09-3
グレンが酒場に消えると、ラトルはすぐにメドウスに訊ねた。
「メドウスさん、さっきの銃はどんな仕組みになってるんですか?」
「うん。銃ってのは弓の一種でね、特殊な金属の矢を機械仕掛けで飛ばす武器なんだ。長いパイプ部分の根元に、取っ手と発射するための仕組みがあって――」
身振り手振りで説明するメドウスを、ラトルが急かす。
「そこらへんはわかってますから、発射のためのエネルギーとか、細かい仕組みについてをお願いします」
「え? ああ、わかったよ」
メドウスは少し残念そうだ。
「ここらへんに薬室ってものがある。まずはそこに、マジックを使う時の要領で、マナと熱をたっぷり充填させる。十分に溜まったところで引き金を引けば、バネの力でハンマーがその薬室を強く叩く。充填したマナは爆発を起こして、その勢いが弾丸を飛ばすのさ」
ラトルはふむふむと相槌を打つ。
ノゾミは最初から考えるのを放棄して、ラトルの解説を待っていた。案の定、すぐに向こうの方から話しかけてくる。
メドウスには繋げていない、個別回線だ。彼は気付かず、なおもしゃべり続けている。
「やっぱり我々の使っているものとは少し違いますね。もっと原始的な、マスケットと呼ばれていたものに近いようです。一番の違いは、推進剤が火薬ではなく、マナだということでしょうか。
ノゾミは、マナを持たない人間が持てばどうなるかを聞いてみる。殴りかかるのなら棍棒の方がおすすめです。ラトルはにべもなく言う。
「で、結局、地球の技術は使われているの?」
「似た技術ではあるんですけどねー。独自に発展して、似たような形になったと言われたほうが頷けます。収斂進化ってやつです。まあ、かつての冒険者が持っていた物を参考にした可能性はありますが」
そう。ならいいわ。
一度疑い始めると、何でも怪しく思えてくるのはよくあることだ。引っかかるものはあるが、ラトルの判断を尊重する。
そもそも、この星に星外の人間が干渉している時点で、文化にも何かしらの影響が出るのは当然なのだ。今回の案件にこれがどこまで関係するのかしら。
海水浴に行きたいわ。ノゾミは抜けるような青空を見て、唐突にそう思った。
商店街には冒険者向けの装備品を専門に扱う一角がある。ノゾミのお気に入りの場所だ。
武器から見るのは素人だと言われたこともあるが、ノゾミは気にしていない。
冒険者ならそのまま喋っていてくれ、私が先に切りかかる。あんたが評論家なら、剣を貸すからペンでへし折ってみればいい。そう言って冗談交じりに笑い飛ばした。
ノゾミだって、基礎的なサバイバル用品がどれだけ重要かはきちんと理解している。ただ物騒な言葉を並べただけで、本音は「他人のことに口を出さないでくれ」というだけの話だ。
ノゾミの装備品と比べるには基準が違い過ぎるが、先ほどの銃然り、独自の進化を遂げたものというのはなかなか馬鹿にはできない。
大ぶりの剣や矛は、シンプルに今のノゾミにとって足りない部分を埋めてくれるし、刃物の中には、切れ味だけならノゾミの剣を上回るものもある。
武器屋から離れようとしない相棒に、メドウスがぼやく。
「武器から見るやつは素人だって聞くけど、武器しか見ないやつは何だと思う?」
「気にせずに、ご自分の買い物を済ませてください。待っている時間がもったいないですよー」
メドウスは後ろ髪を引かれながらその場を離れる。
頭の中のリストをもう一度確認する。まずは旅用の服、防火性の高いマント。丈夫な鞄と薬用品。そこまでは必須である。頭を悩ませるのはそれ以降だ。
全部を持って行くわけにもいかないし、そもそも全て買い揃える金もない。抜けが無いように厳選しなくてはならない。
ある程度買い物を済ませて、何か変わったものがないかと思いながら店を回っているところで、ノゾミが追い付いてきた。
肩にはあまりにも不釣り合いなハルバードを担いで。
メドウスは呆れたが、すぐに考え直す。
ノゾミの筋力は、見た目よりもずっと強い。武器を扱う技術も相当なものだ。となると、あれは実はベストな選択ではないのかと。
ゼノボアと戦った時にあれを持っていればどうなっただろうと想像すると、意外と悪くないかもしれない。
その他に買ったものを訊ねると、ノゾミは嬉しそうに説明する。
毒を複数、塗り付けるタイプや散布するタイプなど。煙幕や閃光弾。各種の薬品。そんな答えが返ってきた。
モンスターを狩ることしか考えていないそのラインナップに、今度こそ本当にあきれる。
「君は本当に戦うことが好きなんだね」
「もちろんよ」
ノゾミは心から楽しそうにほほ笑む。どきりとするメドウス。
「大目に見てあげてください。戦闘以外の部分に関しては、あたしがサポートしますから」
実際、それはラトルの正式な役割の一つだった。戦闘しか興味が無いプレイヤーは珍しくない。そのためにアーマーには細かい補助装備が多数備え付けられているのだから。
それぞれの準備は終わり、待ち合わせの朝が来た。




