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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第10話 ドラゴンの島へ
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10-4

 

 セレーソ島に近づいた船は、岩陰を縫うように進んでいく。島の西側にあたるこちらには、朝日はまだ届かない。船は淀みなく進み、ザーコフ船長の腕と経験を見せつけていた。

 港は二つあった。防波堤に囲まれた大きなものと、その横の岩間に隠れるように作られているものと。

 どちらも簡素だが武骨な作りをしている。どっしりとした大きな岩を利用されており、島の自然環境の厳しさを端的に表していた。


 船はじきに着く。図ったかのように稜線から光が射す。ノゾミはその時になって初めて、空を覆う雲が、火口からの噴煙だったことに気付いた。

 その勾配と合わせ、山が一層大きく見える。

 ああ、まさに教科書通りの火山島だ。ふもとはかろうじて緑が見えるものの、中腹以降は枯れた土色をしている。

 咆哮が聞こえた気がした。鶏じゃああるまいし。

 目を凝らすが、さすがに遠すぎて何もわからなかった。


「本当に来ないのかい?」

 メドウスはグレンに聞いた。

「今更だな。最初から俺抜きで戦うつもりだったんだろ?」

 揺れる船の上から、見上げながらグレンは言った。上手くやれよと激励するように、薄い笑みを浮かべている。

「行くわよ」

 ノゾミはもう桟橋を渡っていた。わかった。メドウスはどちらに言うでもなく、速足でノゾミを追った。


 そういう近道を選んでいるからという理由もあるが、歩き始めると緑の穏やかな世界はあっという間に終わり、すぐに火成岩一色の世界に入る。こちらを遠目に見ていた山羊だか鹿だかは、もう見えない。

 遠くにぽつぽつと緑色が見えたと思ったら、よく見ると小動物の死骸だった。どこから迷い込んだのだろう。

 このあたりはドラゴンから身を隠す場所もろくにない。息絶えた後、捕食者も近づけずに捨て置かれ、そのままミイラ化してしまったのだろうか。 


 二人は崩れやすい岩場をするすると苦も無く登っていく。

 メドウスはノゾミに感心していた。マナ量はなかなか伸びずにマジックはうまく使えないのだが、マジックモーメントの習得が早い。

 特に持続時間。メドウスよりも長い上に、疲労も少ないようだ。

 才能か体質か、とかくマナの扱いに関しては個人差が大きい。ノゾミに関しては、生まれや特別な鎧のせいだろうかとメドウスは推測していた。

 落ち着いたら調べてみたいものだ。研究者としての血が騒ぐ。


 太陽のせいか地熱なのか、暑くてたまらない。首を伝っていく汗が邪魔くさい。

 適当な岩に座り、水をがぶ飲みした後、干し肉をかじる。村で買った干し柿も取り出す。どちらも布をかじっているようなものだが、干し柿のほうが甘いだけマシだった。

 小休止を挟んで、ひたすら歩く。変わらぬ風景に飽き飽きし始めたころ、ラトルが声をかけた。二人の目にはまだぼんやりと、他と変わらぬ岩の塊にしか見えない。ドラゴンの巣だ。


 二人は顔を見合わせると、気を引き締める。ノゾミの口角が自然と上がる。ハルバードを肩から降ろし、控えめに素振りをして感触を確かめる。

 奴らは食物連鎖のトップだ。警戒とは無縁の性格だ。しかし、それも昔の話。人間は、冒険者という例外を生み出した。

 別にお互い殺し合う必要も無かったのだが、彼らと冒険者は、幾度も戦いを繰り返した。主に名誉をやり取りするために。ドラゴンは数を減らしたが、その分、彼らは狡猾に強力になっていった。


 身を隠す岩を探しつつ、風下から近寄る。耳はどれだけいいのだろうか。崩れる岩に足を止められる。

 メドウスは緊張していたが、ゼノボアのときのような後悔は無かった。準備はしている。そして、ノゾミがいる。ドラゴンは倒せる存在だという確固たる自信があった。


 巣の横にいた深紅のドラゴンが、天を仰ぎ、吠えた。大気が震える。気付かれたわけではない、単に声を上げたに過ぎない。

 だが、その姿は、まぎれもなくセレーソの島々の主だった。


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