09-8
目を開けた瞬間、シャツからすぽんと首を出したノゾミとばっちり目が合う。脳みそというものはすぐには働かないものだ。
あら起きてたの。先にノゾミが声をかけてくる。
メドウスが状況を把握したのは、その後だった。鎧を着こむ程度ならともかく、まさか普通に着替えているなんて。
ちらちらと白いものが覗く。視線をどこに置けばいいのかさっぱりわからない。しばらく毛布からは出られそうになかった。
「あの化け物をこのままにしておくのは、良くないと思うの」
塩っ辛いスープをすすりながら、ノゾミが言う。
「ほら、このままだとこの村にも被害が出るかもしれないでしょ」
「人としてほっておけないわよね」
「グレンは一日だけ待ってやるってさ、偉そうに。手伝ってはくれないみたい」
メドウスはやっとの思いで噛み千切ったパンを、水で喉に無理やり流し込んだ。その固さといったら、幼いころ母親にもらった皮の財布といい勝負だ。
「珍しいね、言い訳してるノゾミは。いつもならさ、珍しいモンスターが出たわ、倒すからついてきて。――それでいいじゃないか」
ノゾミは無言だった。スープをずずず、とわざとらしく音を立ててすすっていた。
「もしかして、僕抜きで色々決めたことが後ろめたかったの?」
無言のまま頷く。
意外だった。メドウスはノゾミのことを今まで誤解していたのかもしれない。もっと自分勝手で、回りのことを顧みない性格なのかと。
そうではなく、もしかしたら人付き合いが下手なだけなのかもしれない。苦手ではなく、下手。自信と行動力があるものだから気付かれにくいけれど。
昨夜のラトルとの会話を思い出し、笑顔を作り、気にしていないふうを装った。
そう、ノゾミが自分に気を遣う必要は無い。例えグレンやラトルとのやり取りが無かったとしても、彼女に誘われて断るなんて選択肢は、自分にはないのだから。
「いいよ、行こう。付き合うよ、どこまででも」
ありがとう。ノゾミは目を合わせずに言った。
短い付き合いではあるが、ノゾミが裏表の少ない性格だということは知っている。だから、小さい声だったけれど、メドウスにはそれで十分だった。
宿を出るとまず、ノゾミは道具屋を回ってロープなどを買い込んだ。
メドウスは手伝いながら考える。ノゾミは分かっているのだろうか。倒すことばかり考えているけれど、そもそもあの広い山の中でどうやってテングを見つけるつもりなのだろう。おまけに奴は、姿を消せるのだ。
考えつつも口に出さなかったのは、見つからなければいいと思っていたからだ。
一日を徒労に終え、ぶすっとしたまま酒を飲む。そして二日酔いの頭を抱えて、目的地へと向かう。それでいい。それが一番いい。
逆にノゾミとラトルは、どう戦うかしか考えていなかった。二人にはテングを見つけるあてがあった。
奴が配置されたモンスターである以上、プレイヤーに接近するような行動パターンをプログラムされているはずだ。一旦逃げられはしたが、昨日出会った川原付近をうろうろしていれば必ず再会できる。
探すのではなく、向こうから見つけてもらうのだ。
「機械の敵の弱点って、普通のゲームなら何かしら」
「んー、電気とかですかねえ? 祈祷師を呼んで雨乞いでもさせたらどうですか?」
「一人知ってるわよ。目に見えない妖精で、分解したら高圧電流を発生させられるらしいわ」
「 」
ラトルが声にならない呻きをあげる。
実際、ノゾミは困っていた。弱点は設定されていると思うが、それをうまく衝けるかは別問題だ。
野外で長時間稼働可能だということは、水も埃も対策はされているだろう。内部の機械に直接ダメージを与えるには、ラトルの言うように電気が一番なのだろうが、効きそうな高出力のスタンガンなんて装備していない。
火攻め? ハルバードでぶっ叩く? 馬鹿な。それこそ火力不足だ。
となると。
「やっぱり、圧倒的な質量で叩き潰すのが一番わかりやすいわね」
地図、そして村長を頼り、近辺の地形で使えそうなものが無いかを探す。おおよその作戦が決まっていく。
川をせき止めたり大がかりな罠を仕掛けたりする時間は無い。ノゾミはターゲットを希望の地点に誘い込めるかどうかにポイントを絞り、無理ならすっぱり諦めることに決めた。




