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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第10話 ドラゴンの島へ
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10-5

 

 初めて見る竜は、思っていたよりも細身で、小柄だった。小柄といっても象くらいの背丈は十分にあるのだが。

 重力が小さいとはいえ、これでよく飛べるものだ。そう思った後で気が付いた。

 ああそうだ、マジックモーメントか。

 正解だとでも言うように、ドラゴンは翼を大きく広げ、そのまま伸びをした。少しうろつくと、巣の横に寝そべる。

 紅の皮膚が日を浴びて金色に輝く。きらきらと反射する箇所は、過去の戦いの傷跡か。


 巣は斜面のきつい岩肌に作られていた。メドウスにその場で待つように伝えると、ノゾミは右側から回り込むために、崩れやすい斜面を慎重に登る。

 この足場では戦うどころではない。少し下にある平地部分に、相手を誘導するつもりだった。


 ここまで近づければ十分だろう。巣と同じくらいの高さまで崖を登ったノゾミは、岩陰から出て、まっすぐに歩いていく。歩きながら持ってきたロープを肩から下ろし、持ち替える。

 前回使ったボーラではない。今回は先に鉤を括り付けてあり、引っかかりやすくしてある。長さもたっぷり用意した。

 元よりダメージを与えるつもりはない。あくまでも本命はハルバードだ。


 気付かれた。ドラゴンがピクリと反応する。顔を上げてこちらを睨みつけてくる。

 歩くスピードを落とす。もう少しだ。一歩一歩を確かめながら踏み出す。じゃりじゃりと砂を踏む音。

 数歩も進まないうちに、ドラゴンは立ち上がった。羽を広げ、首を落とし、巣の前に立ちはだかる。

 瞳は黄金だった。


 ノゾミを睨みつけたままで、にじり寄る。限界だと感じたノゾミは、歩みを止める。

 ハルバードをすぐとれる位置に立てかけると、ロープを回し勢いを付けていく。ぶんぶんと低い風切り音。

 今だ。

 ラトルがメドウスに合図する。メドウスは両手に待機させておいたマジックを、一気に放つ。

 収束する螺旋状の暴風が、ドラゴンの右翼にぶち当たる。以前使っていた、単に放出するだけのマジックではない。威力も射程距離も上がっていた。



 ラトルは、自分の実験にメドウスを付き合わせる代わり、効果的なマジックの使い方を彼に教えていた。マナを知らなかったはずのラトルが、なぜこんなことを知っているのか。メドウスには不思議でならなかった。

 当然のことだが、この星にはマナを扱うための様々な技術が存在する。昔から多様なやり方を研究してきた先達たちのおかげだ。王宮の魔術師や冒険者はもちろん、子供の悪戯まで。

 奥義とされ秘匿された技も当然あるだろうが、基本とされる技術はある程度固定され、多くの人に伝えられている。例えば、メドウスのように。

 人々の貴重な努力、経験の積み重ねだ。


 ラトルはそんな過去の魔術師たちに敬意を払い、少しばかりの罪悪感を感じながら、利用させてもらう。

 マナもマジックも、映画に出てくるような便利で万能な魔法ではなかった。手からクッキーがでるわけでも、ゴーレムを動かせるわけでもない。触れるのは初めてだが、それが引き起こす現象に関しては既知の範囲内だ。

 データ取りは地球で何世紀も前に済んでいる。それも、膨大な数を。

 ラトルはメドウスに、流体力学をもとにしたアドバイスを行った。メドウスの感覚からすると、それは恐ろしく適切で、効率的だった。


 しかし。ラトルはふと思う。人間はどこで計算しているのだろうかと。

 マジックでも狙撃でも、千回万回打つ場合、間違いなく自分たちの計算が上を行く。しかし、最初の一発目。初弾だけに関しては、熟練した人間の計算にどうしてもかなわない。

 弾速も気温も湿度も、風向、風力、重力、コリオリ力に至るまで、すべて計算ではじき出せる。はじき出せるのだが、寸分違わず同じ世界があり得ないように、どうしても計算と現実には誤差が発生してしまう。それはどうしようもないことだ。それを結果をもとに修正するのが彼女らのやりかただ。


 人間は自分たちのシミュレーション能力のことを、勘と呼んでいた。彼女には不可解な領域だ。

 どの感覚器官でデータを集め、脳みそのどの部分で複雑な演算を行っているのか。そして、肉体というあやふやなツールで正確に再現する技術力も。




 ドラゴンの悲鳴で我に返る。いけない、考え過ぎた。今は戦闘中だ。ラトルの眼が輝きを増す。ノゾミが投げつけたロープで、ドラゴンが下へ引きずられていくのが見える。

 ここからが本番だ。


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