08-4
「先に聞くけど、君、ここ数日は何をしてたんだい?」
ぐさりと刺さるメドウスの言葉は、あのアサシンの刃よりもよっぽど鋭い。どうごまかそうかとノゾミは言葉に詰まる。
「ごめん、別に責めてるわけじゃないんだ。冒険者なんてやってるんだから、色々あるのはわかってる。僕はただ、君が危険な目に合わないか心配なだけなんだ」
「え、ええと、何のことかしら?」
「君、誰かを殺さなかったかい?」
無言でぷるぷると首を横に振るノゾミだが、それならまだ何もしない方がマシというものだ。
焦れば焦るほど、頭の中はばらばらになる。これじゃあまるで浮気をごまかす彼女じゃないか。いや、殺人に比べればまだそちらの方が可愛らしい。
はあ、とわざとらしいほど大きなため息を吐き、メドウスはとどめを刺す。胸に刺さりかけたナイフがずぶずぶと埋まりこんでいく。
「わかるんだ、マナが増えてるから」
そのセリフに対してノゾミは、大きなあきらめのため息で返した。
ノゾミはメドウスに聞く。普通はどうやってマナを手に入れるのかと。
メドウスはぽつりと言う。「死にゆくものから生まれ、生けるものが繋げていく」と。何かの教義のような言い回しだ。
「儀式をするんだ。生贄を用意して、自分の手で殺す」
「メドウスも最初、誰かを殺したの?」
メドウスは軽く笑って答えた。ノゾミはさっきからひきつった笑いしか出てこないというのに。
「別に人じゃなくてもいいんだよ。僕の時は小鹿だった。普通はそんなもんさ。自らの手で、素手かナイフで殺すんだ。生贄が息絶えた瞬間に手を触れていれば、そこからマナが流れ込んでくる」
なるほど、銃などでは無理なのか。ノゾミは心に留めておく。
「一度マナを取り込んだなら、あとは例え死体からでも、まだ残っているマナを集められるようになる。マナ同士は磁石みたいに引き合うから」
ノゾミはその言葉にピンと来る。いろんなピースが順番にはまっていく。
「もしかして、それでモンスターの死体を触ってたの?」
「そうだよ。すぐに飛び散っちゃうから、なるべく死んですぐのほうがたくさん集まるんだけど」
「あのー、横からすみません。てことはノゾミさんは、手から炎を出せるようになったってことですか?」
ラトルが聞くまで、ノゾミはそのことに思い至らなかった。仕方ないだろう、超能力なんて存在は今まで頭の片隅にもなかったのだから。
「いや、いきなりは無理だよ。最初はマナを体に馴染ませながら、少しずつ量を増やしていかないと」
メドウスが言うには、体外に放出するにはまだまだマナの量が足りないらしい。残念そうに肩を落とすノゾミをメドウスは慰める。
「でも、運動能力は上がってるだろ?」
当たり前のように言うが、ノゾミとラトルはピンとこない。
メドウスは困った顔で説明する。マナは単なる炎の燃料じゃない、体を回る力なんだということを。取り込むだけで体力や筋力は少しアップする。そして――
「うまく使えばこんなこともできる」
メドウスは焼け残った工房の壁に手を付いた。メドウスの腕が蜉蝣のように、ほんの少しだけ揺らめいた。次の瞬間、壁はガラガラと音を立てて崩れ落ちていた。
馬鹿な。いくら火事でもろくなっていたとしても、そんな簡単に崩れ落ちるはずはない。
ノゾミはこの力を星外に持ち出した場合、何ができるだろうかと想像をめぐらせたが、どう考えてもろくなことになりそうにない。
「ところでノゾミさん。いつまでも訳語が『炎』のままだとすっごくややこしいんですが、謎も解けたところで、別の名前で呼びませんか?」
ラトルの口調は相変わらず呑気なものだが、その提案はもっともだ。ノゾミはさして考えもせず、『マヒア』でいいよと返す。
「んー、それでもいいんですけど、AI的にはちゃんと翻訳ができる単語がいいんですよねー。もともと辞書に存在しない言葉なんです、好きに選んでいいですから」
「じゃあマジック」
「うあー、そのまんまですねえ」
「筋力を上げるあれは、マジック・モーメント。瞬間的にしか使えないとはいえ、あれは炎よりもずっと有効だと思うわ」
似たようなやり取りをした記憶が蘇る。もしかしてノゾミは、ネーミングセンスが無いのだろうか。ラトルは今更ながら気が付いた。




