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ラトルの思考の出発点は、マジックで発生するエネルギー量が多過ぎるという疑問だった。
マジックとはマナを放出する技らしい。
マナという未知のエネルギーがあるのは、まあいい。そういうものだと考えよう。もしかしたらエネルギー効率がすこぶる良い物質なのかもしれない。ただ、それを前提としても、あんなにぽんぽん放出していたら、すぐにマナが切れるのではなかろうか。
メドウスにそのことを質問する。回答は思った通りだ、マナ切れという現象は確かにある。
連続してマジックを使い続けるとおちいる状態で、そうなるとマジックはもちろん、マジックモーメントもうまく使えなくなる。その場合、時間が経って回復するのを待たなければならない。何でも、空気中に漂うマナを吸収して回復するとのことだ。
ラトルは思わず口に出してしまう。
そんなバカな、と。
これはマナ自体のエネルギー効率だとかそんな話ではなく、足し算と引き算の問題だ。放出と吸収の収支が釣り合っていないのだ。
ガス欠を起こしたとするなら、空気中に漂っている程度でとても回復するはずがない。逆にその程度で回復するなら、そもそもガス欠など最初から起こさないだろう。
ラトルは考える。マジックで放出されているのは、本当にマナという物質なのかと。マナは起爆剤やエンジンのような存在であり、放出されるエネルギー自体は外部から取り入れているのではないかと。
例えるなら、ストーブとエアコンの違い。例えば空気中の熱量を集め、それを放出しているとしたら?
そうだ、それならわかる。
では、どうやって熱を集めている? 放出の仕組みは?
メドウスの言葉を、図書館の書物の一片一片を反芻していく。そうだ、メドウスは言っていた。
「マナ同士は磁石みたいに引き合うから」
死ぬ者から生きる者へとマナは引き付けられる。しかし、それは死の瞬間のみだ。マナを持たない者が死体やゴーストに触れても、マナは手に入らない。
なぜ手に入らない? 直接触れているのに、少量が残留することすら無いなんて。
もしかして、何かと反発しているから?
メドウスはマナを感じて敵の接近を察知していた。マナを持つ人間は、その力を感じることができるらしい。
マナが空中を飛散しているのだろうか。それなら、空気中のマナを吸収して回復するのもわかる。
いや、他にも仮説は考えられる。マナが力場を作っている場合だ。
今までの話を精査していく。ポイントは、――引力、斥力、そして力場。
この三つのヒントをそろえた時、ラトルは思わず吹き出した。なんだ、よくよく知っている力と似ているじゃないか。
ケタケタと小気味よい笑い声がインカムから届く。
メドウスは嬉しそうに聞いてくれた。
「何がわかったんだい、ラトル?」
「マナのことですよ、やっとわかったんです。いえ、正体はわかりませんけどね、あたしたちも似たような力をずっと使ってたんだなーって思って」
よくわからないまま、微笑を浮かべて聞いてくるメドウス。ラトルは一つの単語を教えてやる。もったいぶって、仰々しく。わざと地球の言葉で難しく言ってやる。
「マグネティック・フォースです」
眉を寄せるメドウスに、意地悪そうに「磁石の力のことですよ」と付け加えてやる。
もちろんそのものではない。マナの正体は依然不明のままだ。
ただ、似た特性を複数持つならば、その他の特性が似ていても不思議はない。つまり、使用方法や応用についても。
そして、例の二本の杖の実験でついに確信を得たのだ。
いくつもの実験を踏まえ、ラトルがドラゴンの牙から作り出そうとしているのは、レールガンだった。既に青写真はできている。
ノゾミは何も言わないだろうが、一応言い訳も用意してある。正体不明のやつらに対抗するなら、強力な火器は絶対に必要です。奴らの想定外の武器が。
ただそれでも、ラトルの動機は純粋な好奇心のみだった。そう、人工知能にだって好奇心はあるのだ。計算だけでなく、実験と観測を経て、科学は発展してきたのだから。