10-7
腐ったような臭いが未だ鼻を衝いている。
奥歯で錠剤を噛み砕くが、薄い甘みしか感じない。
「あのワームは何?」
「メドウスさんによると、毒を吐くそうです。おそらく硫化水素。生物が吐き出すなんて、ちょっと信じがたいですけど」
まったく、知っていたなら一言教えておいてくれればいいのに。
「硫化水素ってどんなのだっけ?」
「可燃性のガスです。空気より重たくて、有毒」
なるほど、先ほどまで戦っていた場所を見下ろすと、ちょっとした窪地になっていた。ガスが溜まりやすいはずだ。
ごそごそと腰の道具袋をあさる。探しているのは手投げ弾。爆弾と言っていいのかも不安になるような、不格好な火薬の塊。
ハルバードのおまけに武器屋からもらったものだが、まさかそんなものに頼る羽目になるとは。
レーザーで導火線に火をつけ、ど真ん中めがけて放り投げる。顔を背け、衝撃に備える。
光、風、熱。それらが順番に、一瞬のうちに通り過ぎる。
荒れた岩場だ、ろくに燃えるものはない。奴らの吐き出したガス以外は。
太陽のような火の海は、まるで嘘のようにたちまち消え、白煙も同時に消し飛んでいた。
のたうち回るドラゴン。ノゾミは置いてきたハルバードを急いで探す。
あった。ドラゴンの真正面だ。
火にくべられたというのに、頼もしく光り輝いている。
ノゾミは剣を抜くと、一直線にドラゴンに向かう。
ここでまとめてブレスで焼かれるわけにはいかない、少なくともメドウスだけは狙いから外さねば。
ラトルを急かす。
「スキル、スピードアップを。早く」
「はい!」
燃やす前よりもワームの数は増えていた。焼かれて土中の頭をもたげたか、タケノコのように生えてくる。
「毒を吐くってことは、少しくらいなら噛まれても大丈夫よね」
「え?」
聞き返すラトルを無視し、戦場に飛び込む。
ドラゴンはブレスを吐く。狙いは甘い分、範囲が広い。まるで炎のシャワーだ。
大丈夫、引火するほどの量はないはず。この位置では祈ることしかできない。
かわしながら、手の届く範囲で邪魔なワームを刈り取る。数匹が足首にまとわりつくが、構わず蹴り飛ばした。赤い肉が飛び散る。
鉤爪の付いた翼が迫る。皮膜をマントのようにひるがえし、まるでダンスにでも誘うように。あいにくだがごめんだ、私はパーティーガウンなんて着ていない。
ノゾミは踵で地を蹴り、無理やりブレーキをかける。膝が軋んで、背骨が悲鳴を上げた。
翼が地を打つ。ブレーキの勢いでふわりとその場で舞ったノゾミは、その前肢を踏み台に駆け上がる。
ドラゴンが牙をむくが、遅過ぎた。ノゾミはさらに上空を取っている。
落下の勢いそのままに、瞳めがけて剣を突き立てる。
脳みそに届けと言わんばかりに、奥までぐりぐりとねじ込ませていく。
ドラゴンは狂ったようにノゾミを振りほどこうとする。あっさりと手を離し、されるがままになる。一回転、華麗に着地。
その足元には、ハルバードがあった。
握りしめた柄が温かい。
ケガは少なくとも、筋肉や骨が悲鳴を上げている。お互い満身創痍だった。
ノゾミは刃を横にすると、軽く助走を付け、突いた。
切っ先は図太い肋骨の隙間を綺麗に滑り抜け、最短距離で心臓にたどり着いた。




