11-2
メドウスは、ベーメン中の工房をいくつも回り、最後にハロルドの工房にたどりつく。
後回しにした理由を、メドウスは言いにくそうに話した。
「あんまり気は進まないんだ。お師匠様が死んでから、挨拶もしてないし」
そう言ったメドウスだったが、ここに来て迷ったり震えたりする様子はなかった。
『格別の赤』。ごつごつした古木をそのまま使った看板には、そう彫られていた。今は息子が継いでいるが、職人ハロルドの工房兼武器屋である。
「おお、メドウスじゃないか。久しぶりだな」
メドウスを迎えるハロルドは、彼の記憶の中と全く変わらない笑顔で、逆にこちらが困惑する。まるで遊びに来た孫を出迎えるかのようだ。
「お久しぶりです、ハロルドさん。……あのー、師のことなんですが」
少しずつ小さくなる声。
「聞いとるよ、色々と。ただ、お前さん、葬式にくらいは出るべきだったんじゃないかな」
メドウスは言葉もなく、深く頭を下げた。メドウスは泣いていた。
ハロルドは優しくかぶりを振った。
あの火事の直前に、バルサラは弟子とケンカをしていた。そして、弟子は出ていった。その噂は近所で広まっている。
しかし、親しいものにはわかっていた。あの二人は、そんな深刻な関係ではないと。葬式にも出ないとは、よほどのことがあったのだろうと。
ましてやハロルドは、バルサラの一番古い親友の一人である。なにか目的があり不仲を装ったのだと、そこまで察していた。
ハロルドは、メドウスが葬儀に顔を見せなかったことを責めたわけではない。長い付き合いだ、何か理由があったのだろうと察していた。察してはいたのだが、彼のそのふりが、かえって不自然過ぎただろうと言っているのだ。
後ろにいたノゾミは、どうしたものかわからず、ぼんやりと工房を眺めていた。
本格的な炉は別の場所にあったが、それでも一目で鍛冶屋の作業場とわかる。乱雑に置かれた工具。武器。そしてきちんと並べられた金床。
素人目にも立派な工房だった。
メドウスが落ち着くと、ハロルドは、何か話しておきたいことはあるかと聞いた。メドウスは迷ったが、古ぼけたノートを取り出した。バルサラが記した、あの手帳だった。
「これを読んでください、ただし、誰にも話さないで」
ハロルドはわかったというと、それを大切に懐にしまった。
こうすることが正しいかどうかはわからない。
死にゆくものから生まれ、生けるものが繋げていく。唐突に思い出される言葉。それは、メドウスがマナを学んだ老魔術師から引き継いだ言葉だった。
別に何を託そうと思ったわけではない。けれど、もし今自分が死んだ場合、師の意思を引き継ぐ人は誰もいなくなる。
それはとても悲しいことじゃないかと、メドウスは思った。
そこまですると、メドウスは気持ちを切り替える。武器の作成を依頼したいとハロルドに切り出した。
ハロルドは快く引き受けてくれた。親友バルサラの忘れ形見からの頼みだ、断れるはずがなかった。
引退したのは単に年齢のせいであり、仕事に対する情熱を失ったわけではない。物語によく出てくるような、気難しい職人でもない。今でもたまにご近所さん相手に、異常なまでによく切れる包丁を作ったりしているくらいだ。
が、さすがの彼も、今回の依頼には驚かされた。
「銃は何丁も作ったことがあるが、こんな変な銃は初めて見る。一体どんな仕組みになっとる?」
メカニズムを理解できないメドウスが、銃の仕組みを説明できるはずがない。ノゾミにしたって、部分的な知識はあるものの、専門外だ。
さんざん迷ったあげく、メドウスは、ハロルドに予備のイヤホンを渡した。彼なら、ちゃんと口止めさえしておけば、問題になることもないだろう。
「初めましてー、クリムゾンゴーストのラトルと申しますー」
「――な、なんじゃこれは? どこから喋っとる!?」
いきなり、やけに明るい声がキンキンと響いた。ハロルドは慌てて周囲を見回す。様々な武器防具を見てきたハロルドでも、ここまで素晴らしいマジックアイテムに触れるのは初めてだった。
このあたりが、ハロルドを選んだ最大の理由だった。メドウスと個人的にもつながりがあり、ラトルの秘密を守れる、信用のできる職人。作成にラトルの指示が必要である以上、それは絶対の条件だった。
ちなみにクリムゾンゴーストを名乗ったのは、単に説明を簡単にするためだ。ラトルはその呼び名が気に入っていないようでずいぶん渋っていたのだが、まともに取り合ってもらえず、最終的にあきらめたのだった。
大まかな打ち合わせと素材の確認が終わると、二人は一旦、格別の赤を後にした。
「では! あたくし、ラトル二号は、これより武器の作成に入ります! データと人格の統合は、武器の完成後に行いますので、それまではしばしお別れですね!」
ラトルは短距離無線通信でやり取りしている。届くのはせいぜい一つの建物内程度。ラトルに言わせると、「大声で届く範囲くらいです」だそうだ。
ノゾミかメドウスが常に武器屋にいるわけにもいかず、完成までラトル抜きで行動するのもリスクが高い。
そんなわけで、ラトルはハロルドの指示役として、自身のコピーを用意した。表向きはハロルドへの指示役だったが、ラトル自身が用意した保険でもあった。本体に何かあったとしても、ノゾミ達を助けることができるようにと。
そんな時が来ませんようにと、ラトルはこっそり祈った。




