07-2
メドウスと次にギルドで落ち合うのは、三日後の予定だった。戦闘を含む依頼をこなした冒険者は、普通は数日程度体を休めるものらしい。ノゾミは今日にでも戦えたのだが、それがこの星の慣習なら仕方ない。
どうせやることもなし、日課となった掲示板の確認をしにギルドへ向かう。
あからさまなノゾミ宛の依頼があった。
貼り出された日付は今朝のことだ。スチーヴを人質に、ノゾミを呼び出すためだけの依頼だ。まったく朝から不快にさせられる。
スチーヴは本当に捕らえられているのか、どこまで自分のことを知られているのかと、そのまま少し考えこむ。
「友人じゃなかったのか? 依頼、すぐに受けてくれると思ったんだがな」
唐突に、柱にもたれた男から声をかけられる。昨夜のアサシンとは違い、筋骨隆々とした男である。顔は伏せたままで、傍から見ると独り言だ。
会話には付き合うが、ノゾミも視線を合わせない。
「顔を知ってただけよ。ただの気まぐれだわ」
男に促され、ノゾミは渋々ついていく。二人は連れだってギルドを出る。
「ボスが君に会いたいそうだ。そんなに時間は取らせないさ」
「私は会いたくないんだけど?」
「ボスは強いやつが好きだ。ああ、弱い女も好きだがね」
噛み合わない会話。喋りながら男が先導する。まあいい、警戒したところで、どうせこんな明るいところで戦いを始める馬鹿はいないだろう。
歩きながら、ノゾミは小声でラトルに聞く。
「スチーヴが持ってた紙袋の中身、何だったの?」
「アルカロイド系の――、まあ、早い話が麻薬です。この都市での法律がどうなってるかは知りませんけど、大切に隠し持っていた時点で、お察しでしょうね」
昨夜はあえて聞かなかったが、予想していた通りの答えだった。
しばらく行ったところで、ある建物に入る。青い丸屋根の建物、何らかの宗教施設だ。古くなりはがれかけた壁画は星を拝む三人の老人。
看板には黄色の字で『千年の岩』と書かれていた。
この先だと言われ、ノゾミは素直にすたすたと歩いていく。今度は男がついていく形になる。
「根性あるな、お前」
呆れたような感心したような口調。ノゾミがろくに警戒する様子も見せずに歩いているからだ。
確かに傍から見ればそうだろうが、実際はラトルが電子の目で警戒している。モニターが使えないうちは宝の持ち腐れだった各種センサー類だが、機能自体は生きている。分析はラトルが受け持ち、時折音声で教えてくれていた。
扉がある。高いが、幅はそれほどでもない。その先は礼拝堂になっていた。
ゼノボアと戦った地下墓地を思い出す。並んでいるのが墓石か椅子か程度の違いだ。似たような場所を好むやつらだ、きっと思考回路も似ているのだろう。
紺色のローブを着た男がいた。痩せており、目の下には薄い隈がある。あまり健康そうには見えない。
筋肉男から「預言者のバンクス様だ」と紹介される。バンクスは良く通る声で囁くように言う。
「悪かったね、呼びつけて。実は君を、我が教団に招待したくてね」
「スチーヴはどこ?」
相手の会話に付き合う気はなかった。バンクスは不思議そうに首をかしげる。
「そんなにあの男が大切かい? 取るに足らないチンピラの一人だろう」
「私は彼を助けて厄介ごとに巻き込まれた。このまま死なれたら、巻き込まれ損だわ」
「ああ、それなら納得だ。人は手に入らなかった大金よりも、失った小金を気にする生き物だからね」
いちいち癪に障る物言いだ。
「早くやりましょうよ。時間がもったいないわ。私は暗殺者の仲間になって、あんたに使われる気はないの」
腰の剣を抜く。光る刀身を見せ、相手に交渉の余地のないことを伝える。
バンクスは宗教者らしく、心の奥までのぞき込むような視線を送る。
刺すような威嚇もなく、ただただまとわりつくような、ねっとりとした視線。自分からは決して目を逸らそうとしない。どこまでこちらのことを知っているのか、そのあたりの恐怖はお互い様だった。
スチーヴに何を聞いたのか、何か渡されたのか。答える気が無いのなら、そのまま闇に葬ればいい。
お互い様だ。ノゾミだってそう考えている。異世界に来て早々に、低俗な悪意で足を引っ張られるのはごめんだった。




