07-5
スチーヴの案内で東の森を歩いていくと、唐突に大きな岩があった。高さはそれほどでもないが、小さな家ならそのまま建てられそうな広さがある。
奥に人影。
二人の戦士は舞台に立つ。
立ち合い人は、スチーヴとバンクス。二人ともしょぼくれている。
後は剣を返してもらうだけだ。ノゾミの頭の中では、すでにこの件は終わっていた。安堵。負けるかもという考えは微塵もなく。
バンクスの手持ちの武力は、ゼームスが最後だ。それも既に壊れかけている。スチーヴからどこまでの話を聞いたか知らないが、自分の邪魔さえしてこないなら、それでいい。
ゼームスからしても、勝ち負けはどうでもよかったのかもしれない。何らかの決着がつきさえすれば。
「剣は?」
ゼームスが無言で剣を差し出す。薄汚い布が巻き付けてある。ラトルが確認し、間違いありませんと囁く。ゼームスはそれを後ろに向かって高く放り投げると、走りながら短剣を抜く。ノゾミは左手を持ち上げる。
閃光は無い。ただ、収束された光線が、ゼームスの喉を焼いただけだ。戦いにすらならなかった。ゼームスが前のめりに倒れるのと、剣が音を立てて地面に落ちるのと、ほぼ同時だった。
ノゾミは思った。ジェニファがそんなに大切なら、最初から私ではなく彼女を岩の上に呼べば良かったのだ。明るい岩の上でジミーだのジェニファーだの呼び合っていれば、それで良かったのだ。
「スチーヴ、後始末はお願い。それと、もうこの先、私の前に現れないでくれる?」
スチーヴは頷く。何か言おうとして口を開いたが、結局声にはしなかった。
バンクスはうなだれていた。ぶつぶつとつぶやいているのは、ノゾミに対する恨み言だろうか。
ノゾミは一瞥すらせず彼の前を通り過ぎ、そのまま森へと消えていった。
星明りを頼りに、来た道を戻る。
「だいたいあんたがレーザーを外さなければ、こんなとこまで来なくて済んだのよ」
「違いますー、あたしの照準はカンペキでしたー。旧式のFN-02なんて使ってるほうが悪いんですー」
「仕方ないでしょ、新型のN300だっけ? まだそんなに出回ってないんだから」
「そもそも仕留められなかったのは、煙で減衰したせいですよ。同型でもせめてN-55なら、たぶん大丈夫だったのに」
いつも通りのラトルとのやりとり。ずっと続いていたイライラが解消された自覚があるので、ノゾミも悪い気はしなかった。
ああそうだ、とノゾミはいい機会なのでラトルに聞いてみる。
「炎とマナのこと。あれって何なの?」
少しだけ沈黙した後、ラトルが答える。先程と違い、茶化さずに深刻そうな声で。
「わかりません。類似する現象はありますが、人間が道具無しで起こせるものはありませんし、この星のパーソナルデータにもそれらの記載はありません」
「センサーの反応は?」
「メドウスさんとゼノボアが炎を使用した場面で、共通して熱と風が検出されています。逆に言うと、それしか検出されませんでした」
ノゾミは腕を組み考え込む。物理現象を引き起こしている時点で、単なるまじないや妄想の域を超えている。
「あのー、街の図書館で調べてみてはどうでしょうか。この星のことはこの星に生きる人に聞くのが一番です。あたしとしても、ヘッドセットにダウンロードされてからはオフラインですから、新しい発見には外部データの取り込みが必要ですし」
ラトルの進言に、ノゾミも頷く。うん、確かに今できるのはそんなところかもしれない。
長い一日だった。
考えるのはもう止めだ。とりあえず明日、メドウスに図書館まで付き合ってもらおう。
ノゾミの脳みそは、七日だけ亭のふかふかベッドに先に飛んでいった。




