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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第7話 ボヘミアン・ロック
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07-4

 

 筋肉男と弓使いは目で合図し、頷き合った。ゼームスがやるのなら、下手に手を出さず援護に徹したほうが得策だ。そう判断したのだ。

 特に弓使いは焦っていた。薬の影響で、矢をつがえる手に細かい震えが出始めている。

 くそ、なんであいつはマスクも無しに平気な顔して立ってやがる。あの首をそっと刈り取るだけの仕事だったはずだ。熟れた梨のようなあの首を。ぼとりと地面に落ちて、そのまま崩れていればいいんだ。

 どんなに心の中で罵ったところで、あの女は涼しい顔で立っている。


 決め手を欠くノゾミは、ラトルに小声で相談した。

「ラトル、何とかならない?」

「36でも投げつければ一発じゃないですか」

「それをケチりたいから聞いてんじゃないの」

 ノゾミだってそんなことはわかっている。PK-36型閃光弾、あれは便利過ぎる。汎用性が高すぎるので、ついつい使い過ぎてしまうのだ。

 レーザーと違って弾数に限りがある武器をこんなチンピラ相手のイザコザに使うのは、ノゾミのプライドが許さなかった。


「もー、仕方がないですねえ。ソードマスタリーを入れてるのに、たかが三人にてこずるなんて」

 もともとこういう物言いなのか、性格ジェネレータの引きが悪かったのか。とにかく、戦いが終わったらこの忌々しい妖精をアンインストールしてやろうとノゾミは決心した。

「スキル、スピード+1を解禁。アーマー制御をセミオートへ変更、マスターからDHP-Oへ」

 突然ラトルは抑揚のない声で告げる。アーマーが高い音を立てて軽く振動し、宙に放り投げられたような浮遊感が全身を包む。

「来ますよ。10時方向、弓使いからです」


 ゼームスがノゾミの剣の間合いに入るのを合図に、弓使いが火蓋を切る。

 射線はノゾミの背後を通り過ぎる。もとより当てるつもりはなく、ノゾミの後退を潰す手。ゼームスが身を低くして短剣を振るう。

 斬り返したところで、体ごと組み付かれれば残り二人に潰される。右に回避する? 出来ない。そのスペースはすでに筋肉男が殺している。

 ノゾミは剣を手放し、ゼームスより低く身をかがめた。踏み込む。空間は一瞬でゼロになり、二人の体が重なる。ノゾミは体を翻して乱暴にゼームスを背負い投げた。


 筋肉男は弓使いに比べると冷静だった。逆にそれがいけなかった。ゼームスの体に隠れてノゾミを見失った筋肉男は、対応しようと速度を落としてしまった。

 ブーストされたノゾミには、その一瞬があれば十分だった。後ろ回し蹴りが首を薙ぐ。脚部のアーマーが男の首を逆方向へと折り曲げ、その体は芯を失い崩れ落ちる。


 弓使いが礫を放った。矢よりも避けづらいが、連携が無いならば敵ではない。地面が爆ぜる。火薬の臭いの向こうで、ゼームスがのろのろ起き上がるのが見える。

 弓使いに向けて地面を蹴りつつ、叫ぶ。

「照準を!」

 ラトルの照準補正。左手のレーザーがゼームスを打ち抜く。右手には既に予備のナイフを握っている。弓使いがなにかしようとしたが、間に合わなかった。首に刃が埋まっていく。


「はー、なんとか終わったー!」

 ノゾミは背伸びをしたあと、あたりを見渡してパンパンと服の汚れを払った。ナイフを拾い、剣を――

 ガタガタと這うような音。閉まりかけたドアの向こうで、ゼームスがこちらを睨んでいた。その手には、ノゾミの剣。

 一瞬で血の気が引き、扉へ走るが遅かった。閂でもかけられたのか、扉は重たくびくともしない。見渡しても他のドアも無い。


「ラトル、開けて! アーマーをフルパワーで!」

「え、無理ですよ、重た過ぎます」

「じゃあどうすんのよ、剣を持って行かれちゃったじゃない!」

「そんなこと言われても……」

 そうだ、バンクスだ!

 思い出したノゾミは、祭壇の奥に急ぐ。カーテンをめくった奥の通路を走る。階段を二段飛ばしで駆け上がり、途中にある小部屋はろくに索敵もせずに開けていく。


 幾つ目のドアだろうか、ついにあの紺色のローブの後姿を見つけた。ノゾミは血のこびり付いたナイフを向けて脅す。

「ゼームスってやつが逃げたわ、あいつの行きそうなところを教えなさい」

「ひい、もうたくさんだ、助けてくれ」

 振り返ったバンクスの顔には、ひどいあざがあった。おそらくゼームスだろう。クローゼットからガタガタと不自然な音がした。中からは縛られたスチーヴが出てきた。

 冷たい床に両手をついたバンクスを見ていると、何もかもが馬鹿らしくなる。


 バンクスはゼームスからの伝言を伝えた。今夜、街のはずれでノゾミを待つと。

 望むところだ。罠かもしれないが、逃げられるよりはいい。

 スチーヴとノゾミは、バンクスを連れて建物を抜け出す。そのまま北東にある森で、夜を待った。


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