ついていけない二人。

「どうしたんだい、そんな急に」

「たぶんそこは、あたしたちの知っている村。――ラハムです」

 鼓動が早くなる。ノゾミもメドウスもどきりとしたが、声はあげなかった。それぞれの頭の中で、様々な思惑が渦巻いていた。


 ノゾミはメドウスに聞こえないように、ラトルに訊ねる。

「ラハムって名前だけの村じゃなかったの? 地図上にちゃんと存在してんの?」

「ベツレヘムの語源、知ってます? 神ラハムの家、って意味なんですよ。もちろん、地球の言葉ですが。スネークピットみたいなものです。間違いなくそこにはドワーフがいて、あたしたちの世界の武器が手に入ります」

 

 そうだ、武器だ。ゲームのイベントとして、オリジナル武器の製造や加工ができる施設が用意されているのは知っている。もしかしたら、ここがそうなのかもしれない。

 マナコンデンサ。この世界にも地球にもないもの。しかし、設計図はある。レーザー加工機や精密な各種工具。あとは機器さえあれば。

 ピースは揃った。ラトルは二人を急かす。次の冒険へと。


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